SLAVIC STUDIES / スラヴ研究

スラヴ研究 45号

サハリン州と南クリル地区の 自治制度(ローカル・オートノミー)


中 村 逸 郎

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− 注 −
 

  1. 日本におけるロシア地方政治研究の代表的な成果を紹介しておこう。松里公孝「ロシアの地方制度 ム 大改革から1995年地方自治法施行まで」(『ロシア・東欧における地方制度と社会文化』「スラブ・ユーラシアの変動」領域研究報告輯No. 25、北海道大学スラブ研究センター、1997年)は、ソ連崩壊後に「州エリートがモスクワに対して著しく立場を強化したものに比べれば、よりささやかな 変化であるが、市・『地区』レベルのエリートも、州エリートに対して、ある程度の自主裁量の余地を獲得」したという重要な点を指摘している。もう一つの業 績としては下斗米伸夫『ロシア政治の制度化 ム タタールスタン共和国を例として』(同報告輯No.43、北海道大学スラブ研究センター、1997年)が注目される。下斗米教授は連邦と共和国の関係をさ まざまな事例を織り込みながら論じることで、「中央」対「連邦主体」という図式に厚みを加えている。ロシア極東研究では、藤本和貴夫教授を中心にロシア沿 海州の調査が進んでいる。詳しくは日本国際問題研究所『ロシア連邦極東地域研究』(1995年3月、1996年3月、1997年3月)を参照。高い評価を 得ている業績としては、ナズドラチェンコ体制の形成過程を描いた小森田秋夫「ロシア沿海地方の変貌と法秩序の形成ムひとつの見取図 上・下」(『法律時報』66巻7号、8号)が注目される。

  2. サハリン州内の人口とその内訳、就業者数、犯罪数についてはサハリン州政府内で Статисти-ческий сборник ・Уровень жизни населения Сахалинской области в 1994・995 годах を、生活水準の実態については同じく Основные показатели социальной дифференциации насе-ления по итогам 1995 года を閲覧した。

  3. 権限分割協定は18条から構成されており、エリツィン大統領とサハリン州知事のファルフトジーノフが署名をしている。協定を実行するために、 連邦政府とサハリン州政府の間で合同委員会、または作業機関を「対等の立場」で設立できることになっている。権限分割協定に基づいて、連邦政府とサハリン 州政府の間で五つの合意書が交わされている。連邦政府側はチェルノムイルジン首相、サハリン州側はファルフトジーノフ知事が署名している。補足であるが、 1995年5月現在、連邦政府との間で権限分割協定を締結している連邦主体は26、1997年末までの締結を予定している連邦主体は20である。

  4. 筆者の質問にたいするファックスでの回答。なお、ロシア全土の57%が連邦所有地である。詳しくはСегодня. 25 сентября 1997を参照。

  5. ロシア憲法67条にも連邦主体の境界線の変更には、州の同意が必要であると明記されているが、この条項が想定しているのは連邦主体間の境界線 の変更であり、ロシア連邦政府が取り交わす国際条約に従った境界線の変更ではない。

  6. 連邦主体の議会の名称は多種多様である。たとえばスターヴロポリ地方やヤロスラヴリ州ではГосударственная думаと呼び、まるで独立国家の議会のようである。イルクーツク州、レニングラード州、オレンブルク州、ペルミ州、スヴェルドロフスク州、トヴェリ州で は Законодательное собраниеである。スヴェルドロフスク州は2院制で Областная Дума(定数28人)とПалата Представителей (定数21人)から構成されている。前者は比例代表制で、後者は少選挙区制で選出される。また、クルガン州、ノヴゴロド州ではたんに Дума と呼ばれ、リペツク州とプスコフ州では Собрание депутатов という名称である。

  7. サハリン州議会議長の権限には、本会議の招集や運営、さらには議会局の指導と議会予算の管理などが含まれているが、特に重要なものはない。詳 しくはサハリン州憲章22条を参照。

  8. サハリン州議会議会局の部局には、組織部、資料作成部、国家と法管理部が開設されている。

  9. サハリン州知事選挙には6人の候補者が争い、現職のファルフトジーノフが39.4%の得票率で勝利した。次点のチォールヌィに12%の差をつ けた(第2回投票はおこなわれなかった)。ファルフトジーノフ知事の略歴を紹介すると、1950年生まれ、出身地はノヴォシビルスク、クラスノヤルスク技 術総合大学を卒業後はコムソモール活動に従事し、1991年からはユジノサハリンスク市ソビエト執行委員会議長、1995年4月に州知事に任命された。ソ 連崩壊後からの歴代の州知事を振り返っておくと、フョードロフ(1991年から93年まで)、クラスノヤロフ(1993年から95年まで)。

  10. 第一副知事と副知事も、権限内で命令を発表できる。サハリン州憲章34条を参照。

  11. サハリン州政府内でЭкономика Курильских островов за январь-июнь 1995 года と Экономика Курильских островов в цифрах 1994・995 годахを閲覧した。

  12. サハリン州内の外国との合弁企業数は1996年1月1日現在313社である。そのなかでもっとも多いのは、日本との合弁企業で115社に達す る。カチェルヌィー副局長は日本との経済交流の拡大を指摘したが、日本との合弁企業数はこの数年、増加傾向にない。加えて、日本との合弁企業のなかで実際 に稼働しているのは約6割と指摘するユジノサハリンスク市在住の日本ビジネスマンもいる。補足であるが、1995年8月時点で南クリル地区で8社の合弁企 業(そのなかの2社は日本との合弁企業)が操業していたが、1996年10月の調査では全社とも撤退したようである。

  13. 私有者の内訳別でもっとも多いのはダーチャ付属地の538人(総面積は55ヘクタール)であるが、南クリル地区の特徴としては独立農民が43 人いることを指摘したい。この人数は、サハリン州全体の独立農民総数の13%を占め、自治体別では州で5番めの多さである。独立農民の私有地総面積は 100ヘクタール、1人当り平均で2.3ヘクタール、州の平均12.3ヘクタールよりもかなり狭いが、それでもダーチャ付属地などと比較するとかなり広 い。南クリル地区の土地私有化についての特徴をもう1点指摘すれば、土地利用者のなかで土地を私有化する人の割合が高いということである。独立農民は土地 をリースすることもできるのであるが、南クリル地区では土地利用者の全員が私有化している。このような例は、17の地区と一つの市のなかでは南クリル地区 だけである(州平均の私有化率37.5%)。ダーチャ付属地の私有化では、州平均が34%であるのにたいして、南クリル地区は48%と高い。このように南 クリル地区では全体として、土地の私有化に積極的である。補足であるが、エトロフのあるクリル地区では、土地私有者の総数はわずか5人である。

  14. サハリン州とユジノサハリンスク市の財政制度については、荒井信雄、ベロフ・アンドレイ「ロシア連邦における地方財政制度 ム サハリン州での現地調査をもとに」(『海外投資研究所報』1996年6月、第22巻、第6号)に詳しく紹介されている。

  15. もっとも配分の割合が少なかったのはノグリキ地区の0.5%であった。

  16. 各種の税収入は定められた比率に基づいて、連邦、連邦主体、地区・市の財政に配分されることになっている。1997年ロシア連邦予算によれ ば、歳入のなかで税収が占める割合は80%にも達している。連邦政府に配分される税金、賦課金、手数料としては、付加価値税、取引所の仲介手数料収入、有 価証券取引税、物品税、関税、天然資源の利用権、鉱物資源再生産のための控除、企業利潤税、道路基金の財源となる税金、輸送税などがある。

  17. 納税方法は一般的に、本人、または源泉徴収をおこなっている企業が、ロシア連邦中央銀行サハリン支店に開設されている出納局の口座に振り込む ことになっている。いくつかの税種、たとえば付加価値税については、納税者が納税額の全額を出納局の口座に振り込み、出納局が徴税した税金を比率にした がって連邦と州に分けて振り込む。サハリン州内の国税局が直接、徴税することはない。

  18. タタルスタンは1994年、連邦政府との間で連邦税の拠出について協定を交わした。詳しくはЭкономика и жизнь. 12. 1997を参照。

  19. 法案は Экономика и жизнь. 27. 1997に掲載されている。


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