キルギス共和国における 急進主義的構造改革と企業行動* −制度分析−

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3.国家経済管理システムの再編と政府−企業間関係

 市場経済化の進展に伴い、国家経済管理システムも抜本的再編を必要とする。旧ソ連諸国にとってその大前提となるのは1970年代に確立したソ連独自の工業管理制度(45)であり、各国政府にとって、そこに蓄積された資本及び人的・情報的資源を如何に再利用するかが、改革始動期における焦眉の課題であった。何故なら、これらソ連期に培われた経済資源は、放置すれば膨大な埋没費用へ転化し、国家の経済運営上も多大な損失となるからである。キルギス政府もその例外ではなかった。事実、同国で実施された経済管理システムの再編策も、既存組織の統廃合と経済管理権限の再分配という形態を以って実施された。

 キルギス政府が行った第1の再建策は、部門別工業諸省の「経済連盟」(хозяйственное объединение)への転換である。この方策は、工業管理制度の再建策としてソ連邦全土で展開していた組織改革を継承している。即ち、1991年下半期の時点で、多くの部門別工業省が国家コンツェルン、コンソーシアム、アソシエーション等の経済連盟へ再編され、活動分野が重複する部門連合管理局は、これら企業グループへ吸収合併された(46)。経済連盟は、「企業法」3条及び「私有化基本法」29条等の規定によって法人格が付与され、1.2節で触れたように連盟への加入及び離脱は、国家的強制でなく、企業の自主的判断に基づくものとされた。なお、法的ステータス変更後の経済連盟の勢力範囲であるが、マイクロデータ分析によれば、1992-94年上半期においては、建設資材業、軽工業及び食品工業を中心に、連盟を離脱した企業が標本集団全体の25.6%に達したが、続く1994-96年上半期においては、離脱率は3.8%に低下し、結果として経済連盟が工業企業を包括する範囲は40%強程度に保たれた(表8)。これは、旧部門別工業省を母体とする経済連盟の多くが公的法人として政府内に止まり、以前と同様に所管官庁と企業との利害関係を調整する中間組織として機能することにより、一定の政治的・経済的求心力を保持しているためと考えられる(47)

 第2の再建策は、政府経済機関の統廃合である。部門別工業省の大幅な削減を達成したアカエフ政権は、1992年2月には14省7国家委員会を中核とする新体制を発足した。この新たな政府機構の下では、工業・エネルギー省を筆頭に、経済財務省、労務要員・企業家育成国家委員会及び国家資産フォンドが工業政策を担当する主たる国家機関となった。なお政府は、1996年12月に再び広範囲な組織改革を実施しており、この結果、工業企業を主として所管する機関は、対外貿易・工業省、経済省を吸収合併した財務省及び国有資産フォンドの3機関に集約された(48)

 第3の再建策は、経済管理権限の再分配である。ここには2つの要素が含まれる。第1の要素は、国家資産フォンドの権限拡充と組織的地位の向上である。1992-93年の私有化段階において、株式会社化した工業企業の株式を約47%留保した政府は、経済諸省や経済連盟にその管理権を分与した。この結果、これらの組織はあたかも持株会社の如く機能することで、企業私有化の円滑化を妨げたと批判された(49)。この弊害を除去するために政府は、94年2月に国家保有株式の管理権を国家資産フォンドへ集中する英断を下し、約2年後の96年3月には、国家資産フォンド議長の地位を大臣職に引き上げた(50)。以上の措置による国家資産フォンドの権限強化に伴い、下部機関である地方資産フォンドへは、資産管理対象となる私有化企業の財務及び経営実績に対するモニタリング権、並びに経営活動への介入権が託され、単なる資産管理者を超えるより積極的機能が附加された(51)

 第2の要素は、国家資産フォンドと他の政府経済機関との間の権限関係の変更である。国家資産フォンドの権限拡充に伴い、当然の如く生起したその他政府機関との衝突は、1995年12月に政府が下した「決定」(52)により一定の解決をみた。同決定では、国有企業、並びに資産の一部を国家が保有する国内企業の管理責任に関して、政府諸機関の権限範囲が以下のように規定されている。

(1) 国有企業の設立は、国家資産フォンド、経済省、財務省、地方行政府及び他の政府所管省庁の共同提案に基づき政府(即ち、閣僚会議)が決定する。

(2) 国有企業の改組や解散は、政府の合意の下で国家資産フォンドの国有企業改組・解散局が決定する。

(3) 国家資産フォンドは、国有企業資産の所有者として政府を代表する。

(4) 国家資産フォンドは、国家資産の経営委託や賃貸等を実施する。

(5) 各省庁、国家委員会、地方行政機関は、国家資産フォンド及び地方資産フォンドの合意の下で、1.所管部門に属する国有企業の定款の承認、2.企業長の任命と解雇、3.企業長との雇用契約の締結・変更・破棄等を行う。

(6) 国家資産フォンド及び地方資産フォンドは、省庁、国家委員会、地方行政府機関の合意の下で各種企業監査を実施する。

 以上の考察から、国家資産フォンドを含む政府機関、経済連盟、国有・私有化企業をつなぐ新たな相互関係を描くことができる(図2)。この構図からは、大幅に権限強化された国家資産フォンドが、資産管理者として政府部内で相対的な優位性を保つ一方、他の政府機関も、所管部門に属する企業群に対して重大な影響力を発揮することで、国家資産フォンドに拮抗するという複雑な権限関係が看取される。言い換えれば、キルギスタンの新しい政府−企業間関係は、国家資産フォンドとその他の政府機関の諸権限が交錯する多元的管理システムであり、政府として首尾一貫した企業監督行政がなし得るのか甚だ疑問が残る。同時に、人的・物的資源が不充分といわれる資産フォンドは、約6500社の私有化企業に対して、十分な外部監査機能を果たし得ないと批判されている(53)。元来、国家による企業管理は、政府官僚と企業経営者との間に「温情主義的」ないし「縁故的」関係を生み出す性向があると長年論じられてきたが、政府の新企業管理体系は、政府組織内部の責任分担すら不明瞭化させ、この問題に一層拍車を掛ける恐れがある。事実、新たな政府―企業間関係の下でも、工業企業の国家依存や政府の優柔不断性を示唆する事例は枚挙に暇がない。ここでは4つのケースを挙げる。第1に、改革当初に政府が示した企業再建策の基本方針とは裏腹に、国有企業および私有化企業に対する国家財政からの赤字補填は、例えば97年度予算において約3億2000万ソムの企業補助金(財政支出の約6%)が計上されるなど依然として継続しており、政府の惰性的行動が国際金融機関から非難されている。

 第2に、輸入品との競争激化や原料価格の高騰等から、危機的な業績不振に陥った軽工業・食品工業企業を全面的に救済する措置として、政府は95年7月に農産物原料買い付けのために1億ソムを国庫から拠出した他、軽工業企業の累積債務を国家債務へ付け替える等の産業保護策を発動している。第3に、赤字企業に対する政府の破産勧告は極めて散発的に行われ、また97年半ばまでに破産法適用が提訴された赤字・休止企業250社についても、解散ないし改組決定が下されたケースは各々14社、25社に過ぎないなど、司法機関の情報処理能力もさることながら、企業倒産に対する政府の消極的姿勢が問題視されている。最後に、労働者の賃金支払要求に対する財務負担の軽減と、失業者増大に基因した社会的緊張を回避する臨時策として、従業員に長期余暇を与える行政指導が広く勧奨された結果、95年には国内企業の63%が、96年には57%がこの措置を採用したが、この種の行政指導は、産業政策というよりも、根本的企業再建が惹起する政治責任の回避行動であるとの見方が強い(54)

 以上例示された企業の政府に対する依存性が維持される中で、国有企業、並びに政府が一定の支配力を持つ私有化企業が中枢を占める産業組織と、独占ないし寡占的市場構造が結合する生産体制こそが、急進主義的構造改革の結果形成された工業部門における制度配置状況の特徴となっている。かかる状況下では、市場経済的な企業活動の自由を保証する制度環境をどれ程整備しても、活発な企業淘汰を促す経営合理主義が十全に機能する余地は少なく、企業レベルにおいて自律的経営再建が前進しないのも無理からぬことと思われる。

4.企業行動に関する実証分析

 以上の考察によってその特徴が解明された制度構造の下で、個々の企業が如何なる行動をとったのかが問題として残されている。そこで本節では、工業企業の経営行動を分析し、これまでの議論についてその妥当性を検証したい。なお、キルギスタンでは、分析期間において総工業生産が大幅に縮小し、部門別で見ても、鉄鋼業、化学・石油化学産業を筆頭に殆どの部門がソ連末期の生産水準を大幅に割り込んだ(表9)。他方、同国の工業生産は1997年に飛躍的成長を遂げているが、これはクムトル金鉱開発の結果に過ぎず、非鉄金属産業、並びに金鉱開発投資の恩恵を受けた建設資材産業を除けば、同年においても各部門の生産動向に著しい改善は見られていない(55)。それは、主要工業品目の生産量に関する時系列データ(表10)によっても如実に示されている。このように工業企業の大多数は極めて困難な状況に陥っており、営利組織として存続するためには、生産規模の大幅な下方調整を伴うドラスティックなリストラが不可欠であった(56)。従って、以下ではかかる状況に留意しつつ、企業行動を生産構造面及び財務面から検討を行う。

4.1 生産構造面の企業行動

 表11は、企業当りの平均従業員数の変化を示している。標本集団全体の従業員減少率 (-46.2%)は、公式統計に基づく工業従事者数の減少率(-41.1%)とほぼ一致している(57)。同表によれば、電力及び製粉・配合飼料部門を除く12部門において、従業員数の大幅な減少が観察し得るが、特に1995年末の時点で生産低下が最も激しかった化学・石油化学、機械・金属加工、建設資材、軽工業部門では50%を超過する人員整理の実施が認められた。

 次に、従業員当りの固定資本額の変化を示す表12によれば、上記の大幅な人員整理にも拘わらず、工業全体においても、また燃料部門を除く各部門においても、労働者資本装備率の著しい低下が確認されており、1992-96年上半期を通じて、固定資本の減耗が従業員の削減を上回るテンポで進んでいたと推測し得る。これは、92年以降の設備更新活動が極めて低調に推移した結果、97年半ばに至って生産設備の減価償却率が、工業全体で60%に達する「危機的」状況を反映するものと考えられる(58)

 表13は、労働生産性の変化を示している。1992-96年上半期における企業従事者数の削減率は、同期間の生産減少率とほぼ平衡しているが、それでもなお多くの部門が、労働生産性の低下を回避し得なかった。即ち、燃料及びガラス・陶磁器部門を除き、従業員一人当りの生産高は25〜84%の範囲で減少し、工業全体の労働生産性も60.6%下落している。標本集団によって実施された人員削減による生産合理化は、固定資本減耗や市況の劇的な悪化によってその効果が相殺され、総体として労働生産性の低下が現れたものと考えられる。なお、以上と同様の分析を、所有形態別に行った結果が表14に示されている。同表からは、企業当りの平均従業員数や労働者の資本装備率について、国・公有企業と私有化企業との間に顕著な差が看取されるものの、労働生産性の減少率では、これら2つのカテゴリーに殆ど違いは見られなかった。

 表15は、1992-94年上半期及び94-96年上半期の2期間において、各社が製造・販売する商品内容の変動を示すものであり、当該期間におけるイノベーション活動の一端を表している。新製品投入や製品ラインの全般的改定といった積極的経営戦略を展開した企業は、1992/94年上半期において12.9%、94/96年上半期において15.0%に過ぎず、その他大多数の企業は、旧来の製品体系をそのまま維持している。本稿のマイクロデータ分析では、品質面の改善度は検証し得ないが、設備更新が殆ど為されない状況下で、各企業が品質向上を行う余地は極めて限られていたと考えられる。

4.2 財務面の企業行動

 財務面での企業行動の実態把握に当っては、先出のコザルジェフスキ調査が有益である。何故なら同調査は、キルギス工業の部門構成や企業の規模的分布に配慮した上で、私有化された工業企業約40社の財務諸表を用いた個別調査を軸に、1995-96年における工業企業の経営状態について、資金循環面から綿密な分析を行っているからである(59)。但し、ここでは同調査内容を詳らかにするのではなく、具体的分析結果を折り込みながら、その主要な結論について以下6点を述べ、先のマイクロデータ分析を補完するに止める。即ち、

(1) キルギス工業企業に関する財務分析は、改革対象となった企業を含め、工業企業の財務状況は複雑で一様でない点を明らかにした。部門、規模、収益性、国家株式保有比率等の基準で区分された企業グループ間で、財務指標と経営状態の変化に明確な差異が生じているが、グループ間の著しい格差にも拘わらず、経営状況の悪化傾向はどのカテゴリーにおいても広範に観察される。

(2) 事実上全ての産業部門で、製品コストの上昇率が総売上高のそれを上回り、収益力の低下が回避されていない。工業企業全体の経常利益率、売上総利益率及び純利益率の平均値は1995年において各々18.8%、19.1%、12.2%であったが、96年には10.5%、11.8%、7.7%に低下した。また財務諸表に基づく個別調査の対象となった私有化企業については、同様の指標が95年の15.7%、14.9%、9.9%から、96年には8.5%、8.7%、5.4%へと低下し、収益力の悪化は工業全体の趨勢よりも顕著であった。

(3) 企業間債務未払問題の危機的状況を反映して、債権・債務バランスに占める買掛金及び売掛金の累積額は、支払期限超過分を含め極めて巨額に達している。特に、食品工業、軽工業、機械製造業では、支払期限が超過した売掛金(A)と当期純利益(B)との相対的比率(A/B)が各々5.22、2.20、2.29となるなど、深刻な様相を呈している。

(4) 個別調査対象企業40社の大半は、経常的経営活動の維持を自己資本に依存し、更に圧倒的大多数の企業が様々な理由から銀行信用を導入していない。これら企業の総資本に占める自己資本と他人資本の比率は1996年末の時点で各々82.5%、17.5%であり、自己資本に属する内部留保金の比率は34.6%であったのに対して、他人資本に占める銀行信用の比重は僅か10.5%であった。また流動資金は「伝統的」に、運転資金の充当(16.0%)と「社会発展」項目(17.1%)に費やされ、投資やR&D活動に対する資金供給は殆ど為されていない(3.1%)。更に、調査期間に配当金支払を行った企業は全体の15%に止まり、総資本の僅か3.9%が株主へ還元されているに過ぎなかった。

(5) 多くの企業が新しい経営条件への適応や財務状態の改善に向けた努力を行い、それは支払い能力、財務の自立性、完成品回転率やキャッシュフローに係わる各種指標の改善に結果している。しかしこれら改善された諸指標も依然として低水準に留まっている。また本来財務の安定性を示す諸指標の改善が、キルギス企業に関しては、寧ろ他人資本の調達困難性に起因するケースも多く、その評価には一定の留意が必要である。

(6) 比較的小規模な企業の財務状態は、大企業よりも総じて健全であり、かつ完全に民間化された企業は、国家が株式所有権を保持する私有化企業よりも財務指標のより望ましい改善化傾向が観察される。しかしながら、1995-96年における黒字企業の財務悪化とは逆に、赤字企業における健全化傾向が観察し得る等、工業企業の財務状態は、所有形態や統治構造に依らず依然として流動的である(60)

結 語

 前節の分析結果からは、工業企業の大多数について、第1に、体制移行初期における深刻な景気後退に対する生産構造の調整が大幅に遅滞していたこと、第2に、長期企業戦略に不可欠な設備投資やイノベーション活動が極めて不活発であったこと、第3に、資金循環面からみた経営体質も望ましい状態からは程遠いこと、第4に、国・公有企業と私有化企業との経営状況にさほど大きな差が観察されないことが明示されている。キルギス共和国の「急進主義」構造改革は、一部の改革支援国や国際金融機関から高い評判を得ているのは先に述べたとおりである。しかし、本稿の考察結果は、市場経済への中間的進化形態として生じた同国の制度配置と、これに規定される企業行動の問題点は、移行初期における競争的市場環境の拡大にとって極めて深刻な阻害要因であったこと、そして将来において時間経過と共に自然かつ速やかに解消され得る性質の障害ではないことを明らかにしている。

 制度進化の累積性という観点からすれば、社会主義から資本主義への移行形態は多様であり得るし、その過程で創発する各国の経済システムに独自性が見られるのも論理上当然である。しかし旧社会主義諸国で現在進行しているプロセスが、より適切な資源配分や生産効率の追及を目標とする限り、経済体系の「特殊性」は、様々な環境変化に対する産業や企業組織の適応力を高める対応様式の「差異」としてのみ是認され得るのではないか。改革努力の傾注度という点で、キルギスタンは、他のCIS諸国に決して引けをとる国ではない。しかしそのキルギスタンをして、既存諸制度を再転換するために更に多くの社会的資源の投入が必要とされるところに、体制転換という歴史的画期の難しさが表れている。

【補 論】

 ここでは「私有化基本法」及びその他関連諸法に基づく企業私有化の規範的枠組と、「改正私有化法」制定後の制度変更点の概略を述べ、本稿の補論とする。なお以下の整理は、私有化基本二法の他、1991年8月7日付「国営・公営企業の非国家化と私有化に関する条件と手続に関する規則」、1991年8月13日付「コンクールに基づいて私有化される国営・公営企業の売却に関する規則」及び「オークションに基づいて私有化される国営・公営企業の売却に関する規則」、1992年1月10日付「国有及び公有資産の売却のために用途特定化された「特別支払手段」に関する規定」、1995年8月9日付「国有資産の非国家化及び私有化の条件と手続に関する規定」、 1998年6月23日付「1998-2000年の国有資産の非国家化・私有化プログラム」に依拠するものである(61)

S1 「私有化基本法」を中心とする企業私有化の規範的枠組

(1)私有化監督・実施機関:1.私有化政策を総合的に立案・組織する機関はキルギスタン共和国国家資産フォンド(以下、国家資産フォンド)であり、中央政府の国家委員会と同等のステータスを有する。国家資産フォンドは、国有資産の所有者として共和国の利害を代表し、共和国最高会議に委任された権限に基づき国有資産の所有、利用及び処分権を持つ。また国家資産の私有化に関する決定を行う。2.州及びビシュケク市国家資産フォンド(以下、地方資産フォンド)は、公有資産の私有化に関する決定を行う。また国家資産フォンドと共に、私有化の優先度・規模・段階、資産リスト、売却金の使途、私有化対象外の部門・グループを規定した私有化プログラムを策定し、大統領及び各議会の承認を受ける。3.私有化に関する決定後、各資産フォンドは私有化委員会を設置する。同委員会には各資産フォンド、企業管理部と労働集団、議会、金融機関、銀行の各代表及びその他の専門家が参加する。私有化委員会は、私有化の形態と期間、財産目録、企業資産価格、並びに支払方法と購入者に対する優遇措置等を勧告する私有化プランを策定し、各資産フォンドに提出する(62)

(2)私有化手段:1.賃貸企業、株式会社、協同組合ないしその他集団所有企業への転換。2.国民及び国内法人による株式会社及びその他集団企業の国家保有株式の取得。3.賃貸されている国有・公有企業の賃借人による買取り。4.コンクール(契約条件付き競争入札)。5.オークション(競売)。6.国有・公有企業の市民、外国企業を含む企業への経営権の委譲。7.「特別支払手段」を用いた無償譲渡。

(3)私有化実施過程:1.私有化プログラムの諸規定及び同プログラムに含まれない国家資産に係わる私有化申請に基づき、各資産フォンドは、私有化形態及び支払方法に関する決定を行う。2.私有化委員会が設置され、同委員会は私有化プランを各資産フォンドへ提出する。3.私有化プランを労働集団へ送付する。労働集団が第一次プランを却下した場合、各資産フォンドは第二次プランを提示し、再却下の場合はフォンド側で最終決定を下す。4-1賃貸企業、株式会社及び他の集団企業への転換、賃貸企業の賃借人による買取りは、関連法令に基づき実施する。4-2労働集団が所有する企業への転換は、各資産フォンドの諸決定及び当該目的のために労働集団が設立する法人との企業資産購入契約に基づき実施する。当該法人は、契約署名後に資産を引き受けた上で定款を承認・登記する。4-3コンクール/オークションは、各資産フォンド、議会、反独占・企業活動支援関連国家機関の各代表及びその他専門家で構成される委員会が実施する。公示は入札の30日前に行う。コンクールによる売却価格は開始価格を下回らず、また同等の入札内容である限りにおいて労働集団の落札が優先される。オークションによる売却価格は、開催者の判断で開始価格の20%以内の範囲において引き下げ得る。各資産フォンド職員及びその近親者は入札者としての参加を禁じる。4-4経営権の委譲は、各資産フォンドと経営権受諾者との当事者間契約により実施される。4-5無償譲渡は、「特別支払手段」の利用によって行う。5資産購入者は、各資産フォンドとの売買契約署名後に自己資金ないし「特別支払手段」を以って支払いを行う。また私有化企業の労働集団は、(i)企業の消費フォンドの一部、(ii)企業の賃貸契約期間中に労働集団が取得した資産の償却費ないし売却金、(iii)借入金、(iv)企業、組織、市民の無償出資金、(v)労働集団構成員の自己資金、(vi)国家資産でないその他の資金、を資産購入費用に充てることができる。また私有化企業従業員の資産購入に際しては、(i)当該企業バランスにある社会インフラや一部生産インフラの無償譲渡、(ii)購入資金の分割払い、(iii)株式その他資産の減額販売、(iv)株式会社へ改組する企業が発行する株式の優先的割引販売、(v)遠隔地に所在する企業の資産特別減額措置等の優遇措置を与える。6所有権移転の登記を行う。7私有化所得は、国家資産フォンドの特別勘定に一旦集中され、大統領が別途承認する規則に従って各機関へ分配される。

(4)「特別支払手段」:1.国家資産の配分過程に一般市民を広く参加せしめ、市場経済化への社会的支持の獲得と私有化の加速化を目指す無償私有化の手段として、国民に「特別支払手段」を1994年1月1日までに配布する(その後同年9月までに延長)。2.16歳以上の市民については過去15年中連続5年間の平均月収(A)と勤続年数(B)から式1000+0.5ABで決定される額を、また16歳以下の市民や専業主婦等については一律1000ルーブルの「特別支払手段」を支給する。年金生活者、身障者、孤児、未亡人等には特別割増を行う。3.「特別支払手段」の近親者を除く他人への譲渡や販売を禁じる。4.「特別支払手段」は、(i)「特別支払手段」所有者に所有されている家屋、(ii)労働集団及び有権利者への売却対象となる国有・公有企業の株式、(iii)国家保有株式、(iv)他の私有化対象資産の購入に充てる。5.「特別支払手段」の額面価格と1982年価格で評価された私有化資産との等価交換を保証する。6.非私有化企業従業員及び「特別支払手段」を利用する可能性を有しない市民の権利保護のために、国家資産フォンドは全経済分野の中・大規模企業の資産を25%以上留保する。7.「特別支払手段」の有効期限を2000年1月2日とする。

S2 「改正私有化法」制定を契機とする制度変更点

(1)私有化目標率の緩和(63)

(2)企業規模・活動分野別私有化方式の採用:企業を5カテゴリーに大別した上で特定の私有化方式を適用する。1.従業員数100名未満の企業:現金又は「私有化クーポン」によるコンクールないしオークションで売却する。2.従業員数100名以上1000名未満の企業:2-1.従業員当りの固定資産額が50ソム未満の企業:オークションないしコンクールで売却する。2-2.従業員当りの固定資産額が50ソム以上の企業:株式会社への即時改組後、発行株式の70%を外部投資家へ現金で売却、25%を「私有化クーポン」によるオークションで売却、5%を労働集団に無償供与する。売れ残った株式は、国家資産フォンドが証券取引所を通じて随時売却する。3.従業員数1000名以上の企業:94年上半期までに株式会社へ改組した上、改組後1年以内に私有化プランに対する国家資産フォンドの承認を得た上で、2-2と同様の方法で発行株式を売却する。4.鉄道会社や航空会社等32社:「会社化」方式の適用。雇用契約によって任命される企業長及び副企業長と、外部委員から構成される取締役会が設置され、国家資産フォンドとの契約に基づき独立採算性を原則に企業を運営する。取締役会は、定款資本の変更、操業停止、支店・営業所の開設や閉鎖を除き、経常的経営活動に関する諸決定を政府から独立して行う。5.戦略的重要性を有する大企業20社:外国資本誘致対象として政府が私有化過程を特別管理する。

(3)企業資産評価の客観基準の導入:資産評価は国家資産フォンドが承認する各種規範文書に基づき行う。資産評価は、1992年1月1日現在の固定資本再評価結果に基づく帳簿価格を基礎とする。国家資産フォンドは、国家資産フォンド、関連省庁、地方行政機関、銀行、税務当局、企業の代表で構成される私有化資産価格分析・評価委員会を設置し、資産評価の妥当性を査定する(64)。l

(4)私有化プラン策定・評価手続の改善:部門別省、国家委員会、地方行政府は、私有化プログラムに含まれる企業の「私有化基本プラン」の作成に関して一義的責任を有する。基本プラン以外の私有化プランが他者より提示されない場合、国家資産フォンド議長は同プランに基づき私有化決定を下す義務に従う。全ての私有化プランは国家資産フォンドに送付され、専門家の監査を受ける。私有化の方法及び形態に関する最終的承認は、国家資産フォンド拡大幹部会が行う。独占企業と認定されている企業、企業合併を企図する私有化プランについて、国家資産フォンドは国家経済委員会の事前合意を得る。

(5)「特別支払手段」の「私有化クーポン」への移行:ルーブル建て「特別支払手段」は、200ルーブル=1ソム=100ポイントのレートで「私有化クーポン」に交換する。交換業務は、1994年2月から6月末までの間に貯蓄銀行各支店等を介して行う(のち同年9月末まで延長)。「私有化クーポン」は、1.遺産譲渡や他人への売却、2.私有化企業ないし特別投資フォンド発行株式との交換ないし住宅フォンド私有化時の使用、3.ポイント分割による多種・複数資産の購入が可能である。但し、私有化に一度利用されると無効となる。

(6)投資フォンド、持ち株会社の設立許可:投資フォンド、特別投資フォンド、持ち株会社は株式会社の特殊形態であり、「株式会社法」及びその他の法令により規制を受ける。1.投資フォンドは、自社株の発行による自己資金を、他の有価証券や投資プロジェクトに投資する。2.特別投資フォンドは、自社株式との交換による市民からの「私有化クーポン」の糾合及び再投資を認可された投資フォンドであり、民間法人ないし自然人により公開株式会社としてのみ設立し得る。

(7)私有化企業に対するプロファイル規制の撤廃:国家資産フォンドと資産購入者との売買契約締結に際して、製品構成、労働者の雇用維持、特定消費者への商品供給義務、社会施設の維持等の義務条項設定を禁じる。

(8)国家資産フォンドへの国家保有株式管理権の集中。

(9)国有企業の非公開株式会社化の禁止と既存非公開株式会社の株式公開の義務化。

(10)労働集団に対する各種優遇措置の原則撤廃。


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