スラブ研究センターニュース 季刊 2007年冬号 No.108 index
12 月13 日( 水) か ら15 日(金)まで、セ ンター冬期国際シンポ ジウム「帝国を超えて: ユーラシア文化のコン テクストにおけるロシ アのイメージ」が、セ ンター大会議室でおこ なわれました。このシ ンポジウムは、21 世紀 COE プログラム「スラ ブ・ユーラシア学の構 築」(代表:家田修)が 主催し、科学研究費補 助金基盤研究A「スラ ブ・ユーラシアにおける東西文化の対話と対抗のパラダイム」(代表:望月哲男)が支援する 形でおこなわれたものです。
セッション7のようす
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シンポジウムの趣旨は、ユーラシアの大国ロシアの文化的なアイデンティティは何かとい う伝統的な問題を、ソ連解体後15 年を経た今日の目から再検討しようというものでした。国 家の自己イメージと対他イメージというデリケートな問題を総合的に分析するという試みで、 参加者の専門分野も文学、歴史、地理、美術、教育、思想、音楽、文化学、ディアスポラやジェ ンダー研究など、きわめて多岐にわたりました。
第1セッションでは、ポストソ連の文芸がロシア・イメージを誇張的に再生産している現 象が検討されました。第2・3セッションでは、コーカサス、ポーランド、ユダヤなどをキー 概念として、オリエンタリズムやポストコロニアリズムの観点からのロシア近代史が概観さ れました。第4セッションでは心象地理の方法によるロシアやユーラシアのイメージが検討 されました。第5セッションではドイツ、バルト、バルカンといった関係の深い外国におけ るロシアとロシア人のイメー ジが検討されました。第6セッ ションではヴィジュアルな表 現分野における20 世紀ロシア のイメージが、第7セッショ ンでは文芸・教育のジャンル におけるロシア・イメージの 形成と受容の問題が、それぞ れ検討されました。また、ソ 連文化のアイデンティティ形 成における映画の役割の消長 を物語るフィルム上演もおこ なわれました。
センター大会議室に設置されている同時通訳のブース
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ロシア、ラトヴィア、ポーラ ンド、ドイツ、イギリス、アメ リカの6ヵ国11 人の外国人研 究者と12 人の国内研究者による議論は充実したもので、問題の文化論的な重要性を確認させ るとともに、さまざまな研究分野を取り込んだ国際的な共同研究の必要性を再認識させるもの でした。スラブ・ユーラシア社会文化の推移の中で、従来自明のもののように用いられてきた「ロ シア文化」「ロシア人」といった概念が改めて反省的検討の対象となり、われわれの学問自体 のアイデンティティも問われています。国際シンポジウムはそうした足場の揺らぎ自体が、実 は積極的に取り組むべき学問のテーマであることを自覚させてくれるものでした
帝 国を超えて:ユーラシア文化のコンテクストにおけるロシアのイメージ |
日時: |
2006 年12月13日(水)~ 15日(金) |
場
所: |
北 海道大学スラブ研究センター |
使
用言語: |
英
語・ロシア語(セッション1を除いて英露同時通訳ありり) E =英語報告、R =ロシア語報告 |
プ
ログラム |
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12
月13日(水) |
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14:00 |
開会の挨拶 |
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松里公孝(スラブ研究センター長) 望月哲男(組織委員代表) |
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14:15-16:45 |
セッ ション 1. | 現
代文学とロシア:加工されるイメージ |
Papers: |
ボリス・ラーニン (ロシア教育アカデミー) |
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現代ロシアの反ユートピア文学における架空の
ロシア
(in Russian) |
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越野剛 (学振特別研究員、SRC) |
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現代ロシア「歴史仮想」SFにおける帝国
への郷愁(in Russian) |
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岩本和久 (稚内北星大) |
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V.ペレーヴィンの創作におけるグローバ
リズムとローカリズム(in Russian) |
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望月哲男 (SRC) 福間加容(大阪外語大) |
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『ロマン』にはいくつ
の絵が隠れているか:ウラジーミル・ソローキンとロシアの風景画(in
Russian) |
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司会: |
毛利公美(SRC) |
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討論: |
沼野充義(東京大) |
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17:00-18:00 |
特
別プログラム |
大
ス
クリーン上のロシア |
デイビッド・ウルフ(SRC) |
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映画提供: |
T.ラフーセン(トロント大) |
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12
月 14日(木) |
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9:30-11:45 |
セッ
ション 2. |
帝 国の知:ロシアのオリエンタリズムとポストコロニアリズム I |
Papers: |
中村唯史 (山形大学) |
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文学と境界:ロシア文学におけるカフカ
ス――O.マンデリシタムとA.ビートフの場合(in Russian) |
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ハーシャ・ラム (カリフォルニア大バークレー校) |
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象徴のクロノトポス:ロシアとグルジアのモダニズ
ムにおける文化交差的な差異(in English) |
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乗松亨平(学振特別研究員、東京大) |
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19世紀ロシア文学におけるコロニア
ル表象の条件(in Russian) |
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司会: |
木村崇(京都大) |
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討論: |
宇山智彦(SRC) |
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13:00-15:15 |
セッ
ション 3. |
帝
国の知:ロシアのオリエンタリズムとポストコロニアリズム II |
セルゲイ・コズロフ(ペテルブルグ大、SRC) |
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近代ロシアの旅行者たち:帝国の眼差かコス
モポリタンの感覚か(in Russian) |
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アンジェイ・ラザリ (ウッチ大) |
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互いの目に映ったポーランド人とロシア人(in
Russian) |
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赤尾光春 (SRC) |
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ロシア問題としての「ユダヤ問題」:帝政末期反
ユダヤ主義へのロシア知識人の態度(in Russian) |
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司会: |
中澤敦夫(富山大) |
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討論: |
デイビッド・ウルフ(SRC) |
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15:30-17:45 |
セッ
ション 4. |
心 象地理とロシアのイメージ |
Papers: |
ドミートリー・ザミャーチン (ロシア人文大) |
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ロシアの地理的イメージ:表象と解釈の
基本戦略 (in Russian) |
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クリストファー・イーリー (アトランティク大) |
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大改革期ロシアの都市とリアリズム絵画における視
覚表象の限界(in
English) |
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マーク・バッシン (バーミンガム大) |
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「古典的」ユーラシア主義と「新」
ユーラシア主義:継続か吸収か?(REVISED)(in English) |
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司会: |
松里公孝(SRC) |
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討論: |
鳥山祐介(学振特別研究員、早稲田大) 浜由樹子(津田塾大) |
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18:30-20:30 |
レセプション |
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12
月 15日 (金) |
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9:30-11:45 |
セッ ション 5. | 外
国におけるロシアとロシア人のイメージ |
Papers: |
ツィピルマ・ダリエヴァ (フンボルト大) |
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中途半端も悪くない:ドイツにおけるロシ
ア移民とロシア語新聞(in Russian) |
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イリーナ・ノヴィコヴァ (ラトヴィア大) |
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「近い外国」におけるロシア・イメー
ジ:1991年以降のバルトにおけるロシア語ディアスポラ (in
English) |
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三谷惠子 (京都大) |
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バルカンより愛をこめて:セルビア社会にお
けるロシアの言語表象(in English) |
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司会: |
諫早勇一(同志社大) |
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討論: |
ヴァレリー・グレチコ(東京大) |
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13:15-15:30 |
セッ
ション 6. |
「帝 国」ソ連のヴィジュアル・メモリー |
Papers: |
エヴゲーニー・ドブレンコ (ノッティンガム大) |
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ソ連国民経済博覧会とスターリニズムの
表象戦略(in Russian) |
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谷古宇尚(北海道大) |
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南クリルを描く―「色丹グループ」とロシア極
東の画家たち(in English) |
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鴻野わか菜 (千葉大) |
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ロシア-ユダヤ非体制派の芸術における世界へ
の姿勢(in
Russian) |
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司会: |
武田昭文(富山大) |
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討論: |
イリーナ・メーリニコワ(同志社大) |
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15:45-18:00 |
セッ ション7. | 文
芸・教育とロシア・イメージの形成 |
Papers: |
カーチャ・ホカンソン (オレゴン大) |
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帝国の防衛:「青銅の騎士」と「ロシア
の中傷者へ」(in English) |
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貝澤哉 (早稲田大) |
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革命前ロシアの民衆読書教育と国民意識形
成:1870年代から革命前まで(in
Russian) |
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ボリス・ガスパーロフ (コロンビア大) |
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ポポロ・ディ・ペチーノ:ムソルグス
キー的モスクワ公国像の西欧モダニズムにおける受容(in English) |
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司会: |
望月哲男 (SRC) |
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討論: |
野中進(埼玉大) 梅津紀雄(東京国際大) |