スラブ研究センターニュース 季刊 2006 年秋号No.107
比較経済体制学会の今年度の大会が予定通り6月10 ~ 11 日に一橋大学で開催されました。 共通論題は「比較経済研究の新地平:理論と実証」でした。キーノートスピーチとして、フィ リップ・ハンソン氏(チャタムハウス)が「比較経済分析の今後の課題」と題する報告をお こないました。続いて、会員の中兼和津次氏(青山学院大)、招待講演者の岡崎哲二氏(東京 大)と山田鋭夫氏(九州産業大)が共通論題に関する理論編の報告をおこないました。この後、 実証編に関する2つの報告がありました。それぞれの報告において的確な問題提起がなされ、 共通論題の設定は時宜にかなったものだったと思われました。2日目の午後からは分科会方 式が取られ、「ロシア企業の国際化・多国籍企業化」、「旧ソ連経済の諸相」、「グローバリゼー ションと移行経済」、「東アジアの移行経済」、「ロシア経済の現況」と題する5つの分科会で、 計15 本の報告がなされました。
一橋大学での開催は1967 年以来でしたが、会員数が全国の大学のなかでもっとも多いこと もあって、見事な組織運営でした。なお、定例の秋期大会は10 月28 日に神戸大学で開催され、 来年度の全国大会は富山大学で開催されます。
2006年 |
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10月29日 |
東欧史研究会10 月例会「東欧史における『近世』」 於東京外国語大学 |
10月28−29日 |
ロシア史研究会2006年度大会 於明治大学 |
11月16-19日 |
米国スラブ研究促進学会(AAASS)年次大会 於ワシントンDC |
11月18-19日 |
ロシア・東欧学会年次大会 於青山学院大学 |
12月13−15日 |
スラブ研究センター冬期国際シンポジウム(記事参照) |
2007年 |
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2月22−23日 |
国際ワークショップ「地域大国ロシアの内政:2007-08 年選挙サイクル
を目前に控えて」 於スラブ研究センター |
7月4−6日 |
スラブ研究センター夏期国際シンポジウム |
2010年 |
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7月23−27日 |
ICCEES(国際中東欧研究協議会)第8回世界会議 於ストックホルム |
センターのホームページ(裏表紙参照)にはこの他にも多くの海外情報が掲載されています。
7月5日午後、ナウカ(株)札幌営業所の熊坂さんと井上さんが揃ってあいさつに見えて、 「当社は、本日、裁判所に破産を申し立てました。明日、決定がくだされることと思います。 支援に応えられず、これまでいろいろご迷惑をかけましたが、たいへんお世話になりました。」 とのこと。翌日、両人は再度訪問され、「本日、破産が決定しました。明日より、営業所はロッ クアウトされ、連絡が取れなくなります。」と話されて帰った。
ここ数年、経営が相当苦しくなっていることは承知しているつもりであったが、何とか立 ち直れないものかと思っていた。昨年、『窓』が休刊し、最近のカタログが合併号になったの を見て、いよいよ危ういと感じていたが、ついにその日が来てしまったようだ。暗然たる気 持ちである。
ロシア語書籍輸入の老舗である同社の札幌営業所は、北大正門すぐそばのビルに居を構え、 当センターにとっては、長年にわたって最大の取引先だったと思われる。特に、秋月孝子さ んが図書室で腕をふるっていた頃、札幌営業所の担当者だった菅原さんとは大変密に連絡を 取っていたとのこと。仕事上の最大のパートナーと言っていいような存在だったと推察され る。年間取引量は、軽く1,000 万円を越えたことであろう。
1995 年にわたしがセンターに赴任した時は、すでに菅原さんは東京に移られたあとだった。 ( その後、非常に経営が厳しくなってから社長となられ、昨年亡くなられたが、わたしは亡 くなられたことを長く知らなかった。) ナウカは、依然として大口取引先の一つであったが、 次第に取引量は減っていくことになった。ご承知のように、当時、ソ連崩壊後の書籍流通には、 大混乱と大転換が生じていた。中央集権的出版と書籍流通の体制が解体され、ナウカを通じ て輸出入公団に発注するこれまでの方法では、多数の書籍が、注文しても入荷せず、出版情 報も入らなくなった。Новые книги(エヌ・カーと略して呼んだ) は、まだ出ていたが、そ れを見て注文しても、入ってくることが少ないことがわかり、使うのをやめた。いつの間にか、 エヌ・カーそのものが来なくなった。ナウカのカタログで注文しても、在庫本以外の入荷率 は非常に低く、ロシア語書籍は、(株)日ソの見計らい本で入れることが多くなった。しかし、 これではいろいろ欠けるものもあるので、それを補うために、二、三の別ルートを併用した。
ナウカとのお付き合いは、主に新聞・雑誌および洋書の方面で続いた。ナウカの洋書目録は、 人類学など人文科学系に配慮された編集がされていて、有意義であったが、発注後の入荷の 確実性には問題があり、後日クレームすることが少なくなかった。また、前に載せた本を繰 り返して載せる傾向があり、過去の発注記録を調べると、注文済みの本であることも少なく なかった。なんとか在庫をさばきたいという切迫した事情があるものと推量されたが、選書 の手間を考えると相手にするのは不経済である。また注文しても入荷しないなら、選書・発 注業務は無駄となり、かえってコレクションに穴があく。いきおい、ナウカとの取引は減っ ていくことになった。この他、新聞・雑誌の契約は大幅に他社に移され、数年前からは北大 での前金での取引対象外とされた。記録を調べると、センター図書室と2003 年度の取引は、 逐次刊行物が150 万円余り、図書などが500 万円弱の、合計650 万円余りだったのが、2005 年度は、逐次刊行物は160 万円弱に対して、図書などが260 万円弱、合計で420 万弱にとど まる。
ナウカの破産により、ロシア、旧ソ連諸国の書籍輸入を手がける国内の業者は、事実上、 日ソだけとなった。現在、大学予算の削減、書物中心の研究方法からの転換等により、洋書 輸入業自体が、非常に厳しい経営環境にさらされていると思われる。しかしその一方では、 皮肉なことに、こうしていわば脱書物化が進んだせいで、ちょっとした基本的な文献が身近 にないことが増え、かえって図書やマイクロなどの資料を組織的に整備することの意義が高 まっているようでもある。
今回の破産は不幸なことであったが、センターにとっては、資料の組織的整備を進めてい く上での、新たなパートナー模索の始点に立ったとも言える。
2006年7月から9月までの3ヵ月間における、センターのホームページへのアクセス数(但し、gif・jpg等の画像形式ファイル を除く)を統計しました。
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全アクセス数 (1日平均) |
うち、 邦語表紙 アクセス数 (1日平均) |
うち、 英語表紙 アクセス数 (1日平均) |
国内からの アクセス数 (%) |
国外からの アクセス数 (%) |
不明 (%) |
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7月 | 371,817 (11,994) | 13,932 (449) | 2,690 (87) | 98,613 (27%) | 243,370 (65%) | 29,834 (8%) |
8月 | 290,046 (9,356) | 12,174 (393) | 2,827 (91) | 76,945 (27%) | 181,302 (63%) | 31,799 (10%) |
9月 | 265,456 (8,849) | 13,680 (456) | 2,540 (85) | 74,973 (28%) | 143,714 (54%) | 46,769 (18%) |
和文のレフェリー制学術雑誌『スラヴ研究』第54 号への投稿は8月末で締め切られました。22 件の応募があり、2007 年春の発行を目指して現在審査をおこなっています。
第24 号はレフェリーによる審査が終わり、現在編集作業中です。来春の刊行をめざしてお ります。
研究報告集を希望する手紙の山
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21 世紀COE プログラム「スラブ・ユーラシア学 の構築」の一環として出版されている欧文研究論文 集(Slavic Eurasian Studies)と研究報告集は、い ずれも国内外で高い評価を受けています。2004 年 冬期国際シンポジウムの報告をまとめたSES 10 号 Reconstruction and Interaction of Slavic Eurasia and Its Neighboring Worlds(2006 年8月刊行)について、中 央ユーラシア研究のメーリングリストに掲載された案 内を受けて、世界中から送付希望のメールが届きまし た。また、北方領土問題を扱った研究報告集第15 号「日 ロ関係の新しいアプローチを求めて」(2006 年7月刊行)は、北海道新聞の記事でも紹介されて、 研究者以外の間でも高い関心を集め、配布を希望する多くの声が寄せられました。
SES シリーズ第10 巻、Ieda Osamu and Uyama Tomohiko, eds., Reconstruction and Interaction of Slavic Eurasia and Its Neighboring Worlds が刊行されました。こ れは2004 年12 月 の国際シンポジウム「スラブ・ユーラシアと隣接世界の再編」に提出されたペーパーをもと にした論文集です。内容は以下の通りです。センターのインターネットサイト (http://src-h.slav.hokudai.ac.jp/coe21/publish/no10_ses/contents.html) にも全文が掲載されています。
Regional
Studies in Russia and Current
Methodological Approaches for Social/Historical/Ideological
[Re]construction of International Relations and Regional Interaction in
Eastern Eurasia |
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....... |
Aleksei D. VOSKRESSENSKI |
Changing
Dynamics in the East European
Meso-Area: A Rural, Grass-Roots Perspective |
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....... |
Nigel
SWAIN |
East
European Regional Identity: Vanishing Away and Recreated |
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....... |
IEDA Osamu |
Bashkortostan’s
Democratic Moment? Patronal
Presidentialism, Regional Regime Change, and Identity in Russia |
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....... |
Ildar
GABDRAFIKOV and Henry E. HALE |
Dual
Citizenship in Post-Communist Central
and Eastern Europe: Regional Integration and Inter-ethnic Tensions |
|
....... |
Constantin
IORDACHI |
The
Status Law Syndrome and Regional/National Identity: Hungary, Hungarians
in Romania, and Romania |
|
....... |
Zoltán KÁNTOR |
Education
as an Instrument of Moldovan Identity Formation |
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....... |
Steven D. ROPER |
Imperial
Russia and the Armenian Catholicos at Home and Abroad |
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....... |
Paul WERTH |
The
Forced Migrations and Reorganisation of the Regional Order in the
Caucasus by Safavid Iran: Preconditions and Developments Described by
Fazli Khuzani |
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....... |
MAEDA Hirotake |
A Revolt
of
Social Memory: The Chechens and
Ingush against the Soviet Historians |
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....... |
Viktor A. SHNIRELMAN |
Integration
and Separation of ‘Language’:
Language Policies of Mongolian Peoples in the USSR and Mongolia,
1920–1940 |
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....... |
ARAI Yukiyasu |
The
Politics
of Civil Society, Mahalla and
NGOs: Uzbekistan |
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....... |
SUDA Masaru |
SES シリーズ第11 巻、S. Tabata, ed., Dependent on Oil and Gas: Russia’s Integration into the World Economy が刊行されました。これは編者らを中心とする科学研究費補助金「ロシアの 世界経済との統合に関する総合的研究」(2001 ~ 2004 年)、「ロシア資本主義と資金循環」(2005 ~ 2008 年)や、21 世紀COE プログラムのなかでおこなわれている「石油ガスとCIS 経済研 究」における研究成果をまとめたものです。
ロシアの石油・ガス輸出で獲得された資金の循環に関して、我々のグループがおこなって きた研究は、世界的にも一定の評価を得ていると思ってますが、これまでの成果を1冊の 本にまとめることにより、さらに認知度を高め、この分野での情報発信を積極的におこなう ことが、この本刊行のねらいとなっています。115 ページほどのコンパクトな本ですが、同 時期に刊行されたM. Ellman, ed., Russia's Oil and Natural Gas: Bonanza or Curse? (London: Anthem, 2006) と並んで、この分野における研究進展に貢献できれば幸いだと考えています。掲載論文は以下のとおりです。
1. |
Oil and
Gas in the Economic Transformation
of Russia |
....... |
Shinichiro Tabata |
2. |
How Large
is the Oil and Gas Sector of
Russia? A Research Report |
....... |
Masaaki Kuboniwa ,
Shinichiro Tabata, Nataliya Ustinova |
3. |
Economy-wide
Influences of the Russian Oil Boom: A National Accounting Matrix
Approach |
....... |
Yasushi Nakamura |
4. |
Capital
Flight from Russia |
....... |
Akira Uegaki |
5. |
Oversights
in Russia's Corporate
Governance: The Case of the Oil and Gas
Industry |
....... |
Toshihiko Shiobara |
『21 世紀COE 研究報告集16 号『「民主化革命」とは何だったのか:グルジア、ウクライナ、 クルグズスタン』が8月に発行されました。2003 年11 月から2005 年3月にかけて起きた3ヵ 国の政権交代は、「バラ革命」「オレンジ革命」「チューリップ革命」としてセンセーショナル に報道されましたが、学術的な分析は多くなされてきたとは言えません。この論集は、一定 の時間が経った後でこれらの事件の意味を改めて問い、地域研究者の目で各国の政治を分析・ 比較したものです。ロシアとの緊張を高めるグルジアをはじめ、3ヵ国の状況は今なおダイ ナミックな変化を続けており、ユーラシアの政治変動を考えるうえで3つの「革命」の分析 は重要な意味を持っていると思われます。
収録論文は以下の通りです。センターのインターネットサイト (http://src-h.slav.hokudai.ac.jp/coe21/publish/no16/contents.html) にも全文が掲載されています。
第1章 |
グ ルジアのバラ革命 –「革命」にみる連続性– | ....... |
前田弘毅 |
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第2章 |
ウ クライナ –政権交代としての「オレンジ革命」– | ....... |
藤森信吉 |
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第3章 |
ク ルグズスタン(キルギス)の革命 −エリートの離合集散と社会ネットワークの動員− | ....... |
宇山智彦 |
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第4章 |
グ ルジア・ウクライナ・クルグズスタン三国「革命」の比較 | ....... |
宇山智彦・前田弘毅・藤森信吉 |
21 世紀COE 研究報告集17 号『ロシアの中のアジア/アジアの中のロシア(III)』が9月 に発行されました。編者は表題と同名のサブプログラムの推進者として昨年度まで尽力され、 本年3月末にセンターを退職された原暉之氏です。内容は以下の通りです。センターのイン ターネットサイト(http://src-h.slav.hokudai.ac.jp/coe21/publish/no17/contents.html) にも全 文が掲載されています。
ロシア極東アルヒーフの地
域史研究への参画 |
........ |
トロポフ
A. A. (左近幸村訳) |
ロシア極東アルヒーフ文書
に見られる日本および日本人 |
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トロツカヤ
H. A. (有泉和子訳) |
戦争と漁業:「北洋漁業」
の歴史を問い直す |
........ |
神長英輔 |
アブラハム・カウフマンと
ハルビン・ユダヤ人社会:日本統治下ユダヤ人社会の一断面 |
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高尾千津子 |
中国領アルタイの古儀式
派:国連難民高等弁務官事務所資料を中心に |
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塚田力 |
トランスボーダーの人流:
1930年代初頭ロシア極東から北海道に避難・脱出した事件を中心に |
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倉田有佳 |
中東鉄道警備隊と満洲の軍
事バランス:1897-1907年 |
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麻田雅文 |
スンガリ川、アムール川の
穀物輸送とロシアの植民問題:1907-1913年 |
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左近幸村 |
極東における帝立ロシア地
理学協会:サハリン地理調査を手がかりとして |
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天野尚樹 |
3年毎の改訂時期を迎えた『スラブ・ユーラシア研究者名簿』の第8版が10 月下旬に刊行 されます。今回は約1,950 名に調査票を発送し、掲載可の返事を得られた方1,529 名を名簿 に収録いたしました。掲載可のお返事をいただいた方には、刊行され次第名簿をお届けします。
今回は日本ロシア・東欧研究連絡協議会から委託された別のアンケートを同封する必要が あったことと個人情報保護の観点から、従来の往復はがきではなく封書の形で調査票を送付 させていただきました。開封の手間がかかるので回答率が下がるのではないかと心配しまし たが、前回並みの回答をいただき、喜んでおります。この名簿が研究者間の連絡等のお役に 立てれば幸いです。