スラブ研究センターニュース 季刊 2009 年春号 No.117 index
人間文化研究機構総合地球環境学研究所(地球研)とスラブ研究センターは標記の国際研究集会を2009年2月28日(土)及び3月1日(日)の両日にわ たって、総合地球環境学研究所において共催しました。開催趣旨は以下のとおりです。
「旧ソ連東欧諸国(スラブ・ユーラシア諸国)は20年前の体制転換以降、社会主義に代わ る経済政治体制の構築に努めてきた。その結果として市場 経済化や民主化が進展したが、他方で市場経済化や民主化では十分に対処できない公共性という問題領域、つまり公共財の社会的な管理運営が注目を集めるよう になってきた。しかも今日の公共財は従来公共財の典型と考えられた軍事・外交とは異なり、必ずしも国家を単位として管理運営されるのではなく、地域住民な いしNPO-NGO(民間非営利団体)の同意と参加、自治体間や国家間の調整を必要とする領域に拡大している。
これまで科研費研究「東欧のコミュニティ形成と地域公論および広域公共財」(代表:家田修、2006-08年度) では主に人文社会科学の視点か らこの問題に迫ってきたが、近年、東欧およびスラブ・ユーラシア諸国においても自然環境を公共財として考え、その管理運営を求める動きが生まれている。そ もそも環境を公共財として管理運営しようとする考え方は、産業化や都市化が一定の段階に達するなかで生まれた。従って環境保全は産業化=都市化と単に負の 相関関係にあるのではなく、思想的にも技術的にも相互依存関係として理解すべき側面も存在する。その意味で、第一次産業を軸とした人間社会と環境の係わり に加えて、産業化=都市化という第三の要因を取り込むことで、人間と環境の複合的な係わりを描き出すことができるのではないかと考えられる。
2007年度より、スラブ研究センターと総合地球環境学研究所との連携研究が進展する中、「地域と環境」をテーマ として本格的な共同研究を実施する条件が 整ってきた。
今回の国際ワークショップでは、地球研ですでに進行しているスラブ・ユーラシアの環境に係わる複数のプロジェクト の研究成果に学びつつ、今後の共同研究の 具体的なあり方を討議することにより、文理の諸科学が今後いっそう協働できる実践的な研究体制と研究領域を作り上げることが意図される。
とりわけ昨年、日本とハンガリーの間でCO2の排出権取引に関する合意が成立し、今後、日本は環境政策でスラブ・ ユーラシア諸国との関係を強めようとして いる。これは本ワークショップが目指す総合的環境研究が今後、国家的にも一層必要とされることを示している。
今回の国際ワークショップの準備および開催では以上のことを念頭に置き、スラブ・ユーラシアにおける「地域と環 境」問題を総合的に研究してゆく国内的、国際的な体勢作りが始められることになる。」
この趣旨のもとに今回のワークショップでは、地球研の窪田プロジェクト、白岩プロジェクト、井上プロジェクトの協力を得て、自然科学分野と人文・社会科学 分野の連携を試みるべく、下記のようなプログラムで議論が進行しました。海外からはイギリス、ロシア、カザフスタン、ハンガリー、ルーマニア、スロヴァキ アから報告者が招かれました。
おもな参加者が集まって
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February 28 (Sat) | |
11:05-11:10 |
Opening Speech 秋道智彌(総合地球環境学研究所副所長) |
11:10-11:20 |
Keynote Speech 家田修(北海道大学スラブ研究センター) |
Session
1 Cross-national Eco-system and
Trans-national Regulation in Amur-Okhotsk Region |
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CHAIR |
白岩孝行(総合地球環境学研究所) |
11:20-11:40 |
Social Indicators, Ecological Quality and Regional
Development: an Example from the Transboundary Basin of the Amur
River Sergey S. GANZEY, Pacific Institute of Geography FEB RAS, Vladivostok, Russia |
11:40-12:00 |
The “Giant” Fish-Breeding
Forest as Global
Environmental Public Goods 花松泰倫(総合地球環境学研究所) |
12:00-12:30 |
Discussion |
Session
2
Political-economic-climate Changes and Water Ecosystem |
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CHAIR |
井上元(総合地球環境学研究所) |
13:30-13:50 |
Historical Changes of Agricultural Development and
Water Environment in the Ili River Basin, Southeastern
Kazakhstan, 1936-1998 秋山知宏 (愛知大学 国際中国学研究センター) |
13:50-14:10 |
The Water Problem in Central Asia
and Probable Changes of Water Resources in Nearest Decades as
Reaction on Climate Change and Degradation of Glaciers Igor SEVERSKIY, Institute of Geography, Kazakhstan |
14:10-14:30 |
Siberian Winter Roads on the Frozen River and Ponds,
as Public Goods depending on the Local Environment 奥村誠(東北大学 東北アジア研究センター) |
14:30-15:10 |
Discussion |
Session
3 Emerging Regional Public Sphere in Central Eastern Europe
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CHAIR |
窪田順平(総合地球環境学研究所) |
15:30-15:50 |
Emerging Public Sphere in the Environmental Policy in
Hungary 家田修(北海道大学スラブ研究センター) |
15:50-16:10 |
Regional Integration and Trans-national History:
Reflection on the History of Biopolitics in
Central Europe Constantin IORDACHI, Central European University, Romania |
16:10-16:30 |
Transcending Ethnic Conceptions of Cross-Border Space Nigel SWAIN, School of History, University of Liverpool, UK |
16:30-17:10 |
Discussion |
March 1 (Sun) | |
Session
4 Post-communist Public Sphere in Central
Eastern Europe |
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CHAIR |
林忠行(北海道大学) |
9:30-9:50 |
Social Welfare in Communist East Central Europe: Structure,
Functions and Dynamics TOMKA Béla, University of Szeged, Hungary |
9:50-10:10 |
The Pension System as Public Goods in the Czech Republic 池本修一 (日本大学経済学部) |
10:10-10:30 |
Local Communities in Transylvania in the Period of
Transition 中島崇文 (学習院女子大学) |
10:30-11:10 |
Discussion |
Session
5 Historical Aspects on Conceptualization of National and Public
Sphere: Slovakian Case |
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CHAIR |
長與進 (早稲田大学) |
11:30-11:50 |
The Concept of the
Slovak Nation and Corporate State: The Melding of the Concepts of
Natio, Populus and Gens in the Eighteenth-Century
Hungary 中澤達哉 (福井大学) |
11:50-12:10 |
The Idea of National Identity of Slovaks in 1848-1914 Milan PODRIMAVSKÝ, Institute of History, Slovak Academy of Sciences in Bratislava, Slovakia |
12:10-12:40 |
Discussion |
Session
6 Historical Aspects on Conceptualization of National and Public
Sphere: Croatian and Hungarian Cases |
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CHAIR |
玉木修(京都大学) |
13:40-14:00 |
The Development of
Slavic Reading Clubs and Schools in the Era of National Revival in
Istria 石田信一(跡見学園女子大学) |
14:00-14:20 |
Elementary School as Public Good for the Consumers: Local
Residents and Cegléd Municipal 'Tanya' Schools in Dualistic Era
Hungary 渡邊昭子(大阪教育大学) |
14:20-15:20 |
Concluding Discussion |
15:20-15:30 |
Closing Remarks |
アムール川―オホーツク海にまたがる魚付林水域という環境を基にした地域圏の発想、中央アジアを水文学から理解すること、シベリアを冬季だけ通じる氷道か ら見直すこと、いずれも社会科学や人文科学を専門にしている立場から見ると、とても新鮮で、新しい世界が開けてくるようでした。反対に自然文化環境を統合 して公共圏public sphereから理解しようとする社会科学から自然科学者への提案は、まだまだおおいに工夫が必要であることがわかりました。
ともあれ今後の地球研とスラ研との本格的な連携の第一歩は確実に踏み出されました。スラブ・ユーラシアにとって環境問題は今後重要性を増していくことは あっても、減ずることはないと思います。皆様からのご意見、ご提案をお待ちしております。