ITP International Training Program



簡潔の要を再確認

島田智子

(関西大学大学院)


 普段まったりした関西の空気に浸って生活している身にとって、センターでの行事は常に心地よい緊張感を与えてくれる刺激剤のようなものです。とりわけ今回は、寸前まで雑事に取り込まれ殆ど何の準備もせずに参入してしまったため、素足にノースリーヴで新千歳空港に降り立った瞬間から、季節外れの寒風とレヴェルの高さに震え通しでした。


 「ライティング・セミナー」と聞いていたものの、今回のセミナーでは「論文の書き方」だけではなく、コーエンカー、コックス両先生のご講義や、闘争の半生を彷彿させるような松里先生のご説話を通じて、「査読雑誌との付き合い方」から「論文投稿者のメンタリティ」に至るまで幅広く勉強することができました。2組に分かれての個人指導では、丁寧に添削していただいた提出原稿を自分の目で見直し間違いの性質を口頭発表することで、嫌というほど己が英文の悪癖を意識することができました。とはいえ、今回のセミナーで一番印象に残っているのは、長い間一流査読誌に関与されてきた両先生のご講義です。松里先生のご紹介どおり、ただのインテリゲンツィアには留まらない超インテリゲンツィアの知性が言葉の端々から伺われました。私は、個人指導でバックハウス先生に英文の redundancy を徹底的に直していただいたのですが、口頭発表でも冗長な表現に陥りがちでした。今回、一片の無駄な言葉もない両先生のご講義を伺って、「簡潔」の要を再認識しました。英語での講義に慣れていない私にすら不明な部分は一切なく、clarity のお手本のようなご講義でした。内容だけではなく、発表の姿勢も見習わせていただきたいと思います。


 ただ内容が濃かっただけに、二日間という日数はあまりにも短すぎ、文字通りあっという間に過ぎてしまいました。せめてもう2,3日時間があって、わずかでも消化した知識を表現する機会があれば、と思いました。こうした修練の場が恒例化するのであれば(ぜひそうなっていただきたいと思いますが)、5日から1週間ほどの期間を設定されることが望ましいように思います。


 今回先生方のお話をお聞きして、とにかくどんどん欧文で書いていくことが良い修行になるのではとの思いを強めました。私の場合、今回は提出期限までに論文を準備することができず、個人指導では博論のアウトラインを添削していただいたのですが、現在は出発前に書き始めていたウクライナの文科相ヴァカルチュークの改革理念に関する論考 The Vakarchuk Reform in the Historical Context: Ukrainian ‘Sound’ Nationalism or a New Attempt to Galicianize を執筆中です。今秋から、研究奨学生としてウクライナのリヴィウに滞在することになっており、このテーマに関していくつかインタヴューのアポもとれましたので、あちらでの進行をみながら国際学会等での発表を具体的に考えていきたいと思っております。投稿先については、セミナー後、先輩諸氏からいくつかアドヴァイスをいただきまして、現在執筆中の論文のテーマがウクライナの現代政治と歴史思想の双方に関わっていることから、学際的な論考に好意的な Journal of Ukrainian Studies を考えています。



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