村上:
それでは具体的な内容に入りたいと思います。最初にお手許の地図(次頁)を見て
いただきたい。今年7月からサハリン〜Uというプロジェクトで実際に生産が開始される
わけですが、地図の右下に描かれている図は、生産された油がどのような輸送形態で市場
に運ばれるかを描いたものです。左側に位置するのが「モリクパック」という生産のため
のプラットホームです。このプラットホームで生産された油は2kmの海底パイプライン
を流れ、SALMと呼ばれる係留装置を経由して貯蔵タンカーに積込まれます。そして、大体
一週間に一度の割合で、シャトルタンカーで原油を消費地に運ぶことになります。
今年の予定では、7月から解氷期の間生産を行い、合計一千万バレル、トンにしておよ
そ140万トン位を市場に供給することになります。ですから、現実の問題として、輸送タ
ンカーがオホーツクの海を航海することになるわけです。当然の事ながら、タンカーは本
当に大丈夫だろうか、開発の現場は大丈夫だろうか、という不安がよぎるわけです。具体
的にどのような問題があるのか簡単に説明します。特にこの地域は、後からお話があると
思いますが、海象条件の大変厳しい所です。地震地帯であるとか、氷丘があるとか、波が
高いとか、流れが速いとか言われていますが、海象条件はほとんど解明されていない所で
す。こういう所での開発で何が起る可能性があるのか。例えば、プラットホームでの生産
現場では暴噴や操作ミスによる火災の発生が考えられます。海洋汚染の問題について言え
ば、プラットフォームで生活しているわけですから、生活排水による汚染も当然考えられ
ます。貯蔵タンカーまでのルートでは氷塊の移動或は地震によるパイプラインの破損で原
油が流出することも当然考えられます。さらに、貯蔵タンカーとシャトルタンカーとの衝
突やタンカーの座礁による原油の流出が想定されます。タンカーによる事故が最も深刻な
事態を引き起しているのは、今までの経験から知ることが出来るわけで、一般的に海洋の
原油流出の35%はタンカーで起きているといわれております。
万が一原油が流出すればどう対応するか、ということを考えなければなりません。オホ
ーツク海では、皆様方がよく心配されていることですのでお解りでしょうが、漁業や観光
に与える影響でしょう。心理的な要素も含んでいて、あまり大きな事故ではなかったにも
関わらず、マスコミで大きく取り上げられた結果、評判が悪くなって観光客が来なくなる、
というようなこともあり得るわけです。
我々が検討すべき課題をここに幾つか指摘しております。一つは、海洋汚染防止に関す
る二国間協定を結ばなければ駄目だろうということです。それから、モニタリングシステ
ムをきちんと作っていくべきだろうということです。三番目としましては、流出原油対策
法を、現在でもある程度はありますが、オホーツクの海にあった条件で導入する必要があ
ろうということです。それから、沿岸地方自治体、例えば紋別とこの地域の地方自治体、
北海道庁、さらには海上保安庁という関係省庁を取込んだネットワーク作りも必要でしょ
う。原油漂流の季節変動予測手法の開発という問題もあります。未だこういった手法があ
りませんので、この部分の開発が必要になります。油流出が環境に与える影響について、
一般の市民に大いに関心を持っていただくことも重要です。なかでも、今欠けていて、重
要だと思われるのは、事故が起きた時に緊急連絡態勢を、サハリン州と北海道の間できち
んと取っていただきたい、ということです。
油防除対策として、緊急防災計画を作る必要がありますが、国や道のレベルで具体的に
進んでいるようには思えません。昨年暮れに北海に行って参りました。北海ではあらゆる
段階で緊急防災計画が作られております。英国運輸省の沿岸警備隊を軸として、緊急防災
計画のガイドラインが出来ています。緊急防災計画の作成を行政側が義務づけているわけ
です。英国でも事故が起きてから初めて緊急防災計画の作成を始めたのです。北海の場合
は石油の生産規模が大規模でサハリンとは全く違います。緊急防災計画を誰が作るのかと
いいますと、開発側やユーザーの依頼で流出油防除会社やコンサルタント会社が請負い、
石油生産の規模が大きいのでビジネスになっているわけです。日本の場合ではどうかとい
うと、仮に紋別市が緊急防災計画を作るとしますと、では誰がお金を出すのか、というこ
とになるわけです。英国の緊急防災計画は、解り易く図で解説したりしています。どこに
責任があって、どういうふうに対処するかを想定して具体的に作られています。英国の沿
岸警備隊が作ったガイドラインによりますと、戦略、アクション、インフォメーションの
三つに大きく区分されています。このうち、アクションというのが一番難しく、一番重要
な部分になっています。この三つを柱にして、こまかく指導しております。重要なことは、
どこでも、標準的なこういうものを作りなさいということではなくて、その地域の情況に
よって対応の仕方が違ってくるわけですから、油の質、規模、自然気象条件を良く検討し
てその地域に合った緊急防災計画を作りなさいということなのです。もう一つ重要なこと
は、緊急防災計画が絶えず更新され、事故の時に直ぐに対応出来るプランにしなさい、と
いうことを強く求めています。
それでは、オホーツクでは、仮に原油が流出したとしたら、どういう対策が考えられる
のでしょうか。今年の7月から開発が始まるのはサハリン〜Uのプロジェクトですけれど
も、これは御承知のようにピリトゥン・アストフスコエ鉱区が開発の対象になります。こ
こでは、油の流出が三段階で想定されております。これは何もオホーツクだけでなく、世
界一般に大体このような段階が雛形になっているわけです。因みに、ここに紹介しますの
は、三井物産で私がヒヤリングした時の内容でございます。おそらく、海上保安庁に対し
て、開発側は具体的に提示していると思いますが、一般には公開されておりません。です
から、本当は彼等にコピーを貰って、ここでお見せすればよいのですが、私が耳で聴いた
要点だけをお話します。油の流出を小規模、中規模および大規模の三段階に分類していま
す。小規模、つまり開発の現場で起きる油の流出の場合には現場で対応する。ノグリキと
いう場所がありますが、この基地を中心に行うということです。次に、中規模で流出が起
きた場合どうするかというと、ロシア国内の周辺地域の支援を要請する。具体的には、サ
フバス(SakhBASU、海洋汚染除去サハリン管理局)という組織がコルサコフにございます。
この組織と開発側とが契約をしておりまして、油回収船を提供する。サフバスは非常事態
省への移管の話がありますが、現在のところ連邦の運輸省に属しています。ナホトカ号の
事故の時にロシアから油回収船が来たということがありました。この回収船はサフバスに
属しています。次に、大規模流出が起きた時には、どこに援助を求めるかということにな
ります。二つの組織と契約をしておりまして、ひとつはEast Asia Response Ltd.という
シンガポールの原油流出対応の会社です。もうひとつは、英国のサザンプトンにあります
Oil Spill Response Ltd.でございます。つまり、英国から14時間かけて飛行機で飛んで
来ることになるわけですですから、原油流出のインフォメーションを的確、迅速に受ける
ことが重要になります。昨年暮、実際に私はこのサザンプトンの企業に行ってみました。
素晴しい企業です。BPが設立したのですが、現在では石油メジャーをはじめ、多くの企業
が出資をしています。トレーニングも行っています。飛行機も持っています。油除去会社
としては、おそらく世界で一番大きな会社ではなかろうかと思います。マラソンとの契約
で、この2月のサハリンでの机上訓練にここのスタッフがレクチャーを行うということ
を耳にしました。
さて、もう少し具体的にみますと、プラットホーム近辺の現場では、サハリン州側との
契約で、さまざまなことが義務付けられていますが、ボーリングをしている時には油回収
船を待機させておくことになっています。それから、開発側はプラットフォームに自前の
回収システムを搭載しなさい、と書かれています。ノグリキにはエクソンの倉庫がありま
す。フェンス、吸着剤、拡散剤、小型船、ホーバークラフトなどが装備されております。
しかし、具体的にどれだけの量を持っているのかということは、現在のところわかりませ
ん。先程申しましたコルサコフにあるサフバスは油除去機資材と油回収船を持っています。
「サハリンモールネフチェガスSMNG」というサハリン最大の石油・ガス掘削会社がありま
すが、油回収船「バイダグフスキー」というこの地域では一番大きな油回収船を保有して
います。除去作業に従事している会社としては、米国との合弁企業で「エコシェリフ」と
いう会社があります。この企業はコマーシャルベースで対応することになっています。
以上説明したことが、今までに明らかにされた内容です。しかし、ただ単に装備を持っ
ているというようなことだけでは意味がないわけでして、具体的に先程指摘しましたよう
な二国間の協定であるとか、インフォメーションのシステムであるとか、様々な問題をこ
れから検討していかなくてはいけないのだろうと思います。
私の方の説明は大体これ位に致します。御質問があれば後半の部分でお願い致します。
私は経済の専門家ですので、今までの話のなかでの専門的な部分についてはパネリストの
皆さんが対応してくれるものと思います。本日は、特に環境の面からお話ししましたが、
開発の部分についてもそれぞれのパネラーの方に意見をお願いしたいと思います。
何といっても我々が気になるのは、オホーツク海の海の状況があまりよく解っていない、
ということをしばしば耳にすることです。実際に長く研究なさっている青田さんに、この
オホーツクの海象はどの程度解っているのか、流氷はどう流れているのか、といった問題
も含めて、10分程でお話を伺います。
青田:
10分でまとめるためにキーワード化しました。ここではオホーツク海の全体的な話
ではなく、開発の舞台となっているオホーツク海南西海域の氷の問題を皆様にご紹介した
いと思います。まず歴史的な話であります。そして、流氷の広がり、流氷の厚さ、流氷が
どう動くのかについてお話ししたいと思います。
村上先生から詳しい地名が出ましたが、現在の鉱区の対象になっているのはサハリン北
部のオホーツク海沿岸です。昨日ロシア人から入った情報によると、更にサハリンの北側
でも具体的な計画が進んでいるとのことです。
さて、村上先生から、オホーツク全体の流れということを話すように言われましたが、
オホーツク全体としては反時計回りの大きな環流があります。カムチャツカ半島沿いに北
上して、シベリア大陸を西に向かい、サハリン沿岸に沿って南下し北海道沖へ流れていま
す。
歴史的な話ですが、皆様は尼港事件と言うことをご存知だと思います。1904〜5年、日
露戦争が起き、その後ロシア革命が勃発します。シベリア出兵が行われた時代です。ニコ
ライエフスク・ナ・アムーレというアムール河の河口近くにある港、ここには日本の商社
もあり、軍隊も駐屯していました。1920年、そこで大事件がありました。現地の日本人が
ロシア人に全部殺害されました。そこで、日本軍が出兵、賠償としてサハリン北部の石油
の権益を何年間か取得したのです。世界各国から非難されてまもなく撤退しました。この
時代からサハリン北部では陸での石油開発を行っていたのです。その後ソビエト連邦とな
り、1970年代から海底石油掘削計画を始めたのです。
ここでは、この海域の氷の条件をお話します。これはロシアによる流氷のデータです。
2月中旬の例を見ましょう(図−1)。この図で100と記入してある数値は、2月下旬には
流氷が常にあり、50の線は流氷の存在の率が50%であることを示しています。これでオホ
ーツク海のどれほどの範囲が流氷に覆われているかがお解りいただけたかと思います。こ
の時期、流氷の先端は北海道に達しています。オホーツク海の流氷は非常に変動性、流動
性に富むという特徴をもっています。これは万一、石油の流出事故が発生した場合に重要
なことです。
これで大体流氷分布の話はおわり、次に氷の厚さについてお話し致します。氷の厚さは
どの位にまでなるのでしょうか。氷の厚さは何によって決まるのかというと、何カロリー
の熱が海面から奪われたかで決まります。これが解れば氷の厚さを推定出来ます。それに
対応して氷が出来るわけです。私どもはここ数年、石油掘削の中心地帯チャイウォで気温
の変動を調べています。10月の下旬頃からマイナスの気温になり、それが5月の中旬まで
続きます。その寒さの度合によって氷の厚さを計算しますと、氷同士の重なり合いがなけ
れば、大体85cm程になります。それが重なり合うと2倍3倍になり得るわけです。ロシア
人に氷の厚さを測ってもらったことがあったのですが、やたらと氷が厚いのです。振返っ
てみたら、厚さをこう斜めに測っていたのです。本当ならばこう測らなければならないの
ですが。それで、データをまた全部やり直した結果、やはり85cmと計算とほぼ合っていま
した。それが単にこれだけならいいのですが、これがしばしば重なり合うのです。これは
恐ろしい問題です。
そんなことがちょいちょい起るのかと皆さんは思われるかも知れませんが、思い出して
下さい。我々の住む紋別でもありました。もう10年位前の事ですが、このセンターの隣に
氷が盛上がって10mの山脈が出来ました。紋別観光協会の方が喜んで、流氷山脈と称して
観光資源にしました。これが北の方ではもっと頻繁に起るわけです。平坦な海水面から20m
も高いような氷の山が出来るわけです。その下には、その数倍の深さがあるはずです。そ
れが汐の満引きによって動きます。こういう現象が頻繁に起っているということを十分に
知っておく必要があります。決して一枚の氷がこんなに厚くなるわけではないのです。重
なって、重なって、こういう厚い氷が出来るのです。この巨大な氷塊(スタムーハ)が海
底を擦りながら移動したらどうなるでしょう。もしパイプラインを敷設したところを移動
したら大変な事態が生じるでしょう。
次に、漂流の問題に入ります。4年ばかり前にブイをサハリン沿岸の流氷の上に設置し
て人工衛星で追跡しました(図−2)。1月9日に石油基地オドプト沖の氷上に置いたのが、
2月15日には国後島に到着しているわけですね。オホーツクの長期の漂流観測はこれが初
めてのものです。
データからは、流氷の速さは風速の2から3%、向きは風下より少し右寄りです。ほぼ
風下に向けて風速の2から3%で流れることが解りました。具体的には、冬、この海域で
は、毎秒5mから10mの北風です。3%として計算しますと、毎秒15〜30cmの速さで南へ流
れてくることになります。時速にすると、大体0.9〜1.8km/hですね。一日で21〜43kmで
す。石油の掘削基地から北海道沿岸まで何日かかるか計算してみると、平均的な風速を10m
と考えると38日間、5mなら77日間となります。この中間を採って、まあ、40日位という
ところでしょう。私共が人工衛星で測定した時が一カ月少々でしたから、大体近い値とい
えます。
こういうふうに氷は動く、こういう規模の大きな氷が出来るということを知って、我々
は対策を立てて行く必要があると思います。
村上: どうもありがとうございます。解りやすいお話しだったと思います。オホーツクの 海は大変厳しい氷の条件があるわけです。実際にはこういう所で開発が始められているわ けですが、構造物の強度の問題はどうでしょうか。
北川:
一つ宣伝させていただきますと、明後日、この紋別で、構造物に働く氷の荷重をど
うやって合理的に推定すればよいのかという国際ワークショップが開かれます。佐伯先生
が委員長をなさっている国際会議ですけれど、そのプレゼンテーションは英語でしょうし、
日本語に通訳される事は多分ないと思います。ご参加いただけますと、海洋構造物の合理
的な設計が一体今、どのようなレベルにあるのかということが、一般の方でも解るのでは
ないかと思います。
実際には今青田先生がおっしゃったように、氷の厚さというのが最大のキーポイントで
すけれども、それにプラスして氷の強度、強さというのもが氷の荷重推定の上では最も大
きな問題となります。ですから、単純に重なった氷というのは、それだけで厚さが増した
影響が出てきますから問題がないとは言えませんが、氷同士がどういうふうに凍結してい
るのかということが、非常に大きな問題となります。ですから、私共が海洋構造物を設計
したり、船舶を設計したりする時には、海の状態、海氷について、まず、どの位の状況の
ものがあり得るかということを推定し、その上で氷の性状がどんなものであるのかという
ことを推定します。その二つが終わりますと、いろいろな実験式だとか、実測結果を利用
致しまして構造物の設計が行われます。
私共はサハリンのことを研究しておりますけれども、先輩には北海やアラスカの沖がご
ざいまして、そこで大掛かりな研究が行われております。そこで使われた海洋構造物は、
現在そのひとつをサハリンで使っています。稼動期間中事故がなかったという例をもって、
サハリンで使われる海洋構造物はもう少しイージー・デザインでよいのではないか、とい
うことが言われますけれど、それは大変危険な発想だろうと私は思っております。という
のは、たかだか十数年のオペレーションの経験というのは、最も厳しい氷の状況を推定し、
起こり得る氷荷重の最大値を合理的に推定をする為に必要な年月ということから考えます
と、非常に短いわけです。そういう意味から言いますと、やはり十分安全な海洋構造物を
造る必要があると思います。従来の経験から言えば、そういう安全な海洋構造物を造る手
法は一応あると言うことは出来ます。
この図は実際に油が海洋を汚染する原因を分類したものですが(表−1)、リグの事故に
よるものは意外と少ないことが解ります。船舶の運航による汚染というのは船舶がわずか
ずつですが垂れ流す量を示したものです。事故はタンカー事故がほとんどですが、図のよ
うな様々な汚染因があります。それから、石油はもともと地球に存在するものですから、
当然のことながら地球から漏れてくるものもあります。海洋への原油流入のパーセンテー
ジは年によってわずかずつ違いますけれども、大方はこのパーセンテージ付近にあります。
やはり、タンカー事故がだんとつでございまして、30%を超えます。以外と無視出来ないの
が、我々の陸上の生活による海洋汚染です。これがほぼ同程度ございます。この二つを如
何に減らすかということが、これから海洋をクリーンにするためのキーポイントになるの
だろうと思います。これは少し年代が古いのですが、データが詳細に検討されていますの
で、一番正確なデータだろうと思います。1986年のデータです。
ノルウェーの大陸棚での掘削オペレーションの時にどのような作業で一番原油流出量が
多かったか(図−3)。やはり、掘削というパターンが一番多い。ただ、1995年以降掘削に
よる流出量は減っています。ですから、この部分は少し安心して考えて良いと言えます。
逆に置換、更新のオペレーションの時に相当量の油が流出するというケースが現在では増
えています。原因をいくつか挙げてみますと、まず、設計時の復元性のミスというのは、
かつては5例程ございましたが、最近では、これはほとんどないようになりました。次に、
構造欠陥、作業ミス、火災が挙げられます。火災につきましては、不燃材の使用や防火規
制が厳しくなりましたので、決定的な事故例は少なくなっております。むしろ、何らかの
故障があり、それがヒューマン・エラーに繋がって、次々に新しいミスを誘発していくと
いうのが大事故に至る典型的なパターンです。ですから、これらのミスが繋がらないよう
に、一つ一つの小さなミスを分断することが大きな事故を防ぐための鍵だろうと考えられ
ます。
私共、経験があるわけではございませんが、海難統計からの教訓をまとめますとこのよ
うなことが言えます(表−2)。一番問題なのは、最初に申しあげましたように、採算優先
の構造設計です。石油に関わることは市場原理で動きますので、なんとも致し方ないとこ
ろもございますけれども。最近では局所的な問題ではありますが、材料選定の誤りがあり
ます。それから、以外に多いのは溶接欠陥です。例えば、原子力船「むつ」の溶接欠陥の
統計を見ますと、あれだけ何回も何回も検査したにもかかわらず、船が生れ変わる時に見
つかった溶接欠陥は二百幾つと言われています。如何に溶接欠陥が多量に存在するのか、
ということの事例の一つと言えます。
このような教訓を得て、ではどうするかということになるわけですが、これはやはり座
長が申しあげましたように、広義の管理体制が一番大きな問題になると思います。技術分
野での様々なことは、我々研究者一同、一所懸命やっておりますので、不十分ではござい
ますけれども、危険率が少なくなってきました。それからもう一つ、危機管理。この危機
管理体制の構築が何にも増して重要だろうと現在思っております。以上です。
村上:
どうも有難うございました。原油流出事故の原因、管理体制、それから危機管理体
制が非常に重要であるとの専門的立場からの指摘がありました。オホーツク海における開
発のための様々な構造物が、果して、流氷その他に耐えられるものだろうか、というのが、
我々素人が何時も考えることなのですが、そのへんを含めて佐伯先生にお話をお願いしま
す。
佐伯:
今、村上先生からお話がありました、石油の掘削、生産に関る構造物が本当に安全
なものかどうかということですが、なかなか難しいことです。と言いますのも、先程青田
先生のお話にもありました通り、氷が一枚の平らな氷でしたら、割合、この氷の力はどの
位かとかいろいろ解るのですが、割れた氷が積重なったような状況となりますと、実験を
やるにしても、どうモデル化するのか、いろいろ難しい。ですから、現在、氷の力という
のは、きちっと推定出来るのは、ある限られた条件だけである、ということをご説明申し
あげたいと思います。
村上:
どうもありがとうございました。佐伯先生は大変重要な指摘をされておりまして、
石油価格が下がってきますと、開発側は設備にコストをかけないようにして、だんだん細
身のものを造るようになる。そうすると、大変危険性が増す、という御指摘でした。また、
佐伯先生は、氷と海の水の間に流出原油が潜り込んだらどうなるだろうか、という実験を
やっていらっしゃいますので、その中間報告もしていただければ、と思います。
中尾:
今日お話するのは、原油自体ではなくて、原油が流れた時、界面活性剤で拡散させ
てしまうわけです。これが生物に影響が強いということで、特に今日は、界面活性剤の実
験結果をお話ししたいと思います。
村上:
ありがとうございました。今まで、環境に対する影響をそれぞれの専門的な立場か
らお話いただいたわけです。同時に佐伯先生が開発という視点で指摘されていますように、
それも重要な側面です。特にサハリン大陸棚の石油、天然ガスが生産されるようになって
くれば、日本は石油供給源が多様化する可能性があります。それから、日本のエネルギー
の安全保障上でも大変重要だろうと思います。更には北海道というのは、一番需要地とし
て近いところに位置します。もちろん、いろいろな問題を含んでいますが、長い間、実際
に開発会社のSODECOに所属しておいでで、現在は、対ロシア・ビジネスのオピニオン・リ
ーダーとして活躍されている杉本さんに開発の側面から意見をお願いしたいと思います。
杉本:
開発の観点から、との座長からのご指名ですが、開発の観点ということだけではな
くて、今話を聴いておりましても、環境を守っていくということの重要性、この問題を十
分に意識した上で、二つ、三つの話題を提供させていただこうと考えております。まず一
つ目の問題ですけれども、今日のテーマのおそらく重要な話題は、経済開発と環境の保護、
この二つが共存、或は両立しえるのか、ということになるかと思います。ただ、この視点
というのは比較的難しいと思っております。と言いますのは、私共日本に住んでいますと、
電気にしても、ガスにしても、灯油にしてもそうですけれども、十分に満たされている。
何ら不安を感じない。そういう状況にあるわけです。そういう人達にとってこのテーマは、
かなり贅沢、というか、かなりわがままなテーマ設定ではないか、という気が正直言って
しております。ということは、国や地域によっては、環境か開発かという二者択一ではな
い、死活問題という側面がかなりある。例えば、ロシア極東では、御存知だとは思います
が、エネルギーはほとんどありません。停電が1日に20時間も続くとか、或は、何日に数
時間しか電気がつかないとか、そういう状況が実際にあるわけです。世界の多くの国のな
かには環境を破壊せざるを得ない、生活を守るために、生活を維持するために、その生活
といっても、我々よりも遥かに低い水準の生活を守るために、環境を破壊せざるを得ない
人が沢山いる。それが現実の姿であります。要は死活問題であるわけですから、日本人、
私達の尺度で物を考えて、それを押しつけるということでは、環境と開発の問題を解決出
来ない。このことがおそらく第一点だろう、という気がしております。
村上:
ありがとうございました。杉本さんが指摘されたことは、まさに、この我々のプロ
ジェクトのなかで一番難しい問題でございまして、開発の側面からわかりやすく説明され
ていたので、今後の議論の参考になろうかと思います。
佐川:
地元の佐川でございます。私は学者でもありませんし、研究者でもありません。私
はメジャーのなかに就職しているわけでもございませんから、この問題に関しては全くの
素人でございますけれども、市民の中では少しは関わりをもった方だと思います。与えら
れたテーマについてお話ししたいと思いますが、先生方が大変難しいお話を、しかも、環
境汚染の問題をお話になったのでございます。環境汚染は大変なことでございます。私も
数年前のアラスカのエクソン・バルディーズの事故だとか、数年前はテレビでいやという
ほど中東戦争の情報を目にしたのでございます。さらには中東や日本の沖合でのタンカー
事故などがありましたので、私共は関心を持たないわけにはいきません。先程、青田先生
のお話にありました通り、特にオホーツク海のサハリン沖で流出があった時に、この辺り
はどうなのかとの心配もございます。しかし、逆に、青田先生のお話にありました通り、
我々は石油とガスがなければ一日も生きて行けない、産業も経済も止まってしまう、とい
うことでございます。その辺を、私共は地元の経済界という立場からお話をしたいと思う
わけです。
村上:
ありがとうございました。地元の立場として、サハリン・プロジェクトの進展によ
る経済の活性化、後方支援基地としての役目が語られておりましたけれども、又、後半の
部分で追加していただきたいと思います。それで、北見からいらっしゃっております、鴨
下さんにお願いします。
鴨下:
私は建設業を営んでいる鴨下と申します。私共の会社は、どちらかというと主力は
陸上部でありまして、橋梁を主力に、道内で施工させていただいている会社です。網走管
内の中で網走建設業協会という組織がありまして、現在、70社程の管内の業者が会員とな
っております。1890年の後半だと記憶しておりますが、私共の業界としてなんとかこの地
域に還元をすることが出来ないだろうか、ということで、主に公共事業に携っている企業
が多いものですから、オホーツク21というプロジェクトを立ち上げました。現在では20
程の大小の事業を、年間3,000万円位かけて手作りで進めております。その中で、サハリ
ン・プロジェクトというプロジェクト・チームがございます。本来ですと、この代表が今
日ここで御説明すると、より明解な表現になろうかと思いますが、たまたま今日から海外
に出張ということで、私がピンチヒッターを仰せつかりました。相当私見が入ろうかと思
いますが、私流にお話ししたいと思います。
村上:
ありがとうございました。オホーツク21という組織は大変熱心に活動なさってい
るようです。開発と環境の両立の問題に独特の立場からアプローチしていく姿として、非
常に参考になろうかと思います。
スチェパーノフ:
今日はこうやって皆様の市民セミナーに同僚と二人で出席をする機会を
与えていただきましたことを、関係者の皆様に御礼申しあげます。私共が属しております
北極南極研究所はサンクトペテルブルグにあります。北海道から何千キロも離れた所にあ
るわけでございますけれども、今日、お話を伺っていて、ここで議論されている問題は、
私達にとっても極めて親しいといいますか、つまり問題意識としては、私達は全く遠い所
にはない、という感じがしております。
もう一つは、流氷の危険性があるのであれば、ある程度安全な設計をするということに
当然なるわけです。我々、最終的には、安全率という形で事故が起らないようにするのが
プロなのですが、安全率ということは、基本的には経済ベースに乗るかどうかということ
も重要な決定要因なのです。このような事が非常に大事でして、経済的に余裕があれば、
少々お金を掛けて安全性を高める、という事が可能になるわけです。ところが、後でお話
が出てくるかと思いますが、皆さん御承知のように、今、石油の値段が非常に下がってお
ります。現在1バレル10ドル位になっている。サハリン〜Tやサハリン〜Uが計画され、
契約された1995年、96年頃は20ドルでした。その頃と比べると石油の値段が半分になっ
ている。ということは、当然、石油を開発しようとする側にとって、十分な安全性を採用
するには経済的環境が厳しくなっている。ですから、石油の値段が安くなっていくという
ことは、安全性がそれほど高くない施設が出来ることが予想される。それが問題であると
思います。今回の施設も、出来るだけ安くということで、北極海で使われていた構造物を
持ってきて、ロシアで下駄を履かせて、韓国で造ったものと組合わせたものです。言って
みれば、出来るだけ安いものを使って造っている、というのが現状です。
今回、サハリン〜Uで使用される構造物には66万トンから7万トン位の氷力が働くだろ
うと言われていますが、ロシアのある研究者は7万5千トン位かかるのではないか、5千
トン位重さが不足しているのではないか、と指摘しています。そういうことですから、最
初に言いましたように氷の力は必ずしも解っていないのですが、解らない部分は出来るだ
け安全度を高める状態にする、ということになるべきことが、石油価格が安すぎるという
ことで、なかなか安全性に余裕がないということが現状だと思います。十分な利益をあげ
られるような石油の値段になれば、それだけ安全性にお金を掛けられる。ただ実際には、
開発をしているメジャーの会社というのは、大きな事故を経験しております。エクソンは、
皆さん御存知のように、エクソン・バルデーズ号で大災害を起しております。その時、油
の除去や生態系復元に大変お金がかかっているわけですから、開発会社の方は、当然、そ
ういうことにならないように、安全性を考えるわけです。しかし、先程言ったように、石
油の値段が安くなりますと、その範囲が限られてしまうということが、構造物の設計、あ
るいはパイプラインについても言えるのだと思います。ですから、こういった若干過大な
設計、過大な投資をして安全性を高めるということが出来なくなりつつあるのが現状だと
思います。
それで、今度は少し観点を変えまして、水産学部の中尾さんがいらっしゃっていますの
で、とりわけ皆さんが心配されている漁業資源への影響という問題をお願いします。風邪
を引いておられて、これが大変深刻な状況ですので、そこを無理してお願いしていますの
で、あまり多くを語らなくて結構ですので、よろしくお願いします。
ここで使っております界面活性剤というのは、いわゆるノニルフェノールというもので
す。このノニルフェノールは界面活性剤として非常に有効でございます。しかし、毒性が
強いと心配されております。このように、48時間、各濃度のノニルフェノールに浸しまし
て、その後、24時間取出して、エゾバフンウニの2cmの稚ウニの生死を判定したものでご
ざいます(図−4)。下の線が上の実験グラフの理論式です。この理論式から50%の稚ウニ
が界面活性剤で影響を受けるのは何ppmかといいますと、約18ppmということになります。
ですから、稚ウニが18ppmで48時間晒されると、50%が死ぬという結果でございます。
しかし、生き死にということは重要なことではございません。水産から考えますと、そ
れよりも遥かに問題なのは、生きているウニでも影響があるかないか、このことをきちっ
としておかないといけません。これはノニルフェノールを使った、エゾバフンウニの受精
率、それから第一卵割。正常な幼生まで発育するかどうか。これを各濃度によって実験し
たものでございます(図−5)。この上の欄がノニルフェノールの零の実験値から有意に減
少する値はいくらか、これが上の四角に入っているものでございます。これを見てみます
と、受精率ですと、5ppmで影響を受けだすという結果になっています。四番目の正常なプ
ルテウス幼生、プランクトンまでうまく発生するかどうかでは、2ppmで影響を受けだすと
いう結果になっています。これを理論値から推定したものがこの結果でございます
(図−5)。これを見てみますと、受精率が12.2ppm、
第一卵割率が2.2ppm、正常のう胚率1.7、
プルテウス幼生1.4。つまり、先程は稚ウニだと18ppmでも大丈夫だった。ところが、生
きているエゾバフンウニの受精率だと、この程度でも既に50%の影響を受けているという
ことです。更に、幼生の段階まで行くと、1ppmを超えると50%が正常に発育出来ないとい
う結果になる。事故が起きて海面に油が流出した時に界面活性剤で拡散させます。原油自
体にも毒性があるといいますけれども、一番根底には、それを拡散させる界面活性剤が非
常に重大な影響を及ぼすわけです。原油自体の毒性については我々も現在調べていますが、
一番問題になるのは、魚獲物でいうと、着臭機構です。この臭いの問題が解決されないと、
生きていても生産性、資源としての有効性は落ちてくる。現在は着臭機構について実験を
している、という段階でございます。
二つ目ですけれども、コスト負担のコンセンサスという問題、これに触れてみたいと思
います。開発者としても、当然ながら、法律なり規則なりを十分に守った上で最善の注意
を払っているということは事実だろうと思います。環境を全く破壊しないで済む、或は事
故を起さないということ、これは言葉で言うのは簡単だろうと思いますし、観念的には可
能なのかも知れません。しかし、それをやるためにどれだけのコストが掛るのか、それを
誰が負担するのだろうか、という視点を忘れるわけにはいかないと思います。今、我々が
払っている電気代、ガス代、或は灯油代、この何倍を払えば納得のいく対策が講じられる
のだろうか。それは当然受益者が負担することになります。けれども、そういったことで
経済活動が成立するのだろうか。或は、我々にそれを負担する用意がありますか、という
ことです。そういうコンセンサスが未だ出来ていないということが、二つ目の問題だろう
という気がしております。
それに関してもう一つ忘れてはいけない視点としては、石油にしても、どれだけ中東に
依存しているか。第一次オイル・ショック、第二次オイル・ショックとあって、日本はエ
ネルギー資源確保のための供給源多角化という道を走りかけたにもかかわらず、現状では
逆行して中東依存度が高まっている。そういう状態が本当に国家の安全保障にとって正し
いのかどうか、という観点です。これもやはり忘れてはいけない問題だろうという気がし
ます。
それともう一つ。環境を守り、事故を防ぎ、或は救済をするという意識、その体制。そ
れは誰がどういう責任をとるのだろうか、責任態勢はどうあるべきなのだろうか、という
ことが、おそらく三つ目の問題であろうという気がします。先程、村上座長のお話のなか
で、北海の例が提示されたわけですけれども、それと同じようなことが日本、或はアジア
のなかで考えられているのだろうか、というと、違うような気がしております。といいま
すのは、開発者というのは当然のことながら、先程も申しましたように、最善の注意を払
い、最善の努力をしていると私は考えます。それでも起きるのが事故。事故というのはそ
ういう性格のものであります。それでは、事故が起きたときに誰がその対策を講じるのか
といいますと、まず、事故を起こした当事者が事故の被害を最小限に食い止めて、救済、
復興を図る。この責任は当然のことだろうと思います。しかしながら、エネルギーに限り
ませんけれども、経済活動に不可欠な物質、そういうものを持ってくることが必要だとい
う安全保障上の観点から考えますと、個々の企業だけに責任を押しつけるということには
ならないと思います。先程の北海の例では企業レベルで採算、利益が合致するのでしょう。
けれども、今、オホーツク海という次元で考えた時に、サハリンに防災会社が一社あると
のご紹介がありましたけれども、本当にそれだけで足りるのか、というと、不十分な気が
します。国家の安全保障に関わる問題ということになりますと当然ながら、国、それに地
方というレベルと企業が一体となって解決策を講じて行くことが必要だ、という気がして
おります。今日のテーマからちょっと外れてしまうのかも知れませんけれども、日本の存
在、世界における存在、少なくとも安全保障面での存在ということを考えますと、私は、
アジアにおいてこの体制をつくれるのは、おそらく日本なのだろうと思います。日本が中
心となってそういうものを作るべきであります。そういう観点を忘れてはならないという
気がしております。
事故が起きないに越したことはありませんし、安全を図るのは当然のことですけれども、
我々の生活に不可欠なものを持ってくるという時に、持ってきて利用するということを考
える時に、我々の土地だけは汚したくない、というような発想を持っている方々が、おそ
らく、皆様のなかにはいらっしゃらないと思いますし、日本人の多くは決してそうは考え
ていないと思います。けれども、もし、そういう考えがあるとするならば、如何なものか
と疑問に思います。サハリン開発といいますのは、これは日本にとってだけ重要なわけで
はありません。サハリンにとっても重要ですし、極東ロシア全体の経済活動にとって不可
欠の要素になります。それにあたって、当然ながら、環境を破壊しないように、事故を起
こさないように、そういう努力を図りながらも、やはり、開発をしていかざるを得ない、
というのが経済の現状だというような気がします。
それでは、本日、地元からお二方に参加していただいておりますけれども、おそらく、
こういう問題に関心があろうかと思いますし、前もって準備をしていただいたものがあれ
ば、それを報告していただきたいと思います。
いきなり環境問題に入ったものですから、お解りになられない方もおいでになろうかと
思いますが、このサハリン沖には油田が幾つも、十程あると言われておりますが、その内
のサハリン〜Tとサハリン〜U、この二つで埋蔵量が600億バレルといわれています。1
バレルは、先程調べましたら159リットルだそうです。その他に天然ガスが1兆8,000億
立方メートル。これだけの埋蔵量がここにあるだろうといわれております。ソ連が崩壊し
てから具体的な動きになったわけです。なんとか日本でも、極東でも活用出来ないか、こ
ういう動きが1995年、つい4、5年前から具体的に始まったわけでございまして、稚内、
函館を中心に後方支援基地、大変厳しい条件下での作業をするわけですから、その作業に
対して支援をする基地になろうということで、まず稚内が手を挙げ、函館が手を挙げたと
いうことになったわけでございます。続いて、小樽、室蘭、釧路、網走、紋別という順に
手を挙げたわけでございます。正直言って、港の設備、都市形態等々からいって、我々は
函館、小樽に出遅れていることは事実でございます。そこで、紋別としても、何とか後方
支援基地として、作業のお手伝いをしたいし、更には地元の活性化にもつなげたいという
ことで、1997年に前の市長さんが、お辞めになる数ヶ月前にサハリンに出掛けられたわけ
です。もちろん具体的な成果はありません。素人が行って、サハリンで何を聴いてもそう
簡単に解ったわけではございません。ただ、メーレイという地区がありまして、漢字では
女麗と書くのですが、そこに案内されました。そこは石油、天然ガスのLNGおよび輸出基
地だということが、地元の市長さんの言葉で解って参りました。それから、掘削基地から
メーレイまで、樺太を縦断してパイプラインが引かれるわけでございます。それが大体
625kmということになっております。カタングリという所からずっと下ってきまして、ア
ニワ湾にプリゴロドノエという村がございますが、ここが樺太時代のメーレイでございま
す。この間625km、ノグリキとカンタグリの間が70kmですから、合計で大体700kmをパイ
プラインで結ばれるという計画になっているようです。2005年に、生産が軌道に乗って参
りますと、1兆円の売上げがあるだろうといわれています。そこで、1兆円のうちの5,000
億円は開発側、残りの5,000億円はモスクワとサハリンで分け合うという約束になってい
るようです。そうしますと、サハリン州政府は相当潤って来るだろう、と私共は想像する
わけであります。サハリン州政府は今後、道路を直し、上下水道を整備し、更には学校、
住宅、市民生活ということでの、相当な潤いが想像出来るということでございますし、そ
うすると、当然のことながら、今、紋別にもロシア人が年間3万人上陸しております。日
本でおいしい酒を飲んだり、ビールを飲んだり、おいしい魚を食べたりという経験をして
いるわけですから、これがやがてサハリンにどのような影響を与えるのだろうか。私共は、
今、乗組員にアンケートをとって、食材を中心にいろいろ調べさせていただこうと思って
います。更には、函館や稚内の真似をしても駄目なのでして、今、ここで我々が考えてい
るのは、例えば、地質の関係、海洋探査、環境の問題、コンピューター、空調、防災。こ
れらのいわゆるエンジニアリング、化学分析、空と海の運輸、更には食料品、今お話した
ような生活物資、レジャー用品。紋別は、これらのうちのどれかを誘致するということで
のかかわりを持っていくことが賢明ではないのか。こんなふうに実は考えたりしている所
でございます。いずれにせよ、先程来話がありましたように、今年の7月からサハリン〜
Uは生産を開始致します。当面はタンカーで、その後はパイプラインで、となるようでご
ざいますが、なんとか、後方支援をしながら、更には地元の活性化を図って参りたいと考
えているところでございます。
先生方から開発と環境というキーワードを投げられたわけですが、私は、これは両立す
るかどうかということよりも、両立させなければならないのではないかと思っております。
開発と環境と言うのは簡単ですけれども、結論から言って、生活をしていくためには、両
面をどこかの時点でソフト・ランディングさせることが一番理想なのかなと思います。ど
ちらかと言うと、私を含めて日本人というのは危機意識というものが、どうも欠けている
ように思います。神戸の大震災の時に、私が非常に印象深かったのは、神戸市役所の市長
さんが神戸市役所を立ち上げるのに実は3日かかったと話していたことです。しかしなが
ら、若者のボランティアの組織は6時間で立ち上がった。私は、人間というのは、そうい
う突発的な事故が起っても冷静に処する精神を持ち得ているのかな、と思います。
今回のこのサハリンについても、今、まざまざとこの地図を見させていただいて、こん
な身近な所で、実際にこれだけのプロジェクトが立ち上がっているということをこの場に
来て再認識し、反省をさせられました。私は、やはりこういう時代ですから、あらゆる手
段をとって、情報を出来るだけ的確に集約出来るような、大げさに言うと国家的なプロジ
ェクトの中で、押し進めていくべきではないかと思います。やはり情報が豊富であればあ
るほど、それに対応する観点が開発型であれ環境型であれ、危険を出来るだけ小さくしな
がらやっていけるのではないかという気持を持っています。今日こちらに来る時に、ラジ
オを聴いておりましたら、もう既に、アメリカのサポート基地として、稚内をそういうス
トック・ヤード的な位置づけをして、職員を一人張付けているようです。やはり、私は、
日本人としてどん欲に、情報を蒐集することにお金を掛けるべきではないかと思います。
それから、私は仕事柄思うのですけれども、日本人というのはややもすると、災害に対
することは国や地方自治体がやってくれるのではないか、と心の底に甘えがあるような感
じがします。私の経験ですけれども、5年前にアメリカのネバダ州の州都、人口が6万人
位のカーソンスピーチという街に、ロータリー財団で半年位滞在をしておりました。その
時に驚いたことに、その地域の火災、日本でいう消防団ですね、そういうことを実際に行
っているのは民間会社であります。この会社は私と同じ建設業でございまして、話を聴き
ますと、新潟の石油タンク火災の時に、この会社は新潟まで出張してきているのです。そ
ういう、片側で機動力を持ちながら、人を沢山抱えている組織が、もう少し建設業だけで
なくて、そういうことに携われる何か可能性みたいなものを、私も含めてもう少し模索し
て行くことによって、開発と環境のソフト・ランディングが出来るのではないかと考えて
おります。例えば、もう少し具体的に申しあげますと、この海岸線に色々な港湾工事をし
ている会社も数社、地元出身で存在しております。それから、大手のスーパー・ゼネコン
も実はこの地域で一緒にジョイント・ベンチャーを組んで、開発型の仕事をしているわけ
です。これらの企業がもう少し環境的な勉強を実践の訓練も含めてやることによって、こ
の地域でそういう存在をしている企業と、地域の住んでいる人達との何かボランティア精
神を含めるとすると、まさに神戸のことを見ていると、そういう目線が深まってくる可能
性があるのではないかと思っております。
最近、私共の建設業やいろいろな物を生産する事業体に対して、建設省とか運輸省とか
がISOという国際標準規格の取得を勧めております。これには9000シリーズと14000シリ
ーズがあるのですが、この環境の14000シリーズというのは、そういう環境を、自分の会
社の置かれている環境の中で、世界的、国際的に最低限守らなければならないのです。少々
抽象論で申し訳ないのですが、このような部分で、環境に対するその企業の姿勢が問われ
ているのです。うちの会社も昨年の12月に、このISOの施工部分のシリーズですけれども、
9002を取得しました。ちょっと聞きますと、未だ北海道のなかで、全業種、全業態の中で
このISOを取得した会社は、今現在、たった40社しかないのです。この管内でISOを取得
した会社は現在、3社ございます。このうち2社は私共と同じように施工関係のISO9000
シリーズですけれども、北見に存在している北海道京セラ工場は、ISO14000を取得してい
る企業であります。将来的には、こういう仕事を、開発型の仕事をしていきながら、なお
かつ、その仕事で出てくる弊害的なことをISO14000シリーズである程度押えつけていかな
ければいけない。そういうことを考えたときに、情報をより的確に集約して、それを公開
することによって、我々の民間レベルの目線が上がっていくのではないかと思います。こ
こで、国として、道として、地方自治体として、そして民間企業として、どうあるべきな
のかということをみんなで話し合いをしていけば、このサハリンの大きな夢も、そう難し
い問題ではなくなっていくのではないかという感じがしております。
それと、私の立場からしますと、天然ガスのパイプライン輸送の可能性があるとこのあ
いだ北海道新聞に出ていましたけれども、もしこの北海道に上陸することが現実として現
れた時のインフラ効果は、今の不況を吹飛ばすようなものになるかと思います。ただ、こ
ういう時にハード的なことばかりに頼るのではなくて、風ですとか、私共の地域では太陽
エネルギーに非常に特化していますが、そういうこととの併合性をもって、なにか素晴し
い北海道が21世紀に開かれていけばいいなと思っております。
以上でパネリストの方の発言が終りました。実はここにロシア人が二人みえております。
彼等はサンクトペテルブルクの北極南極研究所のスペシャリストで、青田先生がお招きに
なって、明日からの国際シンポジウムで報告されるわけですが、ちょっと紹介したいと思
います。スチェパーノフさん。ワシーリさん。それに、皆さん十分御承知の荒井さんに通
訳をしていただきまして、我々のここでの報告のかなりの部分を理解されているようです。
是非私にも発言させて下さい、という飛び入りの希望がございましたので、通訳を含めて
5分間時間をお与えしますので、お願いします。
今日、皆さんから御指摘があった通り、サハリンの沖合の資源を開発し、その石油を輸
送するということは極めて大きな好ましい効果にもつながると同時に、いくつかの危険も
もたらしかねないものでございます。佐伯先生からも御指摘がございましたけれども、私
達は特に氷との関係で、これから、今後も沖合につくられる構造物の設計に関して、出来
るだけ正確なディスカッションをしていく必要がございます。もちろん、こうした事故を
未然に防止することが重要でございますけれども、同時に、事故が起きた場合に、その被
害を最小限に抑えるという事が大変重要であります。そのためには、あらゆる領域の研究
者の総合的な研究協力が不可欠でございます。今回私達は、北海道大学の御招聘でお伺し
ているわけでありますけれど、私共が承知しておりますように、北海道大学にはあらゆる
分野の、しかも世界的なお仕事をなさっていらっしゃる先生方が大勢いらっしゃいます。
まさにこの北海道大学というのは、今、私達が取組まなければならない大きな課題を総合
的に捉える、大変大きな可能性を持っていると理解しております。例えば、村上先生を初
めとして、ここにいらっしゃるスラブ研究センターの皆様は、ロシアと日本の関係、この
大陸棚の問題を含めて様々な問題を、社会科学的・人文科学的な面から研究をされていら
っしゃいます。それから、今日も御指摘がございましたけれども、サハリン大陸棚の事を
考えますと、氷というのは、まず一つは構造物に対して非常に強い影響を与えるという面
からも、氷の移動ということを通じて、例えば、原油が流出した際に、どういうふうに拡
がっていくのかということを研究する上でも、最大の素材であるという面からも、氷の構
造とか、氷の移動というものを研究されていらっしゃる皆さんが北海道大学に大勢いらっ
しゃることは、大変重要な点でございます。特にこの紋別で流氷研究にあたっていらっし
ゃる青田先生の業績は、私共も含めて、世界が高く評価しておる所でございます。また、
沖合の資源を利用していく上で、造られ、設置されます、様々な構造物だとか、油を輸送
する船だとかというものの設計において、どのような問題が解明されなければならないか
ということも大変重要な側面でございます。この点では、私共も、北川先生や佐伯先生の
研究成果を非常に高く評価しております。
今、私が何人かの先生の名前を挙げたのは、決してお世辞をいう為ではなくて、それ程
様々な分野の専門家の方が北海道大学をつくっている。そういう北海道大学が皆様と一緒
にこの問題の研究にあたっている、という重要性を強調したいからでございます。その意
味では、今までの伝統的な北海道大学の低温科学研究所の先生方との交流に加えて、更に
北大の先生方と、私達、北極南極研究所が、北大という枠の中で協力の広がりを増してい
った時に、おそらく、問題解決に更に有益な協力が出来るというふうに期待しております。
私共の研究所のことを紹介させていただきますと、極地における様々な自然環境を研究
する、特に、人工衛星からのモニタリング、或は実際に極地におけるExpeditionを実施す
るという方法で、私達も大きな成果をあげてまいりました。昨年の春には、エクソン社か
らの委託で、サハリン大陸棚の調査も私共の研究所で実施致しました。現在、私共は、EU、
ヨーロッパ同盟からの資金の助成を受けて、北極海における石油生産施設の安全性に関す
る総合研究を実施しております。そういう意味でも、私共としては、今後は更に北海道大
学の先生方との協力関係を深め、拡げていくことによって、究極的には、日本、北海道と
ロシアの人の良好な関係、そして、互恵的な関係の為に貢献出来れば幸いだと考えており
ます。
TOPへ戻る