< !-- Google Tag Manager (noscript) --> 移行初期ロシアにおける不平等の固定化と貧困

−賃金支払遅延と第2雇用−

Copyright (c) 2000 by the Slavic Research Center. All rights reserved.


  1. N.Tchernina, Economic Transition and Social Exclusion in Russia (Geneva:ILO, 1996), p.1. 因みにこれは、ノボシビルスク州を調査地域として、潜在失業者(専門家)、長期失業者、農村住民に視点をあてることから「社会的締出しsocial exclusion」のパターンとプロセスを明確化しようとした論文(社会学)である。ロシア国内における先駆的な貧困研究としては、N.M.Rimashevskaya, ed., Taganrog Studies: Family Well-Being, Conditions, Standards, Way and Quality of Life of the Population of Russia (Moscow: Institute for Socio-economic Studies of the Population, 1992)がしばしば言及される(J.Klugman, ed., Poverty in Russia: Public Policy and Private Responses (Washington, D.C.: The World Bank, 1997), p.17; L.Ovcharova The Definition and Measurement of Poverty in Russia (Coventry: Univ. of Warwick, mimeo, 1997), p.1)。また、西側研究者によるソ連時代の所得分配の研究としては、 A.McAuley, Economic Welfare in the Soviet Union (Wisconsin: Univ. of Wisconsin Press, 1979); P.J. Wiles, Distribution of Income: East and West (New York: American Elsevier, 1974) などがある( J.D. Braithwaite, "The Old and New Poor in Russia" in J.Klugman, ed., Poverty in Russia: Public Policy and Private Responses (Washington,D.C.: The World Bank, 1997), p.33)。
  2. ソ連時代の貧困に関しては、Braithwaite, "The Old and New Poor", pp.32-49. などを参照されたい。
  3. Klugman, ed., Poverty in Russia.
  4. S.Clarke, Poverty in Russia (Coventry: Univ. of Warwick, mimeo, 1997).
  5. Tchernina, Economic Transition; B. Milanovic, Income, Inequality, and Poverty during the Transition from Planned to Market Economy (Washington, D.C.: The World Bank, 1998)など。
  6. RLMS (The Russia Longitudinal Monitoring Survey)は、Госкомстат(Phase I においてのみ)やИС РАН(ロシア科学アカデミー社会学研究所)などの協力の下、the University of North Carolina at Chapel HillのCarolina Population Centerによって実施されている家計ベースの調査であり、世銀、国際開発庁(USAID)、全米科学財団が資金援助をしている。この調査は、家計と個人の経済的厚生に対するロシアの改革の影響の測定を目的として設計されている。調査データは、家計レベル、個人レベル、コミュニティ・レベルに分かれており、個人の健康状態、雇用状況、家計の消費やサービス利用などについてのパネル・データを得ることができる。調査は、1992〜93年のPhase I (Round I 〜IV)と94年以降のPhase II (Round V 〜)に分かれており、1999年12月現在、Round VIII までのデータが利用可能である。ターゲットとされた標本数は、Phase I とPhase II において、それぞれ7,200世帯、4,000世帯であり、ほとんどの調査において回答率は80%以上であった。調査都市は、Phase I は53都市、Phase II は29都市であり、ロシアの全地域を対象としている。また、男女別、年齢別、民族別、農村別、地域別からみたRLMSの標本の人口分布状況は、1989年に実施されたセンサスのそれに類似したものになっている。
  7. Milanovicの移行諸国18ヶ国の所得、不平等、貧困に関する比較研究によれば、移行開始後の貧困の増大は、増大の変化率のばらつきこそあれ、移行国に見られる共通の現象である。詳細は、Milanovic, Income, Inequality, and Poverty, pp.67-71. しかし、ジニ係数で測定した不平等に関しては、スロヴァキアのみがほとんど変化を示さなかった(Milanovic, Income, Inequality, and Poverty, p.41.)。また、移行諸国18ヶ国は、ポーランド、ブルガリア、リトアニア、ラトヴィア、ベラルーシ、ルーマニア、ウズベキスタン、エストニア、ロシア、カザフスタン、トルクメニスタン、モルドヴァ、ウクライナ、キルギス、チェコ、スロヴァキア、ハンガリー、スロヴェニアである。
  8. J.Klugman and J.D.Braithwaite, "Introduction and Overview," in J.Klugman, ed., Poverty in Russia: Public Policy and Private Responses (Washington, D.C.: The World Bank, 1997), pp.8-9.
  9. 大津定美「ロシアの経済システム転換―6年間の急進改革実験の評価と格差拡大問題」大津定美・吉井昌彦編『経済システム転換と労働市場の展開―ロシア・中・東欧』日本評論社、1999年、37頁。
  10. 世銀は、ジニ係数を計算する際、世銀のソフトウェアである、数値解析プログラムPOVCALを採用している。
  11. 不平等が現在の水準(1993-95年)のままであり、かつ、一人あたり年率5%の平均成長率であると仮定したとき、貧困者比率が10%という受け入れられうる水準まで低下するには、ロシアの場合には、2010年近くまで時間を要するという計算になる(Milanovic, Income, Inequality, and Poverty, pp.132-134.)。
  12. GDP成長率は、1991年 - 5.0%、1992年 - 14.5%、1993年 - 8.7%、1994年 - 12.7%、1995年 - 4.1%、1996年 - 3.5%、1997年 - 0.8%であった(Госкомстат. Российский статистический ежегодник. М., 1998. С.16.)
  13. 賃金支払遅延とは、「該当期間に何も支払われず、支払われていなかったものが突然支払われる」ということではなく、期日通りに賃金が支払われないということであり、支払が不規則、かつ、かなり遅延しているということを意味している。また、職場での食物供給も含めて、現物支給が広範に普及しており、雇用者が仕方なく受け取らざるをえないものを雇主が押し付けていることも頻繁に生じる。詳細は、S.Clarke, Poverty in Russia (Coventry: Univ. of Warwick, mimeo, 1997), p.6.を参照。
  14. Госкмстат. Россия в цифрах. М., 1998. С.319. の名目タームのデータを基に算出した。名目タームのデータは、該当年の1月1日のものである。また、1998年8月に関してのみ、Russian Economic Trendsのデータである。Russian Economic Trendsのデータは、デノミ以後の貨幣表示をとっていたため、ここではデノミ以前の貨幣表示に直して実質タームを求めた。計算式は、[デノミ以前の貨幣表示の賃金支払遅延額(名目ターム)/修正CPI]×100.である。修正CPIについては、表4、表5の注を参照されたい。
  15. Клопов Э. Вторичная занятость как форма социально-трудовой мобильности // Трудовые перемещенияи адаптация работников. М., 1996. С.31.
  16. ソ連時代から第1経済(フォーマル部門)と平行して存在した第2経済(インフォーマル部門)は、「社会主義計画経済」の崩壊に伴って急速なスピードで拡大し、資金的にも労働力の面でもソ連時代の数十倍の規模になった。インフォーマルな経済活動はGDPの30〜40%を占めるといわれている。
  17. 詳細は、S.Commander and A.Tolstopiatenko, Why is Unemployment Low in the Former Soviet Union? Enterprise Restructuring and the Structure of Compensation (Washington, D.C.: The World Bank, Policy Research Working Papers, No.1617, 1996), p.4. あるいは、 V.Gimpelson and D.Lippoldt, Labour Restructuring in Russian Enterprises: A Case Study (Paris: OECD, OECD Working Papers, Vol.IV, No.69, 1996), p.25.
  18. ВЦИОМ (Всероссийский центр изучения общественного мнения) は1987年に創設された民間組織である。一般的調査のサンプル数は2,100人であり、3,000人の調査員により訪問調査が定期的に実施されている。社会、政治、経済問題に関して、回答者の意見を幅広く収集しており、性別、年齢、教育、地域別のデータを得ることができる。調査結果は、2ヶ月に1回、速報 (Экономические и социальные пере-мены: мониторинг общественного мнения) において公表されている。また、ВЦИОМは20以上の地方事務所をもち、それらがロシア全地域のデータを収集している(カリーニングラード、サンクト・ペテルブルク、スモレンスク、ヴォロネジ、ロストフ、クラスノダール、スタヴローポリ、ヴォルゴグラード、モスクワ、ヴラジーミル、アルハンゲリスク、ニジニ・ノヴゴロド、サマーラ、サラトフ、カザン、イジェフスク、ペルミ、エカテリンブルク、ウファ、オレンブルク、バルナウル、ノヴォシビルスク、ケメロヴォ、クラスノヤルスク、イルクーツク、ペトロパヴロフスク・カムチャツキー、ウラジヴォストク)。
  19. その他の選択肢は、「必要な付合いを始めたい」、「安定した労働の場を得たい」、「より興味深い労働に就き能力をより完全に発揮したい」というものである。詳細は、Хибовская Е.А. Вторичная занятость какспособ адаптации к экономическим реформам // Вопросы экономики. 1995. 5. С.75.
  20. ВЦИОМの調査によれば、1996年2月現在の追加的労働の平均時給は5,400ルーブルであり、96年3月現在、定期的な追加的労働時間は、週当たり14時間以内が38%、14〜28時間が38%であった。そこで、週当たり14時間の追加的労働を平均的追加的労働時間として計算した。
  21. Клопов. Вторичная занятость. С.24.
  22. ロシアにおいては、移行初期において、深刻かつ長い移行不況にも関わらず、顕在失業率が緩やかに上昇した。顕在失業が急上昇する代わりに、賃金支払遅延や時短・強制休暇などの賃金や時間による調整が拡大していた。
  23. 1つの調査事例においては、調査された80企業中65%が知人だからという理由で採用した(ГимпельсонВ. Частный сектор в России : занятость и опрата труда // Мировая экономика и международные отно-шения. 1997. 2. С.87.)。
  24. Госкомстат. Российский статистический ежегодник. М., 1998. С.196.
  25. V.Gimpelson and D.Lippoldt, Labour Restructuring, p.5.
  26. この持続的に賃金支払遅延を被りやすいという事実は、個人的交渉力の低さ、そして、よくない状況にある企業あるいはセクターにかかわっていることのどちらかで説明可能である。詳細は、V.Gimpelson, Politics of Labor Market Adjustment: The Case of Russia (mimeo, 1998), pp.8-9.
  27. 27 賃金、年金、福祉手当、家内生産、臨時雇用、廃品回収、財・サービス・貨幣の私的移転、家賃や公益設備料金utility chargesの不払い、最後の手段として、窃盗など(Clarke, Poverty in Russia, pp.18-19.)。
  28. 28 Clarke, Poverty in Russia, pp.18-19.

本文へ

Summary in English