スラブ研究センターニュース 季刊 2005 年秋号 No.103



学界短信

ICCEESベルリン世界大会:400のパネル、松里氏新理事に 

旧ソ連東欧地域研究の国際学会であるICCEES(International Council for Central and East European Studies)が5年ごとに開催している世界大会が今年、7月25-31日を会期として、ベルリンのフンボルト大学で開かれた。今回が7回目である。ス ラブ研究センターは、21世紀COEプログラムで提起している中域圏論を国際学会で提唱するという「公約」を果たすため、さらには昨年5月に同学会の理事 を迎えてセンターで国際シンポジウムを開催した経緯もあり、複数のパネルを組織し、センター長の田畑、そして松里と家田の三名が参加した。センターが組織 主体となったパネルでは日本から秋田経済法科大学の松村岳志氏と現センター外国人研究員のドルビロフ氏も参加し、さらに海外からの参加組として、昨年、一 昨年の外国人研究員だったワース氏やスウェイン氏がパネルに加わり、センターの存在感を国際学会で高めることができた。以下はセンターが組織ないしセン ターの専任研究員が報告したパネルの概要である。

New Trends in Russian Imperiology: Interimperial Comparison. Regional and Socio-ethnic Approach (Chair: M.Dolbilov, Panelists: A. Miller, K. Matsuzato, T. Matsumura, Discussant: I. Gerasimov),
Emerging East European Meso-area in Post-communist Slavic Eurasia (Chair & Discussant: O. Ieda, Panelists: N. Swain, V. Pettai),
Islam Politics in Russian Regions (Chair: P. Werth, Panelists: R. Gallyamov, I. Gabdrafikov, Discussant: K. Matsuzato),
Overcoming Dutch Disease in Russia (Chair: S. Malle, Panelists: E. Gavrilenkov, S. Tabata, Discussant: W. Schrettl)

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セ ンターが組織したパネル1

大会初日の開会式では世界文化会館Haus der Kulturen der Weltを会場として、今回の共通論題である「ヨーロッパ:我々の共通の家 Europe: Our Common Home」について来独中のポーランド大統領クワシニェフスキーやドイツ政界の要人が演説するなど、華やかな雰囲気が演出された。

26日から始まったパネルは総数で400近くに達し、一日あたり80、つまり平均して20のパネルが同時並行的に進行した。全体の参加者数は公式の数字で 49ヵ国、1,749名に達するが、律儀に全ての時間帯で休み無く会場を回る参加者はさほど多くなかったのか、それとも筆者が顔を出したパネルが学会主流 派 のロシア関係ではなかったためなのか、はたまた偶然にも不人気なものばかり選んでしまったのか、一パネルの参加者は概ね20~30名程度であり、報告者を 含めて10名前後のパネルも少なくなかった。ちなみに日本人参加者総数は参加登録実数で35名だったとのことである。前回のタンペレ大会の日本人参加者は 一桁程度だったと聞いているので、今回は大幅増である。実際、主催者のドイツ人理事であるブレーマー氏は日本からの出席者の増加を「大代表団big delegationが来た」と喜んでいた。今大会最大の「代表団」は地元ドイツの620名だった。それに続いたのがアメリカの254名、ロシアの149 名、英国の126名、そしてフィンランドの118名だった。これら以外の主要参加国はフランスの52名、スウェーデンの43名、カナダの41名、オースト リアの22名、イタリアの21名、そしてオランダとスイスの17名が比較的多い方だった。オーストラリアは僅か9名だった。旧東側でロシアに続いたのは ポーランドの50名であり、その他ではチェコの30名、ウクライナの29名、ハンガリーの27名、そしてエストニアの16名などが目立った参加国だった。 会議関連の記事はhttp://www.rusin.fi/iccees/newsletter.htmlに 掲載されている。

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セ ンターが組織したパネル2

さて、こうした国際学会の利点は集約的に世界の研究動向を知ることができることであるが、筆者はEU東方拡大関連のパネルに主たる的を絞って、一日四コマ ごとの全日程をほぼ皆勤で過ごした(このような精勤は大学生時代にもなかったことである)。今回の大会では、第一次EU東方拡大が2004年に終わり、第 二次拡大のめぼしもつき始めたこともあり、その次を睨んだウクライナやベラルーシ、さらにはモルドヴァ関連のパネルの多さが目立った。もっとも内容的に は、全体として期待を裏切られた観がある。つまり松里氏が以前から指摘していた研究者の東西における上下関係が、そのままこの世界学会に持ち込まれている ようなのである。一つは参加経費の問題である。旧東側からの参加者には経費上の優遇措置が講じられていることに現れているように、旧ソ連東欧諸国から自前 の予算で大会に参加するのは容易でなく、旧西側のパネル組織者の招聘に頼らざるを得ないのが実情である。実際、参加を申し込みながら旅費を工面できずに不 参加となった旧東側研究者が350名もいたのである。このため筆者が主として出席したEU拡大関連のパネルでも、旧東側諸国からの報告はパネル組織者の現 地パートナーないし「西側」の大学に所属する若手研究者によっておこなわれる場合が多く、報告内容もEU加盟による効果ないし期待が基調となっており、移 行論的分析、ないしブルッセル的政策研究の色彩が色濃かった。筆者は現地内在的な視点に基づく研究報告を期待していただけに、不満が募る結果となった。

学会理事の構成についても、これまで旧東側から唯一の構成員だったロシアのシェフツォーヴァが抜け、理事会は全て「西側諸国」を代表する理事となった。つ まり学会運営にも研究主体と研究対象の分裂が持ち込まれてしまっているのである。もっとも、今回は理事の世代交代がおこなわれ、日本からはこれまで多年に わたって橋渡し役を務めてこられた木村汎氏が勇退され、センターの松里氏に理事役がバトンタッチされた。この交代は日本側の学会横断的組織である日本ロシ ア・東欧連絡協議会(JCREES)の決定に基づくものだった。この種の代表者正当性は理事選出の重要な前提となっているようである。というのは、大会期 間中に配布された号外ニュースレターによれば、旧東側からの理事が存在しないのは学会理事会側の問題ではなく、旧東側諸国が然るべき手続きを踏んで正当な 理事候補を提案できないのが原因であり、これが非対称な理事構成の背景にあると弁明しているのである。ちなみに今回の理事改選でイタリアから新理事が選出 され、英米独仏加豪日および北欧のスウェーデンとフィンランドが理事選出国となった。

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フンボルト大学正門

このような状況だからこそ、今回、センターが実践したように、現地研究者との対等な関係に立ったパネルを組織することがより重要となっており、今後、日本 のスラブ・ユーラシア研究者が世界に対して果たすことのできる役割は大きいと思う。この意味でセンターの松里氏が今後5年間の理事任期において、持ち前の 信条と馬力で新風を興してくれることが期待されるし、日本のスラブ・ユーラシア研究者が松里氏を介していろいろと影響を与えることが可能になったのは、非 常に喜ばしいし、象徴的なことではないだろうか。


*    *    *

5年後の2010年大会はストックホルムで開催される予定です。参加に資格制限はなく、誰でも複数の国から報告者を立てれば、パネルを組織できま す。テー マの設定も自由です。今から準備を始めてみてはいかがでしょうか。詳しくは新理事の松里氏にお問い合わせください。

[家田]

日本ロシア・東欧研究連絡協議会(JCREES)の役員改選 

日本ロシア・東欧研究連絡協議会(JCREES)は7月8日に開かれた幹事会において役員の改選をおこなった。JCREES設立当初から代表幹事を 務めた川端香男里氏(ロシア文学会会長)に代わり、袴田茂樹氏(ロシア・東欧学会代表理事)が新しい代表幹事に就任した。また、副代表幹事には宇多文雄 氏、会計監事には上垣彰氏が新たに就任した。さらに、長年にわたって国際中東欧研究協議会(ICCEES)の日本代表を務めた木村汎氏に代わり、松里公孝 氏が日本代表を務めることとなり、7月末のICCEESのベルリン会議で正式に承認された。

[田畑]

学会カレンダー

2005年

11月3−6日
米国ス ラブ研究促進学会(AAASS)年次大会 於ソルトレイク・シティー
12月14−16日
スラブ研究センター冬期国際シンポジウム(記事参照)
2006年

7月5−7日
スラブ 研究センター夏期国際シンポジウム
9月28−10月1日
中央 ユーラシア学会(CESS) 於ミシガン大学
11月16−19日
米国ス ラブ研究促進学会(AAASS)年次大会 於ワシントンDC
2010年

7月23−27日
ICCEES (国際中東欧研究協議会)第8回世界会議 於ストックホルム

センターのホームページ(裏表紙参照)にはこの他にも多くの海外情報が掲載されています。

[大須賀]



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