(要旨)
本報告は、COEの基本コンセプトである「中域圏」に着目し、旧来の地域概念や既存国家の枠組を越えた胎動が可視できる中国とロシアの国境地域を材料に、
新たな地域形成の現実と理論的動静を読み解いてみた。
現実的前提としては、中国とロシアの4000キロを越える国境問題が解決された結果、国境地域の透明性が高まり、安定が確保され、また人々の国境を越え
た移動が自由になったことにより、中国(アジア)とロシア(ヨーロッパ)の一種の文化的接触が始まった。これは中国人移民問題や様々な摩擦と軋轢を伴うも
のでもあるが、分析の俎上にあげるべきひとつのエリアの形成ともみなしうる。
理論的にこのエリア形成を敷衍すれば、世界のグローバリズム化が進展し、経済の相互依存、政治の一極集中という方向性と軌を同じくしている。国境の地域
新形成は、ロシアと中国の「パートナーシップ」形成とも深く結びついている。これは身体性を越えた「帝国」=一種の世界政府とシンクロナイズした動きであ
り、20世紀までの世界秩序構成とは異質の展開がすでに進行していることを、リージョンレベルで窺い知る手がかりとなろう。ここに地域研究が、「帝国」の
時代においても、なおかつ意義を有する点が存することは疑いもないが、同時に「中域圏」構想を始めとするこの種の地域研究が担うベクトルは、かかる方向性
と共鳴することが予想される。このベクトルを世界「帝国」の一翼を担うべきものと理解し、危険視し抵抗するのか(自らを「テロリスト」と宣言すべきだ)、
あるいは、それとも自ら「帝国」の積極的住人になり、それを支えようとするのか(正直にブッシュ支持を告白せよ)。地域研究者は、十分に自覚をもった上
で、この事業に参画すべきであろう。
(レジュメ)
0 はじめに
若干の言い訳/国家に対する個人的ポジショニング/中・ロ国境を歩いて考えたこと
/国境の透明化と「間=地域/国家」アプローチ
1 隣接国家の現実(→中ロ関係の
場合)
3つのモメント
(1)国境画定と安定化の重要性:領域確定と安全保障(相互・外)
→1991年東部国境協定(97年履行宣言)・1996年上海協定
(2)確定後の脱領域化(経済協力+「新しい脅威」への共同対処)
→特に「中国人移民」問題(「中国脅威論」)
(3)「世界政府」形成への参画
→「戦略的パートナーシップ」:「多極化」「国際関係の民主化」
2 中ロ国境4000キロ・ツアー
(1) 沿海地方: ハサン(中朝ロ三国国境)
トゥリーログ-密山(ハンカ湖) 虎林-マルコヴォ
ウスリー河 (ダマンスキー/珍宝島)
(2) ハバロフスク地方:ビキン-饒河(ウスリー河)
ハバロフスク-撫遠(アムール河)
カザケヴィチェヴォ-烏蘇(ウスリー河)
←ホリショイ・ウスリー島とタラバーロフ島問題
(3) ユダヤ自治州:アムルゼット-名山(アムール河)
(4) アムール州:ブラゴヴェシチェンスク-黒河(アムール河)
ジャリンダ-リャンイン(アムール河)
→アルバジノ、洛古河、ポクロフカ、アムール源流
(5) チタ州:メンケセリ(アルグン河)
ボリショイ島(アバガイト)-アルカ(アルグン河)
ザバイカリスク-満州里
3 地域新形成の組織化と重層化
上海協力機構:ウズベキスタンの積極化、モンゴル加盟から南アジアへの拡大
ASEAN地域フォーラム
6カ国協議:北東アジア集団安全保障組織化の第1歩
おわりに-「世界政府」と地域新形成の行方