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Beyond the Empire: Images of Russia in the Eurasian Cultural Context

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Приднестровье в макрорегиональном контексте черноморского побережья

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「中世ロシアの法と社会」

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「文化研究と越境:19世紀ロシアを中心に」

21 世紀COE 総括シンポジウム「スラブ・ユーラシア学の幕開け」


◆ 地球化時代における新たなスラブ・ユーラシア研究

地球化の時代

 現在は地球化(グローバル化)の時代と呼ばれ、アメリカが一極集中的に世界を牽引する体制が生まれようとしています。 地球化といっても実際にこの言葉が使われるときには、様々な意味で用いられ、国際化との区別も、多くの場合はっきりしません。あえて区別するなら、国際化 は国や地域が世界に向けて門戸を開くことに重心が置かれるのに対して、地球化では地球上の様々な地域に向けて特定の規範が普遍的なものとして浸透して行く ことに力点が置かれるという違いが あるかもしれません。さしあたり、このように地球化を考えておきますと、よく似た言葉に近代化があります。19-20世紀は近代化の世紀だったと言われま す。ではこの近代化といま問題になっている地球化はどこがどう違うのでしょうか。地球化は近代化を徹底させたものだ、という理解があります。近代化は西欧 近代が生み出した「市民社会」という価値体系とそれに伴うさまざまな規範が世界的な規模で広がることを意味しています。

以下では、まずこの近代化と世界秩序について歴史的な概観をし、なぜ旧社会主義圏の変化と地球化を同時に考えることが必要 なのか、説明しておこうと思いま す。もっとも19世紀から現代にいたる二世紀を全体としてどう理解するかは歴史学上の大問題です。またこの研究プログラムで明らかにしようと考えているス ラブ・ユーラシア地域の中域圏的な再編成も大きな論争のあるテーマです。だからこそ今回のような大きな企画を立てて研究することが必要となったのですが、 以下で述べることも、そうした論争の中で生まれた仮説的なものであり、拠点リーダーの見解を強く反映したものであることは言うまでもありませ ん。

近代化と冷戦構造

市民社会とは人々が自由主義原則に基づいて資本主義経済と民主政治を運営する社会のことです。日本も19世紀の中葉に幕 藩体制や身分制度を廃止し、近代化 を開始しました。もっとも、近代化のための教科書があらかじめ用意されていたわけではありません。西欧以外の地域が西欧の諸制度を取り入れる中で、次第に 規範としての「西欧近代」なるものが確立していったのです。こうして、19世紀には多くの地域で旧体制の解体、そして近代化の推進という大きな社会変容が 起こりました。しかし20世紀に入ると、近代化は世界的、地域的、階層的な富の不平等、世界大戦の勃発、あるいは世界が近代化の「先進」地域と近代化の進 まない「周辺」地域へと分裂するなど、深刻な問題に直面しました。その結果、西欧的近代に対抗する様々な勢力が政治的に力を持ち、ロシアにおいては社会主 義を標榜するソビエト国家が建設され、ドイツ、イタリア、日本などではファシズム体制が生まれました。ファシズム国家は第二次世界大戦で敗北し、崩壊しま した。しかし、今度はソビエトとアメリカの間で世界の諸地域を隅々まで二分しようとする東西冷戦が始まりました。

この間、「周辺」地域の多くは近代化の先進地域によって植民地化されましたが、冷戦の時代になると、東西の対立を梃子とし て、それまでの植民地体制から脱却し、多くの地域が自分たちの国家を持つようになりました。さらにはこうした国が集まって東西陣営のどちらにも属さない 「非同盟」という第三の勢力を創り出しました。こうして、西欧近代を起点とする世界秩序が冷戦構造として再構築されました。

地球化と地域紛争

今から十年余り前まで存在していた冷戦体制とは、こうした世界秩序のことです。単にアメリカに対抗してソ連・東欧の社会 主義圏が存在していた、という二極構造ではありませんでした。ソ連・東欧圏の存在はそれ自身でユーラシア大陸の北半分、陸地面積にして約2400万平方キ ロ(世界の6分の1程度)を占め、人口では4億人程を擁していたのですが、世界史的な意味という点では、それ以上の大きな存在でした。従って、ソ連・東欧 社会主義圏の崩壊はその地域自体が変動する振幅を越えて、世界秩序の再編を不可避とせざるを得なかったのです。ソ連東欧諸国が位置した巨大な空間であるス ラブ・ユーラシア地域の変動が震源となって、冷戦後に深刻な地域紛争がこの地域の周縁で次々と起こったのは偶然ではありません。ユーゴスラビア、カフカス (コーカサス)、そしてアフガニスタンなどでの内戦、印パ核開発競争、そしていま問題になっている大量殺戮兵器疑惑に端を発したイラク戦争や北朝鮮の核開 発も、安定的な世界秩序が未だ形成されていない証しです。

地球化とは冷戦構造に代わる新たな世界秩序形成の試みです。しかし地球化はこれまでのところ、世界に平和をもたらすより も、むしろ様々な地域紛争を拡大 し、さらには誘発さえしています。また地球化は地域紛争を地域内の紛争としてではなく、地球全体が対処すべき問題だと認識します。今回のイラク戦争が象徴 するように、中立的な立場を取ることは困難です。また9.11同時多発テロで明らかになったように、地球化時代の地域紛争は現実にも地域内に留まらず、紛 争の場を世界中に押し広げ、わけても地球化を推進するアメリカの内部に直接作用し、深刻な影響を及ぼしています。つまり地球化においては、「紛争地域」と されるか、あるいは「テロ」の標的とされるかという違いはあっても、世界全体が紛争の当事者となるのです。

世界と地域の相互作用

かつての近代化においてもこのような側面はある程度ありました。しかし地球化においては近代化と比べものにならないほ ど、世界の諸地域と世界全体との関係が直接的です。また同時に個々の地域の問題がそのまま地球全体の問題へと直結しています。つまり地球化とは、冒頭で述 べたように、一面で世界の各地域に向けて共通の力が作用している事態を指しますが、同時に、その反作用として、それぞれの地域が世界に向けて様々な影響を 及ぼす関係も含んでいるのです。地球化とは、地域と世界が双方向に直接的な作用・反作用を及ぼし合う関係です。

このように整理するなら、地球化は近代化の単なる延長線上にあるのではないことがわかります。つまり、地球化は西欧近代が 誕生するための必須条件だった国民国家、あるいは主権国家の基礎を掘り崩しているのです。つまり国民国家は、外に対しては他国による内政介入を排除し、内 に対しては国民の財産と権利を守る枠組みでした。また国家主権を相互に尊重しあうことが近代国際社会の絶対的な原則でした。従って、世界への近代化の浸透 は同時に国民国家の拡大でもありました。実際、植民地化されていた地域でも、冷戦時代に独立が達成され、国民国家体制が全世界規模で成立しました。ところ が地球化においては、近代化と表裏にあった国家主権の絶対性が否定されているのです。国家主権を尊重するならイラクへの一方的な侵攻などありえません。冷 戦時代に行なわれたアメリカやソ連による第三国への武力介入も、形式的には当事国の承認の下におこなわれたことになっています。

さらに重要なことは、地球化時代における国家主権の否定が双方向だという点です。つまり国家の主権が危機に瀕しているのは アメリカの「正当な」軍事介入を受けているアフガニスタンやイラクだけではないのです。軍事介入を行なっているアメリカ自体も、実は、テロという名で軍事 介入の反作用を受け、日常的に国民が自国領内において外国の直接的な攻撃をうけるかもしれないという脅威と恐怖にさらされているのです。自国民の生命や日 常生活が恒常的に外部の力によって脅かされるという事態は、まさに主権侵害以外の何者でもありません。またテロ対策の名の下にアメリカ国家自身が自国民の 権利を日常的に制限するようになっています。さらに、アメリカに限らず、多くの欧州諸国や日本なども中立化の道を閉ざされ、アメリカに並ぶ「テロ攻撃」対 象国に加わえられることで、地域紛争の当事者となっています。近代国家が国民に保障した財産と権利の保全、その最大のものが人命ですが、それが地球化の中 で危機に瀕しています。

国民国家神話の崩壊

アフガニスタンやイラクでの軍事介入やそれをめぐる国際外交を目の当りにすると、地球化時代においては国家が強化されて いるように見えます。しかし実際にはいま述べたように、国家の境界が失われつつあります。もっとも西欧以外の世界の多くの地域では、そもそも国民国家の絶 対性がそれほど自明なことではありませんでした。アジアやアフリカにおける国境がいかに人為的なものであるかは、いまさら改めて強調する必要はないでしょ う。その意味で、国民国家という神話が崩壊しつつあると言った方が正確でしょう。

1980年代末から1990年代始めにかけてスラブ・ユーラシア地域の社会主義体制が崩壊し、その結果として東ドイツが消 滅し、さらにソ連、チェコスロヴァキア、ユーゴスラヴィアという連邦国家も姿を消しました。絶対だと信じ込んでいた社会主義と国家の双方が人々のひと突き で崩壊したのです。まさに地球化時代を象徴する出来事でした。現在、この地域には合計27に上る国家が存在していますが、国家の有り様は多彩です。例え ば、欧州統合に加わろうとしている国では、獲得したばかりの国家主権に大きな制限が加えられることに同意しなくてはいけなくなりました。ロシアとソ連継承 国との関係もどこまでが内政でどこからが国際関係なのかはっきりしません。ロシアはこれらの国を「近い外国」と呼び、完全な外国だとは考えていません。さ らに沿ドニエストルやアブハジアのように「ロシア軍」の介在によって事実上の独立を維持している地域もあります。これらの半独立国は国際的な認知を得てい ないので「未承認国家」と呼ばれていますが、国家なのか、自治州なのか、それともロシアの一部なのか明瞭でありません。

社会主義体制崩壊後に生まれたスラブ・ユーラシア地域の諸国家は体裁としても、実質としても、近代的な国民主権国家とは言 い難いのです。イラクやアフガニスタンは国際的には主権国家でありながら、アメリカの軍事力によって事実上の国家主権を奪われています。どちらも地球化時 代における新しい国家のあり方を象徴しています。

社会主義後のスラブ・ユーラシア地域を全体として研究することはとりもなおさず、地球化時代における世界のあり方を研究す ることでもあり、地球化という要因抜きにスラブ・ユーラシアの今も将来も語ることはできないのです。

学術研究でなくても、認識の対象が大きく変わったり、新しい認識対象が現れたときには、それに相応しい分析の方法論を見つ け出さねばなりません。この研究教育プログラムでは、以上で述べたような社会主義の崩壊、そしてその後の世界秩序の再編という大きな変動を受けて、どう現 代世界を理解するのかが、考察の対象となっています。「スラブ・ユーラシア学の構築」とは、変動期にあるユーラシア新秩序を包括的に分析するための枠組づ くりであり、同時に世界の様々な地域を地球化時代に相応しい方法で研究するための共通の土俵づくりでもあります。

平成16年6月7日


拠点リーダー
家田修
E-mail:ieda@slav.hokudai.ac.jp



21世紀COEプログラム「スラブ・ユーラシア学の構築」の採択について



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