スラブ研究センターニュース 季刊 2003年 秋号 No.95

21世紀COEプログラム採択される

◆ 「スラブ・ユーラシア学の構築:中域圏の形成と地球化」 ◆
が、21世紀COE研究教育拠点形成プログラムとして採択される

家田 修(拠点リーダー)

 スラブ研究センターが中核的な拠点組織となって申請をおこなっていました研究教育5年計画「スラブ・ユーラシア学の構築:中域圏の形成と地球化」が、2003年度の21世紀COE研究教育拠点形成プログラムとして採用されました。その概要については順に述べて参りますが、まず本プログラムに事業推進メンバーとして参加しているのは、センターの専任研究員全員および北海道大学文系各部局に属する9名の研究者です。北海道大学では本プログラムに限らず、21世紀COEプログラムを全学的なプロジェクトと位置づけ、部局横断型のチーム編成による研究教育拠点作りを目指しています。実際、本プログラムの推進に際しても、このプロジェクトに事業推進メンバーとして参加している研究者だけでなく、北海道大学が擁する数多くの優れたスラブ地域関連研究者、およびそこで学んでいる若手研究者を取り込んでいく予定です。この意味で、本プログラムはスラブ研究センターのプログラムであると同時に、全学的なプログラムです。

 しかし、スラブ研究センターは全国共同利用施設でもあり、国際研究拠点でもあります。本プログラムの申請に際しましても、この点を強調しました。つまり、拠点形成では北海道大学という視点と並んで、全国的、国際的な役割をもこれまで以上に果たすことが目標として位置づけられたのです。そもそもこの二つの視点は相互補完的であり、センターが今回のような研究教育拠点形成を通して他大学や海外に開かれた事業を独自の研究領域で展開してゆくことは、とりもなおさず北海道大学自身の個性や独自性を高めることにもなります。

 本プログラムの研究組織上におけるもう一つの特徴は柔軟性です。前回の大型研究プロジェクト「重点領域研究:スラブ・ユーラシアの変動」では学問分野ごとに研究班を9つ設け、全体として100近い研究報告書が生み出されました。またこの事業は日本におけるスラブ地域研究が全国的にまとまって推進される嚆矢となり、研究水準の向上にも大いに役立ちました。しかし他面、研究成果に学際性が十分に発揮されなかったという反省点も指摘されました。今回のプログラムではこうした反省に立ち、分野別の明確な仕切による研究班は設けずに、事業推進者がそれぞれの個性を発揮して分野横断的な、あるいは地域横断的な研究活動を組織することにしました。その核になるのが、後で触れる研究企画「講座スラブ・ユーラシア学」です。つまり本プログラムでは、それぞれの事業推進者が核となってネットワーク状に研究企画を膨らましてゆくことが目指されます。この柔軟な組織方法により、学問分野相互間、学内と学外、あるいは国内と国外の仕切りを越えた研究を推進してゆこうと考えています。

 ところで、来年度は独立法人化が現実となる年ですが、文科省と大学、そして大学本部と学内組織の関係がどう形成されるか、まったく不透明です。特にスラブ研究センターは文科省が定める基幹組織(学部、研究科、附置研究所)ではありませんので、法人化後における学内での位置づけは不安定とならざるを得ません。しかし、センターとしては今後も全国のスラブ地域研究者の共同利用組織として、従来通りの役割を維持し、さらに発展させてゆく考えでいます。また北海道大学の中期計画においてもそのように位置づけられております。

 とはいえ、一方の軸足を一大学の中におき、同時に全国の研究者にも開放された研究機関であるというスラブ研究センターの特殊な設置形態は、法人化後、いかなる意味でも座り心地のよいものになるとは思えません。しかし、この微妙な移行期に、センターがこれまで果たしてきた学内的役割及び全国的役割を一まとめにしたプロジェクトを、全学支援のお墨付が付いた21世紀COEプログラムとして5年間にわたって遂行できることは、極めて幸運であり、かつ天の配剤ではないかとさえ思われます。

 さて、本プログラムの中身ですが、その名称の通り、研究と教育を両輪としています。まず研究面ではこれまでの国内的、国際的な研究拠点という実績を踏まえて、なおいっそう発信型の事業を進めていこうと考えています。つまりスラブ・ユーラシア研究、中域圏、そして地球化(グローバル化)をキーワードとして、新たな地域研究の可能性を追求しようと思います。中域圏という耳慣れない用語が出てきましたが、これについては本号の松里論文が一つの考え方を示していますので、そちらをご覧下さい。また中域圏とは何か、という問題だけでなく、地域研究全般のあり方を考える場としてホームページ上に電子フォーラム「地域研究と中域圏」を開設し、これらの問題をめぐってすでに議論をはじめていますので、あわせてご覧下さい。

 さらに研究面ではプログラム名にもありますように、スラブ・ユーラシア研究を体系化する企画を準備しています。一つは「講座スラブ・ユーラシア学」です。これは先の三つのキーワードを基にした斬新な切り口により、学際的かつ統一的にスラブ・ユーラシア研究を押し進めるものです。そして研究成果としても同種の講座名を冠した刊行物を発行しようと計画しています。この企画の詳細については改めてお知らせします。

 第二は欧文シリーズ Slavic Eurasian Studies の出版です。すでに従来からセンターでは国際シンポジウムの報告集を欧文で刊行してきましたが、今回のCOEプログラムではこれを欧文シリーズとして体系化し、かつシンポジウム以外の研究成果からも、欧文シリーズで発表する価値のあるものは、このシリーズに加えてゆきます。他方、シリーズものに馴染みにくい独自な研究成果はスラブ・ユーラシア研究叢書、研究報告集、Occasional Papers on Slavic Eurasian Studies として刊行します。

 教育面ではまず、拡充版鈴川基金奨学生制度(全国の大学院生対象)、21世紀COE研究員制度(全国のポスドクを対象)、COE研究員セミナー(21世紀COE研究員などへの論文指導)など、従来からセンターが実施してきた事業を継承し、発展させます。さらに、これまでになかった新しい企画として、若手研究者国際ワークショップ(内外若手研究者対象)、大学院生研究支援、部局横断型大学院教育カリキュラムなどの立ち上げを予定しています。これらはその詳細が具体化した段階で、順次ホームページ上で公開してゆきます。既に21世紀COE研究員制度および若手研究者国際ワークショップは募集要項も公表され、21世紀COE研究員については今年度の募集も終わり、10月1日から4名の若手研究者がセンターで研究に従事しています(詳細は別項を参照)。

 このように教育面でも大学という枠を越えた公募制度を活用することにより、若手研究者が本プログラムを介してこれまで以上に相互に研究を研鑽し合い、かつ国際レベルでの研究の第一線に触れることができる仕組みと場を生み出すことが目標とされています。

 今後、本プログラムが推進する国際シンポジウム、研究会、COE研究員セミナーなどの開催に際しましては、これまで以上に皆様方のご参加やご協力をお願いしたいと考えております。しかし、今回の事業推進に当たりましては、日本全体のスラブ地域研究および後継者養成のために、このプログラムがいっそう有効に活用されるようなアイデアを皆様からご提案いただけたらと考えております。ともあれ、研究、教育のいずれに関してでも結構ですので、ご意見などお聞かせ下さいますよう、ご案内申し上げます。

 なお、本プログラムに関するニュースは今後もセンターの本ニュースレターでお伝えしてゆきます。またセンターのホームページに本プログラムのサイトも立ち上げていますので、最新のニュースなどはそちらをご覧下さい。


事業参加者一覧 (あいうえお順、括弧内は所属)

 【事業推進メンバー】
荒井 信雄* (センター) 所 伸一(教育学研究科教育学専攻)
安藤 厚(文学研究科言語文学専攻) 橋本 聡(国際広報メディア研究科国際広報メディア専攻)
家田 修(センター) 林 忠行(センター)
井上 紘一(センター) 原 暉之(センター)
岩下 明裕(センター) 村上 隆(センター)
宇山 智彦(センター) 松里 公孝(センター)
栗生澤 猛夫(文学研究科歴史地域文化学専攻) 望月 哲男(センター)
佐々木 隆生(経済学研究科現代経済経営専攻) 森本 一夫(文学研究科歴史地域文化学専攻)
杉浦 秀一(言語文化部ロシア語教育系) 山村 理人(センター)
田口 晃(法学研究科法学政治学専攻) 吉野 悦雄(経済学研究科現代経済経営専攻)
田畑 伸一郎 (センター)

     *荒井氏は本プロジェクト申請後にセンターに赴任されたため、改めて事業推進者としての申請を行う予定です。

 本プログラムの推進のため、全体の調整などをおこなう総括リーダー班を設置し、さらには様々な役割分担を決めましたので、 以下をご参照下さい。

 【総括リーダー班】
家田 修(センター)拠点リーダー 松里 公孝(センター)国際担当
田畑 伸一郎 (センター)研究・予算担当 次期国際シンポジウム組織責任者にあたる者
林 忠行 (センター)教育担当

 【企画別役割分担者】
出版担当:岩下 明裕(センター)
広報担当:原 暉之(ニューズレター担当、センター);岩下 明裕(ホームページ担当、センター)
地域研究と中域圏フォーラム(仮称)担当:宇山 智彦(センター)
COE研究員セミナー担当:村上 隆(センター)
鈴川COE奨学制度担当:原 暉之(センター)
極東国際セミナー担当:荒井 信雄(センター)
大学院教育担当:望月 哲男(スラブ研究センター)
スラブ・ユーラシア研究COEセミナー(SES-COEセミナーと略称)担当:山村 理人(センター)

 また、以下の事業についてはスラブ研究センター情報資料部が担当しています。
図書資料担当:兎内 勇津流(センター)
研究会情報・募集・出版担当:大須賀 みか(センター)
ホームページ制作担当:山下 祥子(センター)


◆ 中域圏の概念について ◆

松里公孝(センター)

 本プログラムは、中域圏という分析概念を押し出そうとしている。この概念を生み出した実践的な動機は、旧社会主義諸国研究の細分化に歯止めをかけるということである。実際、冷戦の終了後、バルト研究がウッドロウ・ウィルソン・センター・ケナン研究所から、また中央アジア研究がハーヴァード・デイヴィス・センターから株別れするなど、研究の際限ない細分化が進んでいる。1990年代には、これら空間的に細分化された地域研究の間に、体制移行研究という共通項がまだあったが、それさえもほぼ失われた。地域研究が細分化されても、それら相互間に交流があればよいが、ヴィシェホロド諸国研究者がバルト諸国について何も知らない(逆もまた真なり)、ロシア研究者がウクライナやベラルーシについて何も知らない(逆もまた真なり)といった状況は、とても正常とは言えない。

 どうしてこのような研究の空間的細分化が起ったのだろうか。最大の原因は、研究者の多くが、スラブ・ユーラシアなどというメガ地域は存在しない、それは社会主義という強制力によって結ばれていたにすぎない、だから社会主義体制が崩壊した以上、かつての社会主義諸国研究は細分化して当然だと考えていることである。これは方法論上の問題であるので、後に考察しよう。別の原因として、冷戦終了後に旧社会主義諸国研究が陥った資金難があげられる。日本のような、基本的に国庫によって人文社会科学が賄われている国とは異なって、欧米では民間資金を導入しなければ研究は成り立たない。民間のスポンサーは、抽象的なメガ地域よりも、自分が利害関心を持つ特定の小地域に資金を振り向けようとするから、研究機関を株分けした方が資金獲得に有利なのである。

 もうひとつの原因としては、スラブ・ユーラシア研究においてロシア人研究者およびロシア研究者がしかるべき責任を果たしていないということがあげられる。通常、帝国の崩壊の後には、旧宗主国が旧植民地の研究において重要な役割を果たすものである。たとえば、ヴェトナムの独立後も、フランスがヴェトナム研究において大きなウェイトを占めた時期が長く続いたと聞く。対照的に、こんにちのウクライナ研究やバルト研究においてロシアのヘゲモニーなど微塵も感じられない。ペテルブルクの科学アカデミー図書館は、ウクライナ語文献やベラルーシ語文献を調達することを公式に止めたそうである。奇妙なことに、こうした事態は、ロシアの歴史家がウクライナやベラルーシの「民族主義」史学を批判することを全く妨げない。彼らがウクライナ語もベラルーシ語も読めないという事実は、彼らを躊躇させる理由にはならないのである。もちろんここには、ロシア人特有の思い上がりや民族偏見のほかに、メトロポリスにおける研究と連邦構成共和国・地方における研究を峻別してきたソ連の学術の伝統が、全く異なる状況下でも克服されていないという問題があるのである。

 さて、方法論上の問題に立ち返ると、次の事が言えよう。従来の地域研究における地域概念は、多かれ少なかれ地域の単層性・同質性を前提としていた。ところが地球化の時代にあっては、このような地域概念は、分析上の有効性を失いつつある。旧社会主義諸国研究の細分化は、伝統的な地域概念を墨守した結果である。これほど極端ではないにせよ、地域概念の流動化(どこまでをヨーロッパ、あるいはアジアとみなすのか)は、他の地域研究も直面している問題ではないだろうか。

 本プログラムは、従来、地域と呼ばれていた空間領域は、実際には、それぞれ個性的な中域圏(meso-areas)が束となって構成するメガ地域 であったと考える。この地域またはメガ地域の重層性が、地球化の中で顕著となった結果、中域圏の概念を用いることが不可避となったのである。

 中域圏とは、従来同質的と考えられてきた空間領域の一部が、隣接外部領域との相互作用の中で特殊性を帯びることによって生まれる地域である。研究目的により可変的・選択的な分析概念であり実体概念ではない<注1>。たとえば、かつての社会主義圏には、それぞれEU、イスラム圏、東アジア諸国の引力で、東中欧・バルト中域圏、中央ユーラシア中域圏、ロシア極東中域圏が生まれたとみなしうる。もちろん、ここにおける外世界との相互作用が中域圏形成に及ぼす影響は様々である。東中欧・バルト中域圏のように、EUの直接の影響下でそれが形成される場合もあれば、中央ユーラシア中域圏のように、サラフィズム(いわゆる原理主義、ワハビズム)やトランス・カスピ・パイプラインの問題が地域のある種の一体性を住民とエリートに自覚させるという、間接的な影響にとどまっている場合もある。

 ともあれ、スラブ・ユーラシア地域に上述の遠心力が働いているのは間違いないが、その反面、スラブ・ユーラシアのメガ地域には、ユーラシア世界に独特の心性、社会主義期の共通体験、移行期に伴う困難といった共通項、すなわち求心力も働いている。ロシアの近隣外交を強化したプーチンは、スラブ・ユーラシア世界の求心力を体現しているとも言えるのではないだろうか。総じて、スラブ・ユーラシア世界は、とりわけ個性的な中域圏が緩やかに束ねられたメガ地域であると考えることができる。

 中域圏と国家の関係は様々で、マルチナショナルな場合(東中欧・バルト)、トランスナショナルな場合(中央アジア、コーカサス、ロシアのヴォルガウラル地方から形成される中央ユーラシア)、リージョナルな場合(ロシア極東)がある。

 母体となったメガ地域と中域圏との関係については、時間の経過に従って、
1.中域圏が独立した新地域になる場合、
2.中域圏が、隣接するかつての外地域に併呑・同化されてしまう場合、
3.中域圏が特殊性を強めつつも、母体地域への何らかの依存性を長期にわたって保ち続ける場合(逆に言えば、母体地域が中域圏の緩やかな束として、それなりの一体性を保ち続ける場合)、
4.中域圏が個性を失って再び母体地域に埋没する場合、
の四つが想定される。スラブ・ユーラシア圏については、第三のシナリオが最も蓋然性が高いと考えられる。本プログラムが長期間の有効性を持つ所以である。

 EU加盟によって、東中欧・バルト中域圏がスラブ・ユーラシア・メガ地域の西端の中域圏からヨーロッパ・メガ地域の東端の中域圏へと移行したと考えるのは早計である。バルト諸国では、「我々は脱共産主義諸国ではなくノルディック諸国だ」などと言われるが、これはプロパガンダにすぎない。もしこの言明が正しいのなら、デンマークやフィンランドの専門家の方が、我々スラブ・ユーラシアあるいは脱共産主義諸国の専門家よりも、バルト諸国が抱える諸問題をよく理解できるはずである。幸か不幸か、そのような事態は今後二、三十年間は起こりそうにない。また、本当にそのような事態になれば、バルト諸国はヨーロッパ・メガ地域の東端の中域圏になったと言えるのである。

 中域圏の浮上は、地球化の結果であると同時に地球化への抵抗である。つまり、本来その社会に固有ではなかった規範を受容した、あるいは押し付けられた際に、ある空間領域が共通した一種の拒絶反応を示し、またこの拒絶反応を克服する方策にも共通性があると当該空間領域のエリートに認識された場合に、中域圏は浮上すると考えられるのである。中東欧・バルト中域圏について言えば、そもそもEUの形成自体が地球化の反映であったと同時に、アメリカ中心の地球化に対する抵抗であった。ところがEUが東方拡大するにつれ、新加盟国のEU懐疑論も強まってゆく。農業基金や構造改革基金が新加盟国に適用されないことによって、EU内格差は制度化されてしまった。これは、東中欧・バルト中域圏の一体性をいっそう強化すると考えられる。

 同様のことは中央ユーラシア中域圏にも言える。周知の通り、イスラム世界におけるサラフィズム(いわゆるワハビズム)の高揚は、地球化に対する抵抗としての性格を持っている。これは、中央ユーラシアにも波及するが、中央ユーラシアの伝統イスラムにおいては、神学上サラフィズムの対極に位置するスーフィズム(タリカチズム)が強いため、軋轢が起こる。その極端な形態は、1998年から1999年にかけてダゲスタンで起こった事態である。こうした軋轢の中で、中央ユーラシアのムスリムは、自分たちの伝統を再認識または再構築しながら、アラブ世界とは異なったイスラム世界を形成することになる<注2>

 中域圏と経路依存(歴史文化的背景)の関係について付言しておきたい。本プログラムは、1990年代の体制移行研究が現状分析に偏っていたことを反省し、人文科学のアプローチと社会科学のアプローチを結合することを目指している。このことは、脱共産主義過程で浮上した中域圏を、当該地域の歴史的文化的背景から説明しようとしているとの誤解を生みかねない。実際には、あれこれの地域の「歴史的文化的背景」なるものは、状況(たとえばEU加盟の必要)に応じて、功利主義的に構築されることがしばしばである。たとえば、ラトヴィア史学におけるバルト・ドイツ人の評価は、民族主義時代(ラトヴィア・ソヴェト史学は民族主義史学の後継者である)と親欧州時代(戦間期と共産主義崩壊後)とで180度変わっている。民族主義時代には、バルト・ドイツ人は残酷な搾取者だったと言われるし、親欧州時代には、バルト・ドイツ人は文明伝播的な役割も果たしたと言われる。ラトヴィア人がみずからのヨーロッパ性を主張するためには、その伝播者であるバルト・ドイツ人を悪し様に言うわけにはいかないのである(もちろん、こんにちのラトヴィアの学術活動のかなりの部分がドイツから流入する資金によって賄われているという直接的な事情もある)。本プログラムが人文科学を重視するのは、このような歴史認識の構築作業を批判的に分析するためでもある。

 最後に、中域圏の分析概念としての有効性についてまとめておきたい。
中域圏概念は、
1. メガ地域の内部構造を遠心力と求心力の間のせめぎあいとしてみる。つまり、固定的ではなく動態的・歴史的な地域分析の概念である。
2.比較分析、地域横断的分析を可能にする。 広域的な視点を失わずに、地域の個性を明らかにすることができる。
3.地域の変動について、国際的影響、歴史的文化的背景(経路依存)、自然環境の間の相互関係を明らかにすることができる。
4.主権国家の枠を超えた、リアルな国際関係の分析を可能にする。同時に、地球化の実態に迫る概念である。
5.国際環境に依存する割合が高く、国家アイデンティティーの形成が完了していない新独立諸国を分析するのに特に有益な概念である。


<注1>本申請書では三つの中域圏をあげているが、これらはあくまで研究の重点地域としてであり、この他にも、たとえば、「改革後進国・正教中域圏」(ウクライナ、ベラルーシ、モルドワ)などを想定することは可能である。また、EUとの関係で、ヴィシェホロド諸国とバルト諸国は同じ中域圏に属しているが、両者の間には、政党制のあり方等についてかなりの相違も見られる。また視角を変えれば、この中域圏を旧ポーランド文化圏、旧ドイツ文化圏に分けることも可能である。このように、中域圏は研究目的に即応する可変的概念なのである。

<注2>ダゲスタンのある町長は、私との面談において次のように述べた。「冷戦時代、自分たちは鉄のカーテンによって守られていた。私たちのイスラムは純粋だった。鉄のカーテンがなくなったおかげで、汚染物(ワハビズム)が入ってきた」。



◆ 21世紀COE拠点形成プログラムとスラブ研究センターへの期待 ◆

木村 崇(センター運営委員、京都大学)

 道路公団総裁更迭のニュースを聞いたところである。そこでふと思った。スラブ研究センターが発足以来、国からいただいたものの一切合財は、日本の高速道路建設費でいうと何キロメートル分ぐらいに相当するだろうかと。私は本務校での役職柄、留学生を受け入れたり送り出したりする現場の実情を知る立場にあるが、こちらはスラ研よりさらに10倍はみじめである。アメリカの学生交流協定校へ視察に行ってきた留学生課の職員が、あちらはスタッフがものすごく大勢いて驚いたと語っていた。それどころか、この夏以降ひんぱんに耳に入ってくる情報によれば、独立法人化がなされる来年からは経費と人員のいっそうの合理化、つまり削減が必至らしい。

 COEは、このような全般的逼迫状況が頭にあるせいか、「豪勢」に見えないわけでもない。ひと頃おおいに気をもんだ、附置研究所資格喪失という事態は、今回スラ研があらためてCOE拠点として認知されたことで、ひとまずは回避されたと安堵した。私たちは、研究対象としている地域で研究活動を続けている仲間たちの想像を絶する劣悪な条件を知っているだけに、つい束の間の「豊かさ」を味わった気分になる癖がついているようである。それでもやはり一定の財政基盤が得られたことは喜びとすべきであろう。たとえそれが「ムネオハウス」と比較したくなるような金額であろうとも。

 スラブ研究センターは、その活動内容と比較して、研究所員やスタッフの人数があまりにも少ないと、つね日頃思っていた。「スラブ・ユーラシア学の構築:中域圏の形成と地球化」というプログラム名を聞いたものは間違いなく、国際的な常識からいって、所員が百名内外はいる規模の研究所が打ち出した計画にちがいないという印象をもつことだろう。実際にはわずか十数名しか所員のいない研究機関なのである。

 しかし、スラ研がもし大規模研究所であったなら、この題名に込められたような大胆な学際的発想は生まれえたであろうか。少人数であるがゆえに、各人が部門ごとのタコ壷に閉じこもってはおられず、研究対象のボーダーを越え合う関係が構築されてきたのではないかと考えると、複雑な心境にならざるをえない。たとえば私が日頃つきあっているロシア科学アカデミーのロシア文学研究所(プーシキン館)などは、部門間の壁がかなり厚く、研究所全体が一丸となって取り組まねばならないような共通の研究課題と、それを実現するための新しいコンセプトを生み出したというような例は、これまでなかったのではないかと思う。「ロシア文学」は「スラブ・ユーラシア学」と比べてみれば、研究対象としては問題にならないくらい小規模なはずなのにである。

 じつはこの研究条件の貧困さの「優位性」はスラブ・東欧研究者個人をとってみてもいえることである。私個人の本来の専門は、せいぜい十九世紀初頭のロシア文学に限られるはずであった。会員数が数千人もいるような学会規模の研究分野なら、おそらくその範囲の専門で終わっていたことであろう。しかし日本でロシア文学の研究をするには、表看板を掲げるだけで済むということはまずない。講義や演習をするにしても、大学院生の研究指導をするにしても、「ロシア文学」と名の付くものなら、いちおうはかじっておかねばならない。実際はそれでもまだ足りないのである。私と同じ立場に置かれている人なら、およそ「ロシア学」と呼ばれるものは、ひと通り取り組まねばならないはずである。この十数年間に私の表看板は本務校での改組があるたびに、「ロシア語」だけから、「教養のロシア文学」、「ロシア文化論」、「スラブ文化・地域論」、そしてついには「ユーラシア多文化複合論」とめまぐるしく塗り替えられてきた。この変化に何とかかんとかついてこられたのは、夏と冬の年二回開かれるスラ研シンポに欠かさず参加して、せいぜい「耳学問」くらいはしてこれたおかげではないかと思っている。

 たしかに私が手を広げてきたことは、本来やってきたこと以外、専門からはほど遠いであろう。しかしそのおかげで、専門研究に埋没してしまっては分からなくなることを避けることもできたように思う。スラブ・東欧研究者は、歴史学、文学、政治学、経済学、民族学などさまざまな専門分野に分かれて研究してはいるが、もともとはある地域に住む人々の織りなす世界の通時的・共時的動態という一体化した全体を、部分ずつに切り取って論じてきたに過ぎないのである。それは再度総合されなければならない。その意味で今回「21世紀COE拠点形成」の申請を機会にスラブ研究センターが打ち出した構想は、地域研究の新しい方向性を一段高い次元で明確にすることができたように思われる。

 おそらく、近未来にスラ研の研究所としての存在条件がドラスチックに改善されるということはないと思う。また今後十年、あるいは二十年、日本全国で活躍しながらスラ研と緊密な関係を結んできた研究者の置かれる条件は、まちがいなく悪化の一途をたどることであろう。だからこそどんな状況にあっても揺らぐことのない「拠点」が必要なのだ。これはスラ研の現有スタッフにとってだけでなく、日本におけるスラブ・ユーラシア関連研究全体にとって必要なのである。私たちの研究分野の先達はずっと、今以上に不利な状況に置かれていた。しかしそれをはねのける強靱さを持っていたからこそ、研究の持続性が保たれてきたのである。スラ研がいよいよ取り組むこととなった「21世紀COE拠点形成プログラム」でも、この「打たれ強さ」が大いに発揮されるであろうと、期待している。



◆ 2003年度夏期国際シンポジウム開催される ◆

 7月16日から19日に、センター恒例の夏期国際シンポジウムが予定通り開催されました。今年度のテーマは「スラブ・ユーラシアの世界経済・国際社会との統合」で、科学研究費補助金基盤研究A「ロシアの世界経済との統合に関する総合的研究」(代表:田畑伸一郎)の研究グループを軸に、同基盤研究A「東欧の地域社会形成と拡大EUの相互的影響に関する研究」(代表:家田修)と同基盤研究B「ポスト冷戦時代のロシア・中国関係とそのアジア諸地域への影響」(代表:岩下明裕)の研究グループの支援を受けて、企画されました。センターは、21世紀COE研究教育拠点形成プログラムとして、「スラブ・ユーラシア学の構築:中域圏の形成と地球化」を申請し、この度採択されましたが、このシンポジウムは、この拠点形成事業の実質的な開始記念企画という位置付けをなされていました。

[セッションの風景]

 このシンポジウムは、スラブ・ユーラシア地域における体制転換とグローバル化が織りなす複雑な諸現象の解明を目的としました。中心となったトピックの一つは、ロシア経済の世界経済との統合の問題で、そのなかで鍵となるロシアの石油・ガス輸出という要因をめぐって日露の専門家によって統計学的、数量経済学的分析が報告され、活発な議論がなされました。意見の一致にはもちろん至りませんでしたが、今後のロシアの世界経済との統合を考えるうえでも、石油・ガス輸出という要因に関する研究が核となることが再確認されました。

 センターのCOEプログラムでは、東欧、中央ユーラシア、極東シベリアという三つの地域を念頭において、「中域圏」という新しい分析概念を打ち出していますが、このシンポジウムでも、この三つの中域圏においてグローバル化がどのように進んでいるかについて議論されました。すなわち、東欧とEUとの関係、中央アジアとロシア、中国との関係、ロシア極東と中国との関係に関して詳細な分析が報告され、それについての評価をめぐって意見が交わされました。このうち最後のセッションは、ロシア極東への中国人移民に関する日米の専門家による報告に中露の専門家がコメントするというユニークな陣容でした。

 このシンポジウムでの報告者は計16名、その内訳は、外国人11名(ロシア4、英国、米国各2、カザフスタン、中国、ドイツ各1)、日本人5名で、ロシア語による一つの報告を除いて、すべて英語による報告でした。参加者は、外国人28人を含む129人でした。このシンポジウムでの発表ペーパーは、COEの英文出版シリーズ(Slavic Eurasian Studies)の第1号として、近々センターから出版されます。

[田畑]



◆ 2003年度冬期国際シンポジウム予告 ◆

 2004年1月28日から31日にかけて、冬期国際シンポジウム "Emerging Meso-Areas in the Former Socialist Countries. Histories Revived or Improvised? " が開催されます。今回は、21世紀COE「スラブ・ユーラシア学の構築:中域圏と地球化」の最初の国際シンポジウムとなります。主な対象地域は、これまでスラブ研究センターが十分にカバーしてこなかったバルト諸国とコーカサスです。いまのところ、予定されているセッションと報告者は以下の通りです。

 なお、新しい試みとして、1月31日に、若手研究者国際ワークショップを開催します。このワークショップでの日本人報告者を公募中ですので、ふるってご応募ください(募集要綱別項)。

[松里]

Commemorative lecture by Aleksandr Bobrov

Session 1. Conceptualizing Meso-Areas (Roundtable)
  Speakers: IEDA, Osamu (SRC), Vitaly Merkushev (Institute of Philosophy and Law, Ural Division, RAS), Yaroslav Hrytsak (Lviv State University), HARA, Teruyuki (SRC)

Session 2. Reform Slackers or Throes of Creation? A Comparative Study of Ukraine, Belarus, and Moldova
  FUJIMORI, Shinkichi (SRC), "Gastraders and Clan Politics in Ukraine 1993-2003"
  Vladimir Rovdo (Belarus State University), "Populism in Belarus"
  Stephen White (Glasgow University), "Moldovan Politics "

Session 3. Baltic Countries: an Independent Meso-area or Something Else?
  Vello Pettai (Tartu University), "The Baltic States: Still A Single Political Model? "
  もう1名交渉中。

Session 4. Islam in Dagestan
  Dmitry Makarov (Institute of Oriental Studies, RAS), "Radicalization of Islam in Daghestan"
  Magomed-Rasul Ibragimov (Dagestan State University), "Islam and Ethnicity in Daghestan "

Session 5. Unrecognized States in the Post-Communist International Order
  Stanislav Lakoba, "The Abkhazian Political Regime"(in Russian)
  そのほか、ナゴルノ・カラバフから1名、沿ドニエストルから1名

Session 6. Changing National and Historical Consciousness in Post-Imperial Territories
  Andrzei Novak ("Arcana,"Krakow), "Poland: between Imperial Temptation and Anti-imperial Function in Eastern European Politics from 18 to 21 Centuries"
  Darius Staliunas (Institute of Lithuanian History, LAS), "From a National to Civil History: Changes in the Contemporary Lithuanian Historiography "
  Dmitry Gorenburg (CNN Corporation), "Tatar Identity: A United, Indivisible Nation? "

Session 7. The Western Borderlands of the Russian Empire
  Valentyna Nadolska (Volyn State University) "Volyn in the Russian Empire: the Migration Process and Cultural Interactions"
  Mikhail Dolbilov (Voronezh State University), "Visualizing Catholicism:Russifiers between Fighting against and Tolerance toward Catholic Church in the Western Region"
  MATSUZATO Kimitaka (SRC), "German Elitism in a Populist Empire: The Ostzei Question in a Comparative Perspective"
  ほか1名交渉中。

Session 8. Sciences and the Empire: How were National Minorities Perceived (or Constructed)?
  Andrei Znamenski (SRC), "Pagon Past as Live Tradition: Native Shamanism in Aesthetics of Siberian Regionalism, 1860-1920"
  Marina Mogil'ner (Kazan University), "The Russian Jewish Anthropology in the Late 19th - Early 20th Century Russia in Search for a 'Jewish Race"



◆ 「若手研究者国際ワークショップ」報告者の募集 ◆

International Workshop by Junior Scholars,
"Emerging Meso-Areas in the Former Socialist Countries:
Histories Revived or Improvised?"

1.開催日:2004年1月31日

2.趣旨:21世紀COEプログラムの一環として、2004年1月28日〜30日に開催される国際シンポジウムに付随する企画として、1月31日(土)に若手研究者国際ワークショップを開催します。このワークショップに向け、若干名の外国人若手研究者を招聘すると同時に、日本人若手研究者の中から報告者を公募します。報告者は、国際シンポジウムに出席した世界的な研究者のコメントを受け、討論することができます。

3.応募資格
1) 博士号未取得、ないし博士号取得後2年未満であること。
2) 原則として2003年4月1日時点で年齢35歳以下。
3) 英文での事前ペーパーを提出できること。ペーパーの分量はA4ダブルスペースで20枚程度。提出期限は2004年1月10日必着(電子メール可)。
4) 国際シンポジウムに出席し、討論に参加する用意があること(若手研究者国際ワークショップのみの出席は認めない)。

4.報告テーマ設定:以上の応募資格に加え、国際シンポジウムとの連動性を考慮し、今回の若手研究者国際ワークショップに関しては、 報告テーマを以下のいずれかに限定します。
1) ウクライナ、ベラルーシ、中央アジア、バルト諸国、バルカンなどの新独立諸国の政治経済、民族問題、地域紛争。
2) 旧社会主義諸国を素材とした比較政治、政治体制の比較類型論。
3) 旧社会主義諸国のサブナショナル政治(リージョナリズム、地方自治)。
4) ロマノフ、ハプスブルク、オスマン、ソ連などを素材とした帝国論。
5) 旧社会主義諸国の民族・信教関係の歴史、現状。
6) EU、NATO拡大が東欧に及ぼした影響。
7) 中央ユーラシア(中央アジア、コーカサス、ヴォルガ・ウラル・カスピ地域)の歴史、宗教、政治。

5.招聘条件:居住地と札幌との往復旅費および1月27日から2月1日までの札幌滞在費を支給。なおこの期間を越えてスラブ研究センターに自費で滞在を希望する者には、研究施設利用などで便宜が与えられます。

6.募集期間:2003年10月1日〜2003年10月31日(必着)

7.招聘者の発表:2003年11月10日

8.提出書類:応募者は、履歴書、業績一覧、報告題目とその要旨 (複数提案も可)を、応募期日までにスラブ研究センター(担当者:松里公孝)に送付すること。電子メールで送付する場合は、以下の2アドレスに送ること。
     mika@slav.hokudai.ac.jp 及び kim@slav.hokudai.ac.jp

[松里]



◆ 21世紀COE外国人研究員募集中 ◆

21世紀COE外国人研究員の募集をおこなっています。滞在期間は2004年1〜12月の間の1〜3ヵ月間、募集締切りは2003年11月15日。くわしい要綱・応募用紙(英文)はセンターのホームページに掲載されています。

[編集部]



◆ 21世紀COE研究員決定 ◆

21世紀COE「スラブ・ユーラシア学の構築:中域圏の形成と地球化」プログラムの一環として非常勤研究員の募集がおこなわれ、以下の4名が採用されました。任期は2003年10月1日〜2004年3月31日です。

[編集部]



研究の最前線

◆ 中・東欧=日本21世紀フォーラム開催される ◆

[セッションの風景]

 9月3日から5日までの日程で、スラブ研究センターを会場として国際会議「中・東欧=日本21世紀フォーラム:中・東欧の民主政と市場経済:新制度は定着するのか?」が開催されました。国際交流基金の「日欧国際会議助成」プログラムからの助成による会議で、7人の外国人研究者(ハンガリー、チェコから各2名、スロヴァキア、クロアチア、イタリアから各1名)が報告者として招聘され、加えて日本側から7名が報告者、10名が討論者として会議に参加しました。センター内外からの出席者を加えると30名ほどの会議で、センターで開催される会議としてはこぢんまりとしたものでしたが、その分、参加者間に親密な雰囲気が生まれ、会議は実りの多いものになりました。

 この会議は、1996年から5回にわたって開催された「中欧と日本との間の新知的対話」シリーズ(これについてはその世話役を務められた木村汎氏による報告が『スラブ研究センターニュース』91号に掲載されています)の後継プログラムを目指すものです。

 今回の会議は、1989年以降の中・東欧地域での政治と経済の転換過程を、おもに比較政治学と比較経済学という専門領域から再検討しようとするものでした。この地域での民主化と市場化、それにEU加盟という過程は全体として肯定的な評価をうけつつも、欧州統合との関連で「民主政の赤字」や市場化にともなうさまざまな歪みが指摘されました。ハンガリー政治学会の重鎮であるアッチラ・アーグ氏の「改革疲れ」という言葉は現在の中・東欧の雰囲気をよく伝えるものであったといえます。中・東欧を専門とする研究者が中心の会議でありましが、ロシアを専門とする皆川修吾氏、栖原学氏が報告者として、やはりロシアを専門とする木村汎氏、下斗米伸夫氏と中国研究者の高原明生氏、国際政治学の中村研一氏らが討論者として加わり、比較という視点から議論を盛り上げて頂いたことについて、この場を借りて感謝申し上げます。

 なお、この会議に提出された報告は年度内にスラブ研究センターから出版される予定です。

[林]



◆ 2004年度外国人研究員の紹介 ◆

 2004年度の長期外国人研究員の正候補3名が以下のように決まりました。この3名は、計68名の応募者の中から選ばれました。

[山村]



◆ 専任研究員セミナー ◆

 2003年5月から同年9月にかけて2件の専任研究員セミナーがおこなわれました。

5月8日 岩下明裕「9・11事件以後の中露関係」および「中央アジアをめぐる中露関係」
討論者:中村研一(北大・法学研究科)
5月30日 松里公孝 " A Populist in an Ocean of Clan Politics: The Lukashenko Regime as an Exception among CIS Countries"
討論者:服部倫卓(ロシア東欧経済研究所)

 第2〜第3四半期における専任研究員セミナーの開催は上記2件だけにとどまりました。センターも大学院教育の負担が次第に増え、また事業の拡大と共に本来の研究活動そのものへの時間が割けなくなってきた結果、起こってきていることかも知れません。

 アカデミック・ルポを標榜している岩下研究員は、昨年角川書店より『中露国境4000キロ:交渉現場の10年』と題する単行本を出版しましたが、さらにその枠を中央アジアに広め、精力的なフィールド・ワークを進めています。どうやら本人は中露関係を卒業したいようです。

 地域研究の要であるフィールド・ワークと理論を結びつける視点を失わずに研究を続け、スラブの世界に出没している松里研究員は、今度はベラルーシ問題を取り上げて、報告いたしました。その原点は2001年にベラルーシの大統領選での監視員としての経験にあったようです。この次には何を報告するのか楽しみです。

[村上]



◆ 研究会活動 ◆

 ニュース94号以降の北海道スラブ研究会およびセンター研究会の活動は以下の通りです。

[大須賀]

9月30日 諫早勇一(同志社大学・センター客員教授)「ナボコフのベルリ ン」(センター研究会)
10月2日 B.ドレウスキ(国立東洋語学・文明研究所、フランス)" Transitions of the Former Socialist Countries of Central and Eastern Europe: Similarities and Differentiations"(センター研究会)
10月17日 センターCOE特別セミナー"Russian Foreign Policy since 9/11"
E.バジャノフ(ロシア外務省現代国際関係研究所)" Russia and the Iraq War" ; N.バジャノワ(ロシア科学アカデミー東洋学研究所)"Russia and the North Korean Nuclear Crisis"
討論者:和田春樹(東京大学名誉教授)



→後半へ
スラブ研究センターニュース No.95 目次