「サハリン大陸棚石油・天然ガスの『開発と環境』に関する学際的研究」
ユジノ・サハリンスク全体会議
1998年8月25日

サハリン州行政府
サハリン大陸棚鉱資源開発局・資源保護部 部長
A.A.メドヴェージェフ報告

 私はきわめて簡潔に、サハリン大陸棚の開発事業がどのように始まっているかということについての報告を したいと思います。日本の研究者の皆さんにとっては新しい情報はないかもしれませんけれども、概要をお 話ししたいと思います。

 サハリン大陸棚開発が具体的に着手されましたのは、1976年に当時のソ連と日本が共同で始めた大陸棚探査 事業が出発点であります。今日、実際に稼動しておりますのはサハリンTとサハリンUの二つのプロジェク トであります。サハリンUの方の事業主体、オペレーターとなっておりますのはサハリン・エナジー社でご ざいます。このオペレータは、日本、アメリカ等四社の共同出資の会社でございます。サハリンTのほうは エクソン、それからサハリン海洋石油ガス会社、ロスネフチ、ソデコ四社のコンソーシアムであります。サ ハリンT,Uの順ではなく、U,Tの順でお話しした理由は、今サハリンUの方が先行しておりまして、こ れまでの予定、われわれの合意に基づきますと、来年には原油の本格生産が始まる、という段階まで到達し ております。

 このサハリンUは、当初の技術経済計算(FS)で示されておりました計画を一部修正をいたしまして、臨 時的な措置で原油生産を始めることが決まっております。皆さんの中には経済の専門家もいらっしゃいます し、そうでない方も経済学の知識をもっていらっしゃいますから、その生産段階での計画の変更の理由とい うのはご理解いただけると思います。すなわち変更後の臨時的な措置というのは、ピリトゥン・アストフス コエ鉱床にモリクパックと呼ばれるプラットフォームを設置して、生産した原油をタンカー型の貯蔵タンク に一度保管し、これをタンカーで搬出するという計画であります。そういうわけで石油の生産及びその生産 された原油の積み出しというのは氷のない時期にのみ行われますので、当初の段階では原油の生産は年産で 200万トンから300万トン程度に限られます。

 全体の計画では、二つのプロジェクトをあわせて五つの鉱床区の開発が予定されております。ピリトゥン・ アストフスコエ、ルンスコエ、いずれももちろん北東部の大陸棚にありますが、この二つがサハリンUの開 発対象鉱区であります。それに対して、チャイウォ、オドプト、アルクトゥン・ダギの三つがサハリンTに よる開発の対象となっております。これらが全て本格的に開発をする段階に達しますと、この大陸棚にあわ せて八基のプラットフォームが設置される予定であります。その段階になりますと、サハリンを南北に縦断 いたします油とガスのそれぞれ630kmのパイプラインが建設される予定になります。おおよそノグリキ地区 からそのパイプの敷設をいたしまして、端末はアニワ湾に面しておりますコルサコフに近いプリゴロドノエ までまいります。プリゴロドノエまでですけれどもここには二つの積み出しターミナルができます。一つは 原油であります。もうひとつは同じプリゴロドノエに建設されます予定としては年産50万トンのLNGの生産 プラントからLNGを出荷するターミナル、この二つが予定されております。言うまでもないことでございま すが、パイプラインができますと、中間にいくつかのポンプアップ・ステーションもできます。また、それ 以外にいくつかのインフラストラクチャーの建設が予定されております。たとえば、このプロジェクトに従 事する人たちの住宅でありますけれども、ユジノ・サハリンスクではサハリンの従業員宿舎の建築工事が既 に始まっております。他に、こうした住宅の建築が予定されておりますのはカタグリ、ノグリキ、オハの三 ヶ所であります。

 二つの現在作業中のプロジェクトの原油生産がピークに達しますのは大体2010年と考えられておりますけれ ども、2010年に二つのプロジェクトをあわせて年産2600万トンの原油生産が見込まれております。ガスの生 産、これも今のところ二つのプロジェクトについてですけれども、ガスの生産のピークは2020に年産75億m3 を予定されております。今申し上げた数字というのは先ほどあげた五つの鉱区を対象とする二つのプロジェ クトによる生産の規模であります。それ以外にサハリンには石油あるいは天然ガスの埋蔵が確認されている 鉱区もいくつもありますけれども、まだこれらは生産物分与方式での開発を認められる対象鉱区リストに加 えられていないために、生産物分与方式での開発のめどはたっておりません。現在サハリン州行政府として はキリンスコエ鉱区、これは今開発の対象になっておりますピリトゥン・アストフスコエですとかアルクト ゥン・ダギに比べると少し南のほうになるんですけれども、この鉱区が生産物分与方式での開発を認められ る対象候補になるように働きかけを行っております。対象鉱区としてリストに入れるかどうかというのは連 邦議会下院の決定によるものでございまして、すでにこのキリンスコエ鉱区を対象鉱区に加えてはどうかと いう問題は下院で審議をされております。第2読会までは通過をしているはずであります。

 今朝ほど少し申し上げましたけれども、二つのプロジェクトでの投資の総額というのはおよそ250億ドルと 想定されています。これは少なくとも私たちの体験した中では最大級の投資プロジェクトでございますので 、それがもたらす環境、あるいは生態系への影響というものをどのように評価するのかということに向けて 共同研究のプログラムを進めようというこの提案は非常に重要な意味をもっております。

 今朝ほど皆さんからの自己紹介の中で、影響、とりわけ経済への影響に対する強い関心が示されました。私 どもとしてはむしろエコロジーに対する影響のほうに重点をおきたいと考えています。と申しますのは、エ クソン社のアラスカでの原油流出事故ですとか、ナホトカ号の事故ですとかが、私たちの記憶にまだ新しい わけです。とくにオホーツク海はきわめて微妙なバランスの上に成り立っている海でありますので、私たち としてはこの海域での開発というものが結果的に私たちの、あるいは私たちの隣国の人々の生活に悪影響を 与えないように、十分な考慮を払ってこの問題に接近する必要があります。そのためには私たちは多くの予 防的な措置も必要であります。特に、原油流出事故を未然に防ぐ方策であります。特に私どもが重視してお りますのは原油の輸送に10万トン、15万トンというような大規模なタンカーが従事することになるというこ とでありまして、この事故の可能性というのを重視しております。我々の考えでは原油の生産を行います掘 削現場よりもタンカーの事故の可能性のほうが高いのではないかと考えております。

 これまでの統計を見ますと、オフショアでの石油開発の際にプラットフォームから原油が流出したとしても 、それが海洋に直ちに流出してしまうというのは全体の流出量の1%程度というふうにいわれております。非 常に確率は低いというものの、今年から、大掛かりになります掘削事業に対して我々は開発事業側に対して 原油が噴出した際にこれが海中に流出しないように最大限の措置をあらかじめ講じるように求めました。こ れは石油開発について知識をもっていらっしゃる方であればよくご存知でありますけれども、原油の流出は 、予防のほうがずっと簡単であります。おきてしまった後おさえるというのは大変難しい、つまり火事の場 合、実際の火事を消火するより予防の方がずっと簡単であるというのと同じであります。さきほどの国際的 な統計と申しましたけれど、海洋に流出をします油の総量のうち、36%までがタンカーによる輸送中に起き た事故によって海洋へ原油が流出をするという数字であります。つまり原因の中で最も高いパーセンテージ を占めているのがタンカーの事故であります。

 そうしたことを前提に考えますと、私たちどもとしてはこの共同研究のなかで原油の流出の防止、とりわけ 氷海という条件の下で原油の輸送が行われているなかで、原油流出事故をどう防いでいくのかという研究が 、ある種の優先度を与えられることを期待したいと思います。もちろん今日のテーマが重要でないと私は申 しているのではございません。しかし、例えばエクソンのおこしたアラスカでのタンカーの原油流出事故を 振り返ってみますと、あれでもアメリカでは早急に流出した原油を除去する準備が十分にできていなかった 、ということがいえるわけであります。しかしアラスカはオホーツク海に比べてまだまだ条件がよかったと いってもいいぐらいであります。ですから、私たちはそのことを考えますと、オホーツク海においてタンカ ーからの原油流出事故が起きた場合というのを想定して、十分練られた予防措置、除去措置を講じておく必 要がございます。もちろん、私は他のエコロジカルな問題の重要性も無視するという気はまったくございま せん。しかし今申しあげたような点の重要性を強調したいと思います。その意味では共同研究のプログラム は少し中身を見直す必要もあろうかと思います。

 最初にお断りした通り、ごくあらましだけをということでお話しを申し上げました。解決すべき問題は実は 今日触れませんでしたけれどもたくさんございます。そうした環境保護、エコロジー、安全という問題はど れも具体的な技術的な解決というものをみなければならない問題ばかりであります。技術的なブレイクスル ーがなければ必ずそうした問題は将来環境に悪影響を及ぼすこととなります。こうした問題についての、何 が問題になっているかということもたくさんお話し申し上げるべき点も多々ございますけれども、一応私と しては今日はごく大まかな点だけをということでお話ししましたので、これらについてはまたより詳しくお 話しする機会もあろうかと思います。

ご静聴ありがとうございました。


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