SLAVIC STUDIES / スラヴ研究

スラヴ研究 44号

ハバロフスク地方および沿海地方における機械工業企業の動態分析

村 上  隆

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― 注  釈 ―

  1. 本稿で対象とするロシア極東地域は経済地域区分による分類であり、サハ共和国(ヤクーチア)、マガダン州、 チュコト自治管区、カムチャッカ州、コリャク自治管区、ハバロフスク地方、アムール州、ユダヤ自治州、沿海地方およびサハリン州の10連邦構成体を含んで いる。分水嶺で区分する自然地理学の分類とはサハ共和国を含めるかどうかで異なっている。
  2. ハバロフスク市の機械工業を中心とする企業のアンケート調査は、文部省科学研究費補助金・国際学術研究「ロ シアにおける地域社会の動態分析」の一環として行われたものである。アンケート・ヒヤリング調査にはロシア側からロシア科学アカデミー極東支部経済研究所 が、日本側からは山村理人教授、筆者および部分的に石川晃弘・中央大学教授が参加している。本稿で取り上げているのは生産関係のみであり、この研究プロ ジェクトは企業の管理・組織、企業内社会関係、労働問題、財政・金融など多岐にわたり、範囲もロシアおよび東欧を対象にしている。
  3. ハバロフスク地方の面積は78万8,600km2、人口は1996年初現在157万3,600人であり、こ の地域でも人口減少がみられ1995年には前年に比べて1万4,500人、0.9%減少した。民族としてはロシア人が86.4%を占める。1995年の国 内総生産に占める工業総生産高のシェアは、68.8%であり、農業のそれは2.3%にすぎない(Tikhookenanskaia zvezda, 9 fevral' 1996, p.3)。工業以外の産業としてはハバロフスクがシベリア幹線鉄道、航空路およびアムール川の河川輸送の拠点にあることか ら、運輸部門が重要である。
  4. 沿海地方の面積は16万5,900km2。1996年末現在の人口は226万1,000人で、前年に比べて 1万2,000人減少した。ロシア人の割合が86.9%と圧倒的に高い。沿海地方では伝統的に魚加工を中心とする食品工業が最重要産業であり、そのシェア は1990年の42.9%から1994年には49.5%まで高まっている。
  5. ロシアでいう軍産複合体(Voenno-promyshlennyi kompleks)は、軍と巨大軍事 産業との結びつきという意味合いよりも、軍事企業が軍需品を生産すると共に民需品をも生産する形態をさす。軍民転換(Konversiia)とは、 1992年3月20日に採択された「ロシア連邦軍民転換法」によれば、「国防およびその関連企業・合同・機関がその遊休化される生産施設、科学技術ポテン シャルおよび労働資源を軍事から民需へ部分的もしくは完全に方向転換すること」と定義されている。部分的転換でも軍民転換であることに注意したい。 1992年の軍民転換法については、「ロシアの軍民転換法」『ロシア東欧調査月報』6月号、1992年、74−80頁に全文が掲載されている。
  6. 沿海地方のアルセーニエフ市は1952年、ボリショイ・カーメニ市は1956年、ハバロフスク地方のコムソ モリスク・ナ・アムーレ市は1932年、ソヴェツカヤ・ガヴァニ市は1941年、アムールスク市は1973年、エリバン地区は1951年にそれぞれ形成さ れた。 7 Institut Dal'nego Vostoka RAN, Dal'nii Vostok Rossii: Ekonomicheskoe obozrenie, Khabarosk, 1995, p. 276.
  7. Ibid., p.276は、極東の軍産複合体を構成する企業は32企業であると述べている。
  8. Goskomstat Rossii, Primorskii kraevoi komitet gosudarstvennoi statistiki, Statisticheskii biulleten', Itogi raboty promyshlennykh predpriiatii, provodiashchikh konversiiu voennogo proizvodstva, za ianvar'-dekabr' 1994 goda, Vladivostok, 1995, p. 5.
  9. Goskomstat Rossii, Khabarovskii kraevoi komitet gosudarstvennoi statistki, Statisticheskii biulleten', No. 37, Osnov nye pokazateli, kharakterizuiushchie khodekonomicheskoi reformy v Khabarovskom krae, Khabarovsk, 1995, p.6.
  10. Rossiiskaia akademiia nauk, Instutut narodnokhoziaistvennogo prognozi-rovaniia, Perspektivy Primorskogo kra ia v usloviiakh perekhode k rynku, Moskva, 1994, p.190. 旧ソ連時代に形成された軍産複合体の大部分はロシアに継承されたが、その数は2,000を数え、この うち1,200は工場、70は研究所であった (Nezavisimaia gazeta, 27 iiunia 1996, p.4)。
  11. Nezavisimaia gazeta, 27 iiunia 1996, p,4。ロシアは独自では 軍需品を18〜20%しか生産できない。
  12. Ekonomika i zhizn', No18, 1992, p. 1.
  13. Nezavisimaia gazeta, 27 iiunia 1996, p. 4.
  14. Ibid.
  15. Institut Dal'nego Vostoka RAN, Dal'nii Vostok Rossii: Ekonomicheskoe odozrenie, Khabarovsk, 1995, p.279.
  16. Goskomstat Rossii, Primorskii kraevoi komitet gosudarstvennoi statistiki, Statisticheskii biulleten', Itogi raboty pro myshlennykh predpriiatii, provodiashchikh konversiiu voenngo    proizvodstva, za ianvar'-dekabr' 1994 goda, Vladivostok, 1995, p. 20.
  17. Goskomstat  Rossiiskoi  Federatsii,  Khabarovskii  kraevoi  komitet  gosudarstvennoi  statistiki,  Sotsial'no-ekonomicheskoe  polozhenie  Khabarovskogo  kraia  za  ianvar'-dekabr'  1994 g,  Khabarovsk,  1995,  p. 7.
  18. E.P.Amosenok, V.A.Bazhanov, L.S.Veselaia,“Otraslevye i regional'nye propor-tsii konversii," EKO, No.2, 1996, p. 30.
  19. V.Sozinov,“Mashinostroenie i metalloobrabotka v Primorskom krae: Situatsiia i perspektivy," Problemy Dal'nego Vostoka, No.2, 1996, p. 27.
  20. Primorskii instiut perepodgotovki i povysheniia kvalifikatsii kadrov dlia gosudarstvennykh sluzhb, Sotsial'no- ekonomicheskoe razvitie Primorskogo kraia, Itogi i perspektivy, Vladivostok, 1995, p. 29.
  21. Utro Rossii, 31 mai 1996.
  22. Instiut Dal'nego Vostoka RAN, Dal'nii Vostok Rossii: Ekonomicheskoe obozrenie, Khabarovsk, 1995, p. 281.
  23. Nezavisimaia gazeta, 27 iiunia 1996, p. 4.
  24. I.Lipsits,“Problemy Rossiiskoi konversii," Ekonomist, No.1, 1991, p.20.「ロシア兵器Rosvooruzhenie」社はロシアの兵器輸出を担当する独占企業。政府決定 No.479で、他の兵器製造企業にも輸出権利 が与え られた。
  25. Komersant daiy, 14 iiunia 1996.
  26. E.P.Amosenok, V.A.Bazhanov, L.S.Veselaia,“Otraslevye i regional'nye proportsii konversii, EKO, NO.2 1992, p. 32. 輸出急増の原因は、ハバロフスク地方のガガーリン記念航空機工場製の中国向けスホイ型航空機の輸出が増えたものと推定される。
  27. ロシア東欧経済研究所報告書『ロシア極東の機械工業』(1995年3月、53−55頁)。企業概要が紹介 されている。
  28. 望月喜市・永山貞則監修『ロシア極東経済総覧』東洋経済新報社、1994年、384−385頁。
  29. ロシアの鉄道部門は地域ごとに鉄道総局が設けられ、これらをモスクワが統括している。極東にはハバロフス ク市に極東鉄道総局があり、トゥインダ市にはバム鉄道総局、イルクーツク市には東シベリア鉄道総局がある(『北海道新聞』(1996.8.20)によれ ば、バム総局は輸送貨物不振のために閉鎖されることになった)。これらの総局は概して極めて保守的であり、管轄下の輸送にしか責任を負わず、インタビュー をしてもデータを入手することはほとんど不可能である。すべてモスクワが把握しており、モスクワの司令で機能しているだけである。
  30. Institut ekonomiki Dal'nego Vostoka, Dal'nii Vostok Rossii: Ekonomicheskoe obozrenie, khabarovsk, 1995, p. 69.
  31. Ibid, p.71.
  32. E.V.グドコワ「ロシア極東地域における機械工業の現状と発展」『ロシア東欧調査月報』1月号、 1994年、16頁。
  33. Ibid, p.71.
  34. 1996年4月16日付けロシア連邦政府決定第480号,p p.86‐89。極東長期発展プログラムはロ シア政府決定として承認され、4月23日にはロシア大統領令第601号によって大統領プログラムのステータスが与えられている。このプログラムの目的は、 ソ連解体後国家の支援を失った極東が再興するために、中央政府、連邦構成体が相互に協力しあって計画を実行することにあり、市場経済移行に伴って生じたマ イナス要因をできるだけ緩和させ、極東のもっている潜在力を最大限活用することを狙っている。このプログラムは極東のみならず、チタ州、ブリャート共和国 のいわゆるザバイカル地域をも対象としており、これら地域の経済構造の改革、雇用および人口の定着、アジア・太平洋諸国への参入を主要課題にしている。極 東長期発展プログラムは、エリツィン大統領が1996年4月末、北京への公式訪問の途中にハバロフスクに立ち寄ってプログラムにサインしたことからも窺え るように、大統領選を前にして強い政治的な色彩を帯びている。数百頁にもおよぶプログラムは、およそ実現不可能な極東地方行政府から要望されたあらゆる要 素が組み入れられた感すらする内容であり、これだけをみても政治的な意図がみられる。
  35. 1996年6月に二つのプロジェクト、すなわち「サハリン〜1」(日本の政府系企業SODECO、米国エ クソン、ロシアの「ロスネフチ」および「サハリンモールネフチェガス」の出資、総投資額150億ドル)および「サハリン〜2」(三井物産、三菱商事、米国 マラソン、米国マグダーモット、オランダ・シェルの出資、総投資額100億ドル)が開発を進めることで契約を発効させた。契約条項に世界的な水準にあるこ とを条件に、ロシアの国産品を最大限利用することがうたわれている(いわゆるローカル・コンテンツ)。

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