スラブ研究センターニュース 季刊 2004 年夏号 No.98

人事の動き

2004年度の客員教授

本年度は次の6名の方々に客員教授をお願いすることになりました。[編集部]

斎藤元秀 (杏林大学大学院国際協力研究科)

研究テーマ: プーチンの北東アジア外交の解明およびソ連・ロシアの対日政策研究の新アプローチ
長與進 (早稲田大学政治経済学部)

研究テーマ: 「スロヴァキア」という空間と空間意識:その起源・形成・変容
諫早勇一 (同志社大学言語文化教育研究センター)

研究テーマ: 1920年代前半のベルリンのロシア亡命文化
佐々木史郎 (国立民族学博物館研究戦略センター)

研究テーマ: ポスト社会主義時代におけるスラブ・ユーラシア地域の民族動態
高橋清治* (東京外国語大学外国語学部)

研究テーマ: カフカスとロシヤ帝国
帯谷知可 (国立民族学博物館地域研究企画交流センター)

研究テーマ: 中央アジア地域研究関連稀少資料のデジタル保存と有効利用の諸方策

*高橋氏の「清」の字は、「月」の部分が「円」であるのが正式なものです。


学界短信

ロシア・東欧学会およびサテライト・プログラムのお知らせ

 本年10月9–10日に、北海道大学でロシア・東欧学会が開催されます。初日の午後に第1共通論題「新時代のロシア・東欧」(報告予定者は永綱憲悟、上垣彰、仙石学)、2日目の午後が第2共通論題「ロシア・東欧と米国のユニラテラリズム」(報告予定者は小澤治子、林忠行)が予定されています。また、初日午前と2日目午前に自由論題報告が16本ほど予定されています。また、10月8日午後にサテライト・プログラムとして、スラブ研究センターとロシア・東欧学会の共催による研究会が開催されます。第1プログラムは稲葉千晴氏の提案による「日露戦争と民族」(英語使用)、第2プログラムは松里公孝氏提案の「ヴォルガ地方広域イスラム政治:宗務局の乱立と宗教指導者」(ロシア語使用)で、いずれも外国人ゲストの報告で構成されています。プログラムの詳細はロシア・東欧学会のホームページ http://wwwsoc.nii.ac.jp/roto/ をご覧ください。お問い合わせはセンターの林まで。

[林]


ロシア史研究会2004年度大会のお知らせ

 今年度のロシア史研究会大会は2004年10月23–24日に北海道大学で開催されます。大会プログラムは、共通論題、自由論題、外国語によるパネルから構成され、ほかにロシア史研究会総会、懇親会が予定されています。今年度大会では、開会前日の10月22日にスラブ研究センター主催の前夜企画として、21世紀COEプログラム「スラブ・ユーラシア学の構築:中域圏と地球化」の一環をなす「ロシアの中のアジア/アジアの中のロシア」研究会をおこなうことにします。外国語によるパネルは、この前夜企画を含めて3つの時間帯を取り(Panel 1–3)、合わせてリレーパネル "Towards a Discipline of Imperiology: New Trends in the Study of the Russian Empire" を構成する企画とします。これらの点が例年の大会と異なる新機軸です。共通論題は、【1】「ロシア帝国におけるイスラーム地域統合政策の諸相:教育および司法を中心に」と、【2】「歴史学と地域研究(エリア・スタディーズ)」の2つとすることが決まっています。大会会場は文系共同講義棟の教室を使い、懇親会(10月23日)はホテル・アスペン(JR札幌駅北口前)でおこなわれる予定です。詳細は近くロシア史研究会のホームページ http://wwwsoc.nii.ac.jp/jssrh/ に掲載されます。
[栗生沢猛夫・原暉之・松里公孝]




学会カレンダー

2004年

7月14–16日
スラブ研究センター夏期国際シンポジウム(記事参照
7月17–19日
スラブ研究センター2004年北東アジア次世代ワークショップ(記事参照
9月23–25日
欧州比較経済体制学会(EACES)第8回隔年大会
テーマは「EU拡大:2004年以降に何が来るか?」於ベオグラード
10月2–3日
日本ロシア文学会研究発表会・総会 於稚内北星学園大学
10月9–10日
ロシア・東欧学会2004年度大会 於北海道大学(記事参照
10月23–24日
ロシア史研究会2004年度大会 於北海道大学(記事参照
11月27日
比較経済体制学会秋期研究報告会 於中央大学
12月4–7日
米国スラブ研究促進学会(AAASS)年次大会 於ボストン
12月8–11日
スラブ研究センター冬期国際シンポジウム
2005年

7月7–9日
スラブ研究センター夏期国際シンポジウム
7月25–30日
ICCEES(国際中・東欧研究協議会)第7回世界会議 於ベルリン
詳しい情報は http://www.rusin.fi/iccees/ 記事参照



図書室だより

«Туркестанские ведомости»(『トルキスタン報知』)の購入

 このたびスラブ研究センター図書室は帝政ロシアの新聞 «Туркестанские ведомости»(以下『トルキスタン報知』と表記)のマイクロフィルム版を購入した。『トルキスタン報知』は1870年4月28日の第1号にはじまり、1917年12月27日までタシケントで刊行されたトルキスタン総督府の官報である。刊行頻度は1870年から1903年までは日曜と木曜の週2回、1904年には日曜、水曜、金曜の週3回、1905年から1907年にかけては日曜、火曜、水曜、金曜の週4回、1908年以降は祝日の翌日を除く毎日刊行された。1917年の二月革命による帝政崩壊を契機に、同年3月19日号より同新聞の発行主体は臨時政府トルキスタン執行委員会に移された。今回収集されたマイクロフィルム収録範囲は、1894年2月6日号(通巻第1247号)から1911年12月31日号(通巻第4173号)までである。なお、1915年1月1日号(通巻5026号)から1917年12月27日号までについては、2002年に収集された「19世紀末–20世紀初頭の中央アジア新聞集成」に収録され、同じくマイクロフィルムで読むことができる(本誌89号(2002.5)参照)。

 センター図書室は、トルキスタン総督府に隣接するステップ総督府が発行した『ステップ地方新聞』(«Dala walayatïnïng gazetí».1888–1902. Омск)のマイクロフィルムを併せて所蔵している。『ステップ地方新聞』が同一紙面上にアラビア文字カザフ語版とロシア語版とを併記するに対し、『トルキスタン報知』の紙面は全てロシア語であり、同官報はもっぱら総督府管内のロシア人を主な購読層として想定していたと判断できる。しかしこれと並行するかたちで発行された 『トルキスタン地方新聞』(«Turkistan wilayatning gazeti».1870–1917. Tashkent)はアラビア文字ウズベク語(初期はカザフ語でも書かれた)を使用しており、同じくセンター図書室で閲覧可能(マイクロフィルム)である。これら各紙のより詳細な比較検討は今後の課題と考える。

 『トルキスタン報知』の紙面は大きく「公式欄 официальный отдел」と「非公式欄 неофициальный отдел」に分かれる。公式欄は総督府内部における命令や通達、役職人事、中央官庁の命令などを記載する。非公式欄ではその当時総督府内で持ち上がっていた政治、社会に関する様々な議論が紹介され、同時代のトルキスタン総督府官界の様相を垣間見ることができる。それは例えば鉄道の敷設、綿花産業、現地民の教育問題、植民問題など多岐にわたるものである。また植民地現地民の慣習や習俗などの民族誌、自然環境などが紹介される。タシケントを中心とする定住民地域に関するものが多いが、天山山脈をはじめとする山間部の遊牧民地域についても少なからぬ情報を提供してくれる。我々はまさにロシア人が征服地域に関して様々な情報を収集し、支配地域として構築していこうとする過程に立ち会うのである。トピックは総督府管内にばかり限定されるものではない。非公式欄では、続けてロシア帝国内の各種情報が報告され、さらに「外国情報」として世界各地の情報が外国の新聞を抜粋する形で紹介されている。特に英露間のグレート・ゲームを反映してかイラン、アフガニスタン、インド、中国の情勢はその中でも大きな比重を占める。まさに「帝国の時代」のなかのトルキスタンが読者の前に姿を現すにちがいない。

[スラブ社会文化論専修博士後期課程1年 秋山徹]






ハプスブルク帝国統計年鑑の購入

 スラブ研究センター図書室では、資料の収集の中心はロシアにありつつも、それと同時に少なからぬ注意を東ヨーロッパに払ってきたことをその蔵書構成は教えてくれる。特に統計年鑑や官報、辞典、参考図書などには高い順位が与えられ、優先的に収集されてきたわけである。ところが、ハプスブルク帝国については、統計年鑑も議会議事録も所蔵しない。これは、ハプスブルク帝国が、その解体以前は欧州の大国であったため、センターあるいは北大では所蔵せずとも、国内的には東大や一橋大などいくつかの図書館がすでに所蔵するということによると思われる。センターが乏しい懐から多額の購入費をそうしたものに振り向けるよりは、センターとして別に収集すべきものがある、という考え方である。

 しかし国内にあるとは言っても、札幌の住人にとってはそう手軽に利用できるものではなく、東欧を専門に勉強しようという大学院生たちがぼちぼち札幌に集まりつつあるこのごろ、時機を見て収集しておくことが適当と考えてきた。

 というわけで、ようやくハプスブルク帝国の統計年鑑のマイクロフィッシュ版を購入することとなったので、ここでお知らせしておきたい。

 今回入手したものの範囲は、Tafeln zur Statistik der Österreichischen Monarchie.(1842年版–1855/56/57年版)、Statistische Jahrbuch der Österreichisch–Ungarischen Monarchie. (1863年版–1881年版)、および Österreichisches statistisches Handbuch. (Jahrg. 1–43,1882年版–1916/1917年版)である。

 なお、この資料の購入に際しては、科学研究費補助金「東欧・中央ユーラシアの近代とネイション」(研究代表:林忠行)が使用された。

[兎内]


→続きを読む
スラブ研究センターニュース No.98 index