文部省科学研究費補助金(国際学術研究)共同研究会報告

はじめに

 平成10年度文部省科学研究費補助金(国際学術研究)によって、ロシア連邦サハリン州国家 環境委員会のナタリー・オニシェンコサハリン州国家環境委員会議長およびガリーナ・コステン コ・エコロジー保安部長を研究協力者として招き、北海道大学スラブ研究センターにおいて3 月15日〜22日にかけて共同研究会を実施した。その際、コステンコ部長からサハリン州国家環 境委員会の概要およびサハリン大陸棚石油・天然ガス開発に伴う環境問題について報告を受けた。 以下はその要旨である。 

1.サハリン州国家環境委員会の概要

(ロシア連邦国家環境委員会の目的)
・ (コステンコ部長)自然に対して影響を及ぼす人間の活動を監督することが国家環境委 員会設立の基本的な目的である。
・ ロシアの89の連邦構成主体に地域別国家環境委員会が設立されている。その役割はロシ ア連邦国家環境委員会と全く同じである。

(サハリン州環境委員会の組織)
・ サハリン州国家環境委員会はロシア連邦国家環境委員会の下部組織である。
・ サハリン州国家環境委員会の組織は現在(1999年4月現在)下記の通りである。組織の 中には独立した法務部はない。総務部に二人の法律専門家がいる。損害賠償請求に対し、 訴訟になることが多いが、その対策に従事する。
・ サハリン州国家環境委員会の傘下には各地区に小さな委員会がある。地区レベルでは専 門職で2〜3名、監督機能が最も重要である。サハリン州国家環境委員会がすべてをファ イナンスする。地区レベルの委員会は行政府からは資金を受けていない。サハリン州国 家環境委員会内には支部の業務を監督している部もある。
・ サハリン州国家環境委員会の従業員(専門家)は100人(うち地区の委員会は26人)。 部局では国家監督局が最大。
・ ユジノ・サハリンスクの委員会に75人、セヴェロ・クリル地区に2人、クリル地区に2 人、南クリル地区に2人(運転手を除く)。自然保護地区(ポロナイスク地区、クリル地 区、アニワ地区等)はすべてモスクワの国家環境委員会委員会の自然保護地区局に直轄 している。

サハリン州国家環境委員会の組織
住所:693000 Yuzno-sakhalinsk, Dzerzhinskogo, 15
   tel:8-424-222-32363, fax:8-42422-728392
   e-mail:SakhEcolog@Sakhalin.ru

・ 議長 オニシェンコ N.I.
・ 副議長 ザボトヌイ V.M. ポロシン L.E.
@ 総務部 部長 コヴァリ G.T.
A 財政・経理部 部長 ベラシ L.I.
B エコロジー鑑定・社会団体との活動部 部長 シュガイポフ N.A.
C エコロジー監督部 部長 レヴャキナ Z.V.
D エコロジー計画・エコロジー基金部 部長 テン R.N.
E 天然資源利用者基準化・ライセンス部 部長 オルロヴァ E.M.
F エコロジー保安部 部長 コステンコ G.A.
G サハリン州環境保護国家監督局  局長 シェベルストヴァ L.A.
H サハリン地区海洋資源保護管理部 部長 ネヤスキン I.K. 

・ サハリン州小型船舶国家インスペクション 部長 ポジダエフ B.G.
(地域間環境保護委員会)
・ ユジノ・サハリンスク地域間委員会 委員長 ウソヴァ N.P.
・ ポロナイスク地域間委員会     委員長 スルタエフ V.I.
・ ウグレゴルスク地域間委員会    委員長 アノシン V.A.
・ トゥイモフスク地域間委員会    委員長 ジュコフ V.N.
・ コルサコフ市委員会        委員長 キヴィシィリト L.A.
・ ネヴェリスク市委員会       委員長 ヤコヴレヴァ T.A.
・ オハ市委員会           委員長 キセリョヴァ S.V.
・ ホルムスク市委員会        委員長 アレシン V.Yu.
・ ノグリキ地区委員会        委員長 ポズデエフ L.P.
・ セヴェロ・クリル地区委員会    委員長 コソンチ L.N.
・ クリル地区委員会         委員長 ランキン A.L.
・ ユジノ・クリル地区委員会     委員長 ゲルト E.G.

(サハリン州国家環境委員会の権限)
・ 連邦執行権力機関の出先であり、連邦構成主体(行政府)はこのサハリン州国家環境委 員会の活動に介入しない。
・ サハリン州国家環境委員会は議長によって統括され、議長はロシア連邦国家環境委員会 議長によって任命される。
・ 同時にこの議長候補については当該連邦構成主体の知事の合意を取り付ける。しかし、 最終的な人事権はロシア連邦国家環境委員会議長にある。二人の副議長も知事の合意を 得て、連邦環境委員会議長が任命する。
・ サハリン州国家環境委員会にはロシア連邦国家環境委員会承認の活動規約があり、この 規約はサハリン州行政府との間で協議し、知事が合意署名の上発効する。
・ サハリン州国家環境委員会の構成、定員、下部機構の活動内容をロシア連邦国家環境委 員会のリコメンデーションを受けて作り、行政府の合意を得て発効している。
・ この地域の活動内容によって定員が決まり、ロシア連邦国家環境委員会の同意が必要に なる。
・ かつてはサハリン州環境委員会に関係なく、モスクワに直結する組織があった。例えば、 特別洋上インスペクション、小型船舶管理局がモスクワに直結していたが、現在はサハ リン州国家環境委員会に属する。サハリン州行政府の決定でモネロン海洋公園があるが、 これは州の決定で決めたので州に属する。目的は水性生物資源、とくにウニの乱獲を防 ぐために指定された。旅行者が海洋公園に入ることは認められている。
・ 地区の委員会のスタッフは、地区委員会毎の規則に基づいて権限、職務が決まっている。 廃棄物の流出など地区の現場で調査し、調書を作り、影響除去の方策の指示・監督を務 める。日常では地区内の企業の環境基準、例えば石炭を燃やす場合固形の粒子が年間100 tを越えてはいけないが、範囲内に収まっている限り負担金を払っている、地区のスタ ッフはこの基準を守っているかどうか、固形の廃棄物をどこにどのような形で 搬出す るか決まった基準で行われているかどうか、守られていなければ5倍の罰金を科す。
・ 委員会以外にロシア連邦執行権力には重なる分野で事業を行っている省がある。例えば、 森林資源についてサハリン州国家環境委員会が担当するのは森林資源の汚染防止であり、 それを越える積極的な森林資源の利用は林務庁の担当となる。
・ 自然資源省は「地下資源法」により、地下資源の利用に関する許可の発行を行い、自分 たちのライセンスにのっとって地下資源が利用されているかどうかを監督する。環境委 員会はライセンスにもとづいて利用している利用者の利用方法を生態系の側面から監督 する。
・ 同様のことは水資源についても言える。「水法典」によって実際に水資源の利用を誰に認 めるかは定められた執行機関が行うが、サハリン州国家環境委員会はエコロジカル・コ ントロールを実施する。
・ すべての自然資源についてこのような関係が成り立つ。土地は「土地法典」、その利用者 が生態系に悪影響を与えていないかどうか監督権をもつ。連邦国家土地利用委員会があ る。
・ 結論的にはどのような自然環境でも利用について規則を決め、ライセンスを供与する機 関があり、環境委員会は生態系のバランスをくずしていないかどうかの監督を行う。
・ 企業は毎年環境対策を決める必要がある。汚染発生源についての一覧表を作らなくては ならない。発生源を特定し、基準以内におさめる措置について地区レベルの環境委員会 との間で協議を行う。企業にとって環境分野の年間計画を立てることは企業の出費を節 約できる。企業は環境対策費を負担するが、委員会の基準に照らして必要なものを含め た環境保全計画を立てた場合、実際の環境基金への支払いは30%でよい。70%は自社の 環境対策に留保して良いという規則がある。委員会から地区の委員会に対しどのように 予防するか、汚染をどのように除去するか情報が提供されているので企業側は積極的に 活用し、起こりうる環境汚染を未然に防ぐためのコンタクトを常時もっている。新たな 生産設備を設置する場合、地区の委員会と事前協議を行う。内容が細かく詰められ、実 際の手続きを委員会で行う場合、簡素な手続きで済む。
・ サハリン州行政府には自然環境保護を担当する機関がない。環境政策はサハリン州国家 環境委員会に委託されて実施することになる。州からの委託は州に報告する義務がある。 委託された場合の財政は連邦となる。州議会との関係では自然利用委員会常任委員会が あるし、他にも関係委員会がある。連邦にも連邦レベルの法律がない場合、州法を採択 するケースもある。例えば、議会では現在、「漁業法」が第一読会を通過しているところ である。委員会の運営規則の中に「連邦の実定法およびサハリン州の実定法に基づいて」 という文言が入っているので、連邦のもっていない法律が採択された場合、自動的に可 決された法律に従う義務がある。

(サハリン州国家環境委員会の財源)
・ 活動に必要な財政は連邦予算で行われる。
・ 連邦歳出予算に占める環境関係の支出は1998年には0.4%程度にすぎない。これには人 件費、経常事務費は含まれていない。
・ 州予算には環境費を計上していない。州予算外のエコロジー基金(環境負担金および罰 金)が唯一の財源。財政逼迫のなかでロシア連邦国家環境委員会から送金を受けるのは 人件費だけであり、研究費、資材購入費は入ってこない。
・ 活動費用のために財源が必要であり、エコロジー基金の運用規則の中で総収入の5%まで は環境委員会の必要な資材の購入、環境監督費用に充てることが認められている。
・ 99年になってサハリン州国家環境委員会の給料はドル表示で平均100ドルに満たない。 給与は去年2カ月くらい遅配、今年は大幅な遅配はない。
・ ロシアでは自然資源の利用は有償であり、資源利用過程で環境汚染を起こす場合、利用 者は汚染の補填金を支払う必要がある。
・ 委員会の中に基準化・ライセンス部があり、資源利用者に対し、自然に対する影響がど の範囲を越えた場合、環境汚染に対する補填を支払わなくてはならないかのノルマティ フ(基準)を決めている。
・ こうして基準を越えて汚染をもたらした場合、自然利用者は特別な口座に支払う必要が ある。これによってエコロジー基金が形成される。この基金は州内における自然環境保 護措置のための目的に特定して支出される。
・ 1996年以降、ロシアの企業は事業を行う際、ライセンスを取得し、環境基準を守ること が確認され、環境ライセンスを受け取ることが必要になった。基準化・ライセンス部が 環境ライセンスの交付を行っている。

(サハリン州国家環境委員会の資産)
・ 委員会は10台の自動車を保有し、行政府から建物を賃貸している。必要な機械・資材は 100%連邦予算からの資金でまかなわれることになっている(実際には給料のみ)。

(サハリン州国家環境委員会の役割)
・ 委員会の第一の役割は連邦レベルの環境保護政策をサハリン州において実施することに ある。活動の根拠となる重要な法律は「自然環境の保護について」である。この法律で は自然環境保護分野で具体的にどのような課題があるか、どのように実施していくのか、 その保護をどうするのか、他の執行権力機関がこの分野で何をしなくてはならないかが 決められている。守備範囲は陸上、内水面、12カイリ領海内、200カイリ経済水域であ る。
・ 現在の委員会の最も重要な活動のひとつは、プロジェクトの実施前の環境評価を行うこ とである。ロシアの現行法ではどんな企業でも事業を行うためには環境アセスメントを 受けなくてはならない。エコロジーの専門家によるアセスメントの目的は施設の建設、 事業の展開が当該生態系の許容範囲にあるかどうかの評価を行う点にある。この点では 特別の連邦法「生態学的アセスメントについて」がある。但し、連邦構成主体の委員会 が担当できるのは米ドル50万ドル未満の施設の環境アセスメントであり、50万ドル以上 (法律の中でドル明記)はロシア連邦の環境委員会が実施する。サハリン〜T、サハリ ン〜Uは連邦レベル直轄のアセスメントになる。小規模、例えば、「ペトロサフ」(モジ ュール方式のミニ精油所)の環境アセスメントは州レベルで行われた。孵化場の小規模 のものは州レベル担当。
・ 環境アセスメントは有料。外部から専門家(審査員)を臨時に招いて審査する。審査員 の人件費を含んでおり、申請者が負担する。
・ 委員会の二つ目の役割は、国によるエコロジー・コントロールの実施である。具体的に は、大気の汚染状況、水質汚染、フローラ、ファウナを含む生物資源の監督である。
・ 第三の役割は、委員会内に自然保護地域に指定されている地域の管理を行う部がある。
・ この他、委員会の担当は土地利用、森林資源の管理、河川および海への産業廃棄物投棄 監督である。
・ 希少な資源ではない、砂利、砂、粘土等の利用許可も委員会の活動対象である。
・ 委員会だけでやっていることではないが、州内放射性物質汚染の一部を担っている。
・ 委員会内には環境保安部があり、生態系上何らかの危険を及ぼす可能性のある施設に対 して、他の監督官庁と調整しながら監督を行う。この中には大陸棚開発に係わるすべて の施設が含まれる。州内企業の活動の結果、投棄されうる危険な廃棄物の監督も含まれ る。
・第四の役割は、サハリン州の環境白書を準備することである。サハリン州における自然 環境の現状を記した環境白書は、基本的には連邦レベルの委員会のフォーマットに従って 作られる。サハリン州国家環境委員会の活動とその過程で得られたデータだけを含んでい る。他の自然環境に関する職務を行っている部分、例えば森林資源保護や水産資源保護に ついては触れていない。知事の命令によってサハリン州の関係機関にフォーマットを示し、 データの提供を求める。州の環境白書は3部のみ作成(州行政府、モスクワ、州環境委員 会の3カ所に配布)。国家環境白書の元になっている。

(近隣連邦構成主体との相互関係)
・ 財政状況が良かった時代には四半期毎にモスクワの環境委員会で構成主体レベルの会議 があった。当面の問題について議論をし、決定を下していた。環境委員会幹部会は財政 悪化でモスクワに集められず、地域別の幹部会を開くようになった。極東で言えばカム チャッカで開いたり、ウラジオで開いたりしている(モスクワからは次官級出席)。1998 年9月ウラジオで代表者会議が行われた。洋上インスペクションについて議論した。そ れまではモスクワの連邦環境委員会に直結していたが、この会議でサハリン州国家環境 委員会の管轄下におくことが決まった。
・ 大陸棚開発が動くにつれて極東各地域の環境委員会の代表者委員会が頻繁に行われるよ うになるだろう。

2.大陸棚石油、天然ガス開発に伴う環境問題

(サハリン・プロジェクトに対する環境サイドの要求)
・ サハリン〜Tに関するアルクトクン・ダギ鉱床の技術経済計算(TEO)に基づいて、連 邦レベルでの環境面からのアセスメントの対象となった。1996年からサハリン大陸棚で 初めて物理探鉱作業が始まった。サハリン〜Uについても環境アセスメントを経て物理 探鉱が始まった。
・ 1997〜98年にはそれぞれ、どこにどのような条件で井戸を掘るか開発側から計画が提出 され、環境アセスメントが行われた。ボーリングは夏45日間(1カ所最長)行われ、解 析作業が行われた。8月初めから10月上旬までが洋上のボーリング時期である。
・ ボーリング許可が出るまでの手順について一般論で言えば、自然資源省が毎年探鉱作業 の対象にすべき地下資源の鉱区の入札を公示する。コンクールを通じて鉱区のライセン スを獲得し、そのライセンスには鉱区の物理探鉱段階、試掘井段階、生産井段階で何を してよいか明示されている。ライセンスを受け取ったからと言って直ちに掘削を始めら れるのではなく、陸上部、沿岸部、経済水域などによっても大きく違うが、関係諸機関 から許可証、合意書を取り付ける必要がある。連邦法、政府決定、省令、規則等文書の 網のなかで行われることになる。
・ 12カイリの外の経済水域であれば、最重要な法律は連邦法「大陸棚法について」になる。 同時に98年12月に制定されたロシア連邦の排外経済水域についての影響も受ける。
・ 12カイリ領海内では連邦法「領海および内水面について」や連邦法「水法典」の法律が もっとも重要になる。12カイリの内側では水上・水中施設に関する法律、水中危険物に 関する法律も規制の内容を含んでいる。
・ この他省令、海洋投棄の規制、漁業に関する規則、海上に建設されるリグ、船舶の活動 による海洋汚染防止など数え切れないほどの規制がある。
・ 12カイリの外になると国連海洋法の適用対象になるので、国際的な海洋汚染を決めた国 際基準の対象になる。ロシアは国際海洋法、関連の国際条約に準拠することが義務づけ られる。

(事故に対する保険と求償)
・ (コ)オペレーター側に対し、ボーリング事業を始める前に環境へのリスクとして保険 に入るように要求した。ところがロシア国内に作業活動で生態系に悪影響を及ぼす可能 性がある場合に保険をかけるという根拠法がない。日本ではどうか。
・ (吉田)油濁事故とその補償に対しては国際的な二つの法律がある。ひとつはCivil  Liabilityであり、いまひとつはCompensation Fundである。ロシアはCivil Liability のプロトコールを76年まで批准しているが92年を批准していない。ロシアはCom pensation Fundについても76年を批准しているが、92年を批准していない。76年の プロトコールの補償額は小さい。個々の会社が保険に入っていてもカバーできない部分 をこの国際的な条約でカバーすることになっている。もちろん厳しい査定がある。
 問題は92年を批准していないために、ロシアの事故に対して適用されないことである。 保険加入範囲しか補償されない。また、この国際法はタンカーのみに適用される。大陸 棚の開発には適用されない。大陸棚の開発は国際的になっていない。大陸棚についても 国際条約を結ぶ必要があるという議論があるが、今のところ結ばれていない。さらに、 貯蔵タンカーもタンカーと見なされず、これらの国際条約ではカバーされない。
・ (コ)ロシアでは環境保険法案が用意されている。すべての企業が生産活動で起きる最 大級の事故を想定して、環境に及ぼす影響と補償額を想定して、保険をかけなければラ イセンスを出さないようにする。義務的な環境保険を考えているが、日本ではあるのか。
・ (吉田)日本の場合は個々の企業が保険に入っているのでそのような動きはない。
・ (吉田)サハリン大陸棚開発は日本との関係でも問題になるので非公式でも良いから2 国間協議を始めるべきである。ロシアが92年国際条約を批准していないことや開発と貯 蔵タンカーについては国際条約が適用されない。保険があまり頼りにならないので、「緊 急防災計画」作成が非常に重要である。

(原油流出事故への対応)
・ (コ)LRN(原油流出除去計画)は詳細なマニュアルになっている。第一段階ではサハ リン州内にある組織、機資材を使って処理に当たる。連絡の中心になるのは「サフバス」 (海洋汚染除去サハリン管理局)、サハリン州行政府、州国家環境委員会である。
・ (皆川)ノルーウェーとロシアとは、バレンツ海についてノルウェーの石油庁、運輸省、 ロシアの運輸省との間に協定を結んでいる。協定があれば双方で協力できる。このよう な考え方がサハリン・プロジェクトではあるのか。
・ (コ)委員会の権限ではないが、論理として2国間協定は必要と考える。ロシアの場合 は運輸省が原油流出事故の直接除去作業にあたるだけではなく、民間の舟艇を集めて活 動をコーディネートすることが法的に決まっている。
・ 3月にシアトルで石油流出に関する会議があったが、このときのロシア側出席者の一人は 運輸省付属石油流出研究所のシマノフ所長であった。かつてソ連時代に海洋船舶省であ った時代から海洋救助・事故防止の機能が運輸省に引き継がれている。
・ オペレーターが毎年ボーリング事業を行うにあたって事故の大きさにより、小規模の場 合は地元で、中規模の場合は「サフバス」、最大級の事故の場合はシンガポール、英国か ら動員することが企業レベルで決められている。
・ 今年の生産開始はロシアの12カイリ以内である。アンカーによって貯蔵タンカーに係留 し、貯蔵し、積み出すが、国内法では船舶の扱いを受ける。「緊急防災計画」は「サフバ ス」が作っており、生産者の側でも対処計画として作られている。オペレーターの緊急 計画は起こりうる事故の段階に分けて作られている。第1段階は流出事故をどう予防す るか。第2段階、第3段階は流出規模の大きさで、何をなすべきかが決められている。 昨年8月サハリン州、アラスカ州および北海道との間で環境協力の必要性で合意をして いる。サハリン州の知事も環境問題はナーバスな問題と理解しており、地域間協力の可 能性は高い。
 まもなく原油生産が始まるが、北海道の皆さんが心配しているのは当然のことであり、 心配を取り除くための合意が必要なことは当然のことである。ロシア側の非常事態に対 する計画、オペレーター企業の計画の内容を精査して、協力のベースとする必要がある。
・ (皆川)国とオペレーターとの責任、誰が責任者なのか、その構想についての協力はし たいが、あくまでもロシア側の主権の問題である。「緊急防災計画」のシミレーションを 海象、原油量、原油の質等による条件によって作る必要がある。
・ (コ)プラットフォーム「モリクパック」に関して、どのような規模でどのような時に 事故が起こりうるかのシミレーションの結果がある。1995年にカナダ石油研究所が委託 を受け、サハリン島における石油流出のモデル化の報告書がある。1996年から1997年 にかけてサハリンの「極東水文・気象研究所」および「サハリン水文・気象業務管理局」 による共同のピルトン・アストフスコエ鉱区における水文学および生態学的特徴に関す る報告がある。1997年には極東地質・鉱物研究所が流出油のモデル化の報告書がある。
・ サハリン州行政府が力を入れているが、オホーツク海における人工衛星を使ったモニタ リングを導入したいと考えている。まだ検討段階にある。専門家の教育、コンピュータ 導入を考えている段階にある。原油流出だけではないが人工衛星を使ったモニタリング を、エコロジー基金を使って導入することが検討されている。生産が始まるとプラット フォームには常時環境インスペクターが常駐し、情報を発信する。ヘリコプターによる 監視も行われる。非常事態省にすべての情報が集約している。
・ 99年からロシア連邦国家環境委員会が大陸棚のオペレータに対し、新しい追加的な条件 をつけた。連邦レベルの諸省庁に提出する書類は事前に州の環境委員会に提出して予備 的な協議を行わなくてはならないという要求を行った。ひとつの理由は、類例のない大 陸棚での開発に世界的にも地元でも環境に強い関心が集まっているからである。大陸棚 での掘削に使われる補助的な船舶への立ち入り検査も厳しく行われるようになった。プ ラットフォームで作業が始まる前に立ち入り検査が行われ、国際基準に照らして環境面 で基準が守られているかを検査した。環境面から、常時24時間一定の除去能力を備えた 救助艇、パトロール艇が待機することを稼働の条件にしている。
・ 「サフバス」(サハリン水域救難・防除船団)は現在ロシア政府運輸省の傘下にある。但 し、非常事態省に移管する話がある。油回収船をもっている。吸着剤、拡散剤も装備し ている。回収機資材を使っての訓練も行われている。
・ 米国・ロシアの合弁企業「エコシェリフ」がある。定款を準備しており、設立途上にあ る。この組織にサハリン〜T、サハリン〜Uの二つのオペレーターが運用を任せるはず である。ライセンスをとる必要がある。
・ 米国側からの提案は流出の際に、拡散剤を使いましょうということである。生物的な活 性物質を使った場合、大変なコストがかかる。吸着剤についても海水の温度が低いなか でも活性物質が吸着力を発揮するのか、他のバイオマスに対しどのような影響を与える のか十分な研究がまだ行われていない。演習ではまだ一度も使われていない。
・ 輸送船団も油回収設備をもっている。サハリン州国家環境委員会は、どこに回収船があ って、何時まで使えるのかリニュウアルしながら、データベースをつくっている。例え ば、回収船「アガト」は試掘現場でのパトロールに常時あたっている。プラットホーム の曳航、設置、撤去までパトロールしている。技術的なスペック、機材、その性能は船 舶登記にあたって技術評価を受けている。回収機資材の種類と性能については、フェン スはさまざまな規格のものが搭載され、狭い範囲で原油の吸着、広い範囲をカバーする 原油ブロック用フェンス、フェンス内の油を吸着する材料が十分にあるかどうか、スキ ーマーによる油の回収能力(2種類搭載)がある。回収油用タンク、ポンプ、吸着剤のス トックもある。
・ (村上)データベースはサハリン州国家環境委員会が責任をもって作成・管理している のか。
・ (コ)アイディアはサハリン州国家環境委員会であり、構築のためのアンケートを行っ た。生産、精製、流通のすべての企業を対象とした。それぞれがどのような防除機資材 をもち、誰が所有しているのか、どこに貯蔵され、どの程度実用できるのか、常時使え る状態におかれているのか、アクセス可能性(手続き、物理的運搬方法等)はどうか。 エクソン、サハリン・エナジィーもこれを活用可能なものとして取り入れている。 データベースのかなりの部分はエクソン、サハリン・エナジーが用意しているもので ある。
・ (村上)サハリン全体のデータベースは国家環境委員会のものが唯一か。
・ (コ)そのとおりであるが、SMNGは大型油回収船「バイダコフスキー」、石油による海 洋汚染除去サハリン管理局、「ペトロサフ」も回収機資材をもっている。
・ (皆川)事故が起きたとき誰が指揮権をとるのか。今日までは非常事態省は陸上部に活 動が限られており、海岸線は運輸省の管轄である。まだ、最終的な決定ではないが、水 面を含めた事故の際のコーディネーターを非常事態省がとるという案がある。ただ、現 在でも仮に海上、陸上であろうが主権の及ぶ範囲で人災、自然災害に係わらず情報をす べて集約するのは非常事態省の権限である。実際の原油流出事故に対する指揮、命令権 があるかどうかを別にして、第一通報を非常事態省に対して行わなければならないとい うのがあらゆる災害に関して決まっている。
・ (コ)あらゆる種類の災害の非常事態に関し、連邦レベルでも連邦構成主体のレベルで も非常事態の災害であった場合、対処にあたって災害の種類別に判断基準が決まってい る。それに基づいて、サハリン州であれば副知事を長とする非常事態委員会がある。こ の委員会が州の単位であれば非常事態を宣言する権限をもっている(国のレベルでは大 統領)。副知事がコーディネーターになる。判断基準に基づいてどのような機関をどのよ うに動員するかが決められている。これらはすべて連邦法を根拠にしている。この法律 は長い名前であるが、簡単に言えば「非常事態法」である。
・ リグ船に国家環境委員会の専門家が同乗し、インスペクションを行う。大陸棚法でもイ ンスペクションのない状況では作業を行ってはならないと定めている。何をするかは抽 象的。州の国家環境委員会にはロシア連邦国家環境委員会の承認を受けたマニュアルが あり、これに基づいてインスペクターは仕事を行う。例えば、掘削の際のマッドについ て許可された条件のものを使っているか。掘削くずをどういう流速・量で海洋投棄して よいか、浄化装置を経て投棄してよいものについてはきちんと規則を守っているか、定 期的に投棄物、排水等のサンプルを国家環境委員会の実験室で分析を行う。
・ リグ船のインスペクターが事故に遭遇することはなかったが事故が起きたときに洋上に 流出した原油をどう評価するか、どのような手順で報告するかが細かく規定されている。
・ サハリン〜Uによる生産は今年7月に開始されるが、これまでは流出事故は考えられな かった。
・ 昨年、サハリン〜Tのボーリングの結果、洋上に油が流出したのは最大4リットルを越 えなかった。試掘井の段階ではすべてを燃やしている。ボーリングの最中のモニタリン グは参加国の試験機関が独立して分析し、その結果が出てくるのは今年5月になる。
・ ボーリング作業を始める前に行政府で会議を開き、準備が整っているかどうかチェック の会議が行われ、ボーリングが終了すると実施期間中の評価を行う。州内での自然環境 保護のあらゆる機関の代表とオペレーターが出席し、各機関から職務に応じて行った、 査察・監督、掘削事業につけられた条件が満たされたどうかの報告が行われる。

(環境アセスメント)
・ (村上)開発側が提出したインターネット上で公開されている環境アセスメント)をど のように位置づけたらよいのか。
・ (コ)TEOの一部である。TEOのなかにプロジェクトが環境に及ぼす影響についての別 立てTEOがある。これらは州立図書館、ホルムスク、オハ、コルサコフ等関係行政府に おかれて閲覧が認められている。対話集会も行われ、TEOに対して指摘した住民の考え 方、意見の陳述が行われた。しかし、ロシアには住民投票によって意見を集約する制度 がない。住民サイドにも問題の所在を開発側と議論する能力がかならずしもあるわけで はない。住民側から質問が出ても、オペレーター側は技術的に十分検討した結果である と回答することで、説得できる。これは環境アセスメント実施以前の段階のことである。 今から考えれば、よりよい方法としては環境評価の専門家に依頼して住民が不安に感じ ていることを住民の意見として提出すべきであった。住民閲覧は形式に流れたといえる。
・ (村上)EBRDが求めるサハリン〜U、ピリトゥン・アストフスコエ鉱床の環境に関す る評価にサハリン州国家環境委員会は関与しているのか。
・ (コ)環境に関する報告書についての評価をモスクワの「アーサー・ドウ・リトル」と いう監査法人に委託した。提出の報告書は国家環境委員会にはない。
・ (畠山)95年環境法の政令はないのか。
・ (コ)環境保護法は1991年から変わっていない。95年のものは存在しないと思う。こ の法律に基づいてアセスメントを行う際に作成を必要とする文書についての施行令があ って法規集(手続き、書式を含む)がまとまって出版されている。委員会にすべて基準 文書がある。サハリン大陸棚の全体に対して環境監査を行う際、あるいは個別の環境監 査を行う際の別々の規則がある。98年6月に環境監査法に関する基準文書をまとめた本 を出版したが、その後領海内水面、生産物分与法修正などが追加されており、改訂の必 要がある。
・ (畠山)住民の意見を聞く、パブリック・コンタクトの方法はあるのか。
・ (コ)環境監査法では対象となる物件に対し、住民の意見を聞いて提出するものに反映 させなくてはならないと書いてあるが、どのような方法で住民の意見を聞き、どのよう な反映させなくてはならないかの明確な規定を欠いている。オペレーターによる監査を 受けるために作成された書類の閲覧、独立し機関のアセスメントに対する評価を行うべ きであったと考えている。事業主体の監査は国が行う。国が適正と判断すれば、住民の 意見は問題にならない。モリクパックについては構造の耐久性について鉱山監督局と非 常事態省がアセスメントを行い、これに合格すれば、その後環境監査が実施される。
・ 環境監査法人は社会団体で、定款上市民団体として環境アセスメントを行うことがうた われ。投棄されていれば連邦構成主体行政に対して、事業主体とは別に環境アッセスメ ントをしたいと申し出て、実施できることが決まっている。その結果は環境監査を行う 国家機関に送付されなくてはならない。環境監査に関する連邦法第5条から19条まで環 境監査における「市民と社会団体の権利、社会環境監査」のところで定められている。
・ モリクパックに関する環境監査については、環境社会団体からの申し出でを受けて、サ ハリン州知事がモリクパックに関するアセスメントのプロセスでの社会的オブザーバー というポジションに環境社会団体の代表を任命した(ボランティア)。
・ 委員会は社会団体との協力を重視しているので、毎週金曜日に社会団体との会談を定期 的に行っている。いろいろな問題が提起され、回答するのにずいぶん時間がかかる。参 加者には1カ月前までに提起したい問題を文書で提出してもらい、1カ月後の最後の金曜 日に問題についての話し合いを行っている。

(以上)


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