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英国オックスフォード滞在報告(その2)大野 成樹(ITP研究支援員、旭川大学教授) 2011年度に引き続き、今年度も北海道大学スラブ研究センターの計らいで、オックスフォード大学聖アントニー校に滞在する機会を得た。
昨年は準備期間がほとんどなくかなり慌ただしく出発したが、今年は本務校の第二期入試と卒業式までに帰国できるように、2月上旬から3月上旬にオックスフォードに滞在する日程を組んだ。
このため後期定期試験の採点を済ませ、成績伝票を学務課に提出するとすぐに旭川を離れなければならなかった。おかげで単位を落とした学生が、
英国にいる私の携帯電話に「何とかなりませんか」と連絡してくる始末で、さすがにこの時は閉口してしまった。 さて、聖アントニー校ではゲートウェイ・プロジェクトとして新しい建物が建設中で、昨年は図書室にも騒音が鳴り響いていた。
同校の建物には古いものがいくつもあり、特に本部は1860年代に英国国教会の修道院として建設されたものが使用されていた。
かつて同校で学び、現在はオックスフォード大学エネルギー研究所に勤務するShamil Yenikeev氏は「ロシアから英国に来ることが決まったときは、
きっと綺麗な建物に最新の設備がそろっているんだろうと思って期待していました。
でも来てみたら、建物がボロボロで、これじゃあロシアと同じじゃないかとショックを受けましたよ」と話していたが、実際建物の古さは相当なものである。
上の階の人が歩くと、白い粉がパラパラと落ちてくることも稀ではないのだ。 今回オックスフォードに向かうときには、さすがにもう工事は終わり、建物は完成しているだろうと思っていたのだが、聖アントニー校に到着すると凄まじい騒音でまだ工事が行われていた。
「1年経ってもまだ工事が終わっていないなんて、これじゃあロシアと同じじゃないか」と思ってしまった。
しかし工事は最終盤だったようで、私の滞在中に新しい建物は完成し、事務の方たちもうれしそうに引っ越ししていた。 昨年の滞在記にも書いた通り、現在オックスフォード大学聖アントニー校にはロシア経済の専門家はいない。かつては同分野の教員が1人いたが、
その方が定年退職された後教員が採用されていないのである。私の専門分野はロシアの金融市場であるが、
この分野と重なる専門家はオックスフォード大学全体を見ても見当たらない。そこで、昨年はロシアの社会保障分野が専門である経済学部の
Christopher Davis氏、そして中東の金融市場が専門のBassam Fattouh氏と会った。Davis氏はロシアという点では重なるが金融とはかけ離れている。
またFattouh氏は金融という点では重なるがロシア経済からは程遠い分野である。昨年Davis氏にロンドン大学の専門家を紹介してあげようと言われ、
今年はその方を訪問しようと思ったが、その方も私の研究分野とはあまり重ならないため、少々躊躇していた。 そこでUniversity College LondonのSchool of Slavonic and East European Studies(SSEES)のウェブサイトから
私の分野と近そうな研究者を選び、2人の方にそれぞれ私の論文数本を添付して伺ってもいいかという旨のメールを送った。
程なくして2人からそれぞれお会いしましょうという返事を頂いた。 連絡を取った1人目は、Randolph Bruno氏でロシアの直接投資を専門としている。
同氏は、2012年にバーミンガム大学からロンドン大学に移ってきた若手のイタリア人である。
メールには、「2月中旬にロシアとウクライナのガス供給をめぐる問題に関するIgor Yegorov氏のセミナーがあるので参加しませんか。
当日はセミナー会場でお会いしましょう。セミナーの後の懇親会では軽食とワインが出ますので、そこでいろいろとお話しできれば幸いです」と書かれてあった。 セミナー当日、SSEESの図書館で調べ物をした後、セミナーの会場に向かったのだが、
3分前になっても誰も来ないため少々焦ったが、10分遅れでセミナーは何事もなかったかのように始まった。
セミナーの後、陽気そうな男性が近づいてきて「大野さんですね。お会いできてうれしいです」と声をかけてきた。
懇親会は、同じ階のSenior Common Roomで行われ、インフォーマルな雰囲気の立食パーティーが始まった。 まずBruno氏とは、最近私が書いたロシアの金融政策に関する話をした。金融政策においては、金利を重視して政策を運営するのか、
それとも貨幣供給量を重視して政策を運営するのかという問題があるが、ロシアにおいては結果的に貨幣供給量が重視されている。
実際、計量経済的手法でインパルス応答分析を行ってみると、金利により生産はあまり反応しないが、貨幣供給量には極めて大きく反応する。
G7諸国では、逆に貨幣供給量には生産は反応せず金利に反応を示すことを考えると、ロシアは極めて特殊なのではないか。
原油輸出が主要な原因の一つとなってルーブル高が引き起こされたが、ロシア中央銀行はルーブル高を回避するために為替介入を行ってきた(現在は少々状況が異なる)。
このことが貨幣供給を増加させ、金利政策の効果を小さくしたのではないか。
以上のような議論をした(なおこのことを論じた拙稿が、近くEconomic Systems誌に掲載されるので、詳細はそちらを参照されたい)。
途中から話の輪に加わったSSEES副所長のSlavo Radosevic氏には、「面白い話ですね。あなたが来る2~3か月前に話を伺っていれば、
あなたのセミナーを行ったのに」と言って頂いた。結局、「次回来られるときは、あなたのセミナーを行いましょう」ということになった。
ただ、次回のロンドン訪問日程は全くもって未定なのだが。。。 懇親会の場には、院生かポスドク研究員と見受けられる人たちも参加していたので、話しかけてみると、学部学生だという。
セミナーでもしっかりと質問もしていたので大したものだなと感心したが、「実はこの懇親会が楽しみなんです。何せ軽食とワインが出ますから」と言って笑っていた。
日本では学部学生がこのような会に参加することはあまり考えられないが、学生にも大きな学問的刺激を与えることができると思うので、
もっと日本も研究会をオープンにしてもいいのかもしれない。ただ中には不届きな学生もいて、セミナーに参加していないにもかかわらず、
サンドイッチだけは頂こうという輩もいた。皆に「遠慮しなくていいよ。ワインも飲みなさい」と親切にされるとさすがに恐縮したらしく、
サンドイッチを数個持って退散していった。 学部学生たちには色々と話を聞いてみた。特に興味があったのは「ロシア人学生は本当に多いのか」ということである。
質問してみると、「多いですよ。自分の身近にもたくさんのロシア人がいます。彼らのリッチな生活ぶりと言ったら。。。
何せロンドンはロンドングラードと呼ばれているくらいですから」とため息交じりに答えた(「グラード」はロシア語で「市」の意味。
『ロンドングラード』という本が出版されている)。私もロンドンの地下鉄の車両に乗り込むたびに、どこからともなくいつもロシア語が聞こえてくるので、
ロシア人の多さを実感していたのである。 ともあれ、インフォーマルな会のおかげで、色々な人たちとお話ができて楽しむことができた。
着席形式の懇親会は落ち着くことができるというメリットがあるかもしれないが、やはり立食形式の方がこういう場にはふさわしいように思う。 さて日を改めて、私がアポを取った2人目の研究者に会いに行った。東欧における金融政策が専門であるベラルーシ出身の
Julia Korosteleva氏である。研究室に伺ってみると、本棚はきれいに整理され、部屋も清潔だった。
早速コーヒーを飲みながら、論文の話をした。現在Korosteleva氏は複数の東欧諸国のデータを利用して、パネルデータ分析を行っているという。
私にパネルデータ分析は行わないのかと聞くので、「ロシアは特殊なので、ほかの国と一緒に分析するのは少々抵抗があります。
ですから、今のところは単体で分析しています」と答えた。また、ロシアの研究所との関わりはあるのかと聞かれたので、「Higher
School of Economicsを含む、色々な研究所の人たちとは関わりがありますよ」と答えた。Korosteleva氏は、「New Economic
Schoolはご存じでしょう。最近はそちらの方が元気のいい研究所だと思うので、もっと積極的にコンタクトを取った方がいいですよ」とアドバイスしてくれた。
Korosteleva氏とは、研究手法や人脈形成についてかなり詳細な話をすることができたので、今後も氏のアドバイスを参考にしたいと思う。 最後に、2年にわたり合計で2か月のオックスフォード大学滞在の機会を与えてくださった北海道大学スラブ研究センターに深く感謝申し上げたい。 英語圏の国に比較的長期に滞在できたのは大変貴重な経験であり、今後研究を行う上で大きな意義をもたらしてくれると思う。 また多忙な時期にもかかわらず私の英国滞在を快諾してくださった旭川大学、そして私に会うために時間を割いてくださったオックスフォード大学およびロンドン大学の皆様に心よりお礼申し上げたい。 今後は英国での人脈を生かして、学会でのパネルの組織、研究会の開催などに役立てていきたいと思う。 |
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