ITP International Training Program



待ちに待った英語合宿

takahashi高橋 沙奈美

(日本学術振興会特別研究員)


 2011年3月6日から11日にかけて行われた英語合宿に、ついに念願かなって参加することができた。
 英語合宿参加は私の長年の夢だった。というのもITPには学会報告の際に常々お世話になっているのに、一度も合宿に参加したことがなく、私はITPメンバー難民であった。さらに英語に対して強烈なコンプレックスを感じ続けている私は、ぜひとも参加したいと心の底から思っていたのだった。「缶詰」、「軟禁生活」、「ラーゲリ」などと英語合宿をネガティヴに形容しながら楽しそうに語る参加者を見るたびに、激しい嫉妬の念に襲われたものだ。


 今回の参加者は7名と少数だったうえ、5日間という短期間ではあったが、英語合宿のエッセンスはかなり味わえた。期間が短いことと、参加者の一人、中国のフェン先生が実際の研究会報告を英語合宿終了と同時に控えていたこともあってか、ペーパーをまったく用いない報告スタイルは、今回は用いられず、各自メモを見ることがゆるされた。だが実際のところ、メモを使ってのプレゼンは、本番のスタイルにより近いのではなかろうか? 学会報告にあたって、相当の時間をかけて練習することは望ましいには違いないが、ほかにも並行する仕事を抱えている場合には現実的ではないこともまた確かである。したがって、文章を読み上げるのではなく、事前に用意したメモやスライドを用いての練習は非常に実践的であった。
 また今までの合宿とは違って、今回はフェン先生を除く全員がスラ研の院生(OB)ということは、新しい出会いが少ないという欠点はあったが、ここはお互い性格を知り抜いている仲間同士、忌憚なく意見を言って、互いに切磋琢磨するのに素晴らしいグループであった。また彼らのプレゼンの優れた技術や指摘から学んだことも非常に貴重なことだった。



 実のところ、私はこれまでもプレゼンテーションを楽しんできた。自分が見聞きして楽しいと思った情報を写真や図表を用いて示せるのは、紙芝居のようだと常々思っている。紙芝居を見せるのも大好きである。自分が面白いと思っている話を他人に話すのはやっぱり面白い。ただし、舞台に立った芸人同様、自分のトークに聴衆を引き込めなかったらどうしようという緊張があるし、そしてなにより、ここは学術研究の報告の場なのだから、自分ではそれに気付かぬまま、日頃のあほっぷりと勉強不足をいかんなく発揮してしまうかもという恐怖もある。しかし、講師のグレッグはじめ、参加者たちに私のエンターテイナー性を評価してもらえて、自信がもてた。グレッグは素晴らしい講師だと思う。彼は褒め上手である。どんなプレゼンテーターの中にも優れた点を見つけ出して褒めてくれる。何とかもおだてりゃ木に登るので、うれしくなってしまって、ますます元気のよいプレゼンになる。
 その一方で、重要な情報を叩き込むことが彼は大変うまい。プレゼンは論文を読んでもらうためのきっかけづくりにすぎないのだということを、初めて知った。プレゼンでは細かいデータや歴史的事実よりも、それらをもとにしてどんなストーリーを語るのか、ということが重要なのだ。間違いやおかしな点があれば、会場で議論すればいい。さらにこのことから、プレゼンの重要さだけではなく、論文がどれほど大切なのかということが見えてくる。プレゼンで打ち出したストーリーを生かしつつ、詳細な事実やデータを書き込んで、ストーリーを実証的に裏付けることが論文の課題なのであり、精魂込めて集めたデータを注ぎ込む本命の仕事は論文であって、プレゼンはそのPRにすぎない。時間がないからと言ってやっつけ仕事で論文を書いてはならないのだ。プレゼンは花、論文こそ研究の実であり命。一筆入魂である。



 さらに、今回の合宿では効果的なパワーポイントの作り方についても議論があった。話題がスライドの情報から移った時にはいつまでも古い情報を映しつづけない、白紙のスライドを入れてはどうか、文字情報は箇条書きにしてトークで情報を加える、などなど。グレッグが言うように、唯一の「正しい」形などないのだから、今回撮影した自分のプレゼンのビデオをみて、どういうスタイルが自分に相応しいのか、研究していきたいと思う。


 「英語でのおしゃべり」という問題に関しては、今回は1名の参加者を除いて、全員が英語圏に長期滞在した経験のないものばかりだった。日本語やロシア語を交えての英会話は、つたないものだったかもしれないが、言いたい単語が出なないもどかしさや、めちゃくちゃの文法知識の悲しさ、聞き取りができない切なさは共有できたのではなかったか。3日目の夜には、みんなでエナジードリンクを持ち寄ってリフレッシュした。大変に楽しいコミュニケーションの内に、「私は英語が話せない」というコンプレックスは薄らいだ。あと1週間もラーゲリ生活を続ければ、きっとかなり流暢にしゃべれるようになるに違いない、と錯覚したほどである。これは、グレッグをはじめとする気のよいラーゲリ仲間のおかげである。英語でおしゃべりするのは楽しい。帰ってからも英会話を続けよう、スラ研の英語ネイティヴの研究員や先生方とは英語でしゃべろう、などと決意を固めたが、ラーゲリ終了と同時に起こった地震でどこかへ吹き飛んでしまった。またまた英語しゃべれないコンプレックスの壁(=ロシア語で生きてくからいいんだという開き直り)が建設中である。ボージェ・モイ!


 末筆ながら、オーガナイザーの越野さん、このような機会を作っていただいた松里先生に心より感謝申し上げたい。どうもありがとうございました。この機会を無駄にしないためにも、壁崩壊に向けて活動を続けます。


[Update 11.04.15]

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