本研究では、地域大国インドの農業者および農村の問題をあつかう。インド農村の特徴として、農業に従事する人々は多様であり、内部に
大きな格差を含んでいる。にもかかわらず、ナショナリズムやネオ・ポピュリズムの政治や社会運動において、しばしば「村落共同体」として農民の利益が一枚
岩的に表象されてきた。それによって貧困や剥奪など農村が抱える問題が覆われてきた。農村部において、階級意識が十分に育たない中、カースト・ネットワー
クが村落と国家の接点としての「中間集団」を形成し、政治的利益集団として重要性を高めてきた。こうした「カーストの政治化」現象は、これまでも常に指摘
され、議論されてきた。しかしながら、それはサバルタン(下層民)の政治化やアイデンティティ・ポリティクスの潮流として語られるのみで、「カースト」が
特定の地域社会において何を意味しているのか、個々人がカースト内存在として地域社会、ひいては国家とどのように関わろうとしているのか、行為主体の側に
たった具体的な分析は見られない。本研究では、農民がもつ種々の社会的ネットワークを分析し、農民自身が自らの問題をどのように理解し、地域社会や国家や
グローバル市場というマクロ社会に対し、どのように自己を表象するのかを考察する。
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