隣人に関する心温まる感情


シン・グァンチェン (中国社会科学院東欧中亜研究所/センター外国人研究員として滞在中)


 私がセンターにやって来たのは夏でした。私はロシアと中央アジアの問題を研究していますが、興味深く思えるのは、私が日本に滞在しながらロシアと中央アジアの問題の研究をしているという事実です。正確に言うならば、中国の東方の隣人の国で中国の北方及び西方の隣人達の研究に取り組んでいるということです。
これは偶然なのでしょうか?
私にはそうは思えません。中国、日本そしてロシア−独特な三角形を描いて隣接する三つの強国。私達は共にアジアにおいて隣り合って住み、私達には共通の利害と話し合い解決せねばならない共通の問題があります。過去の教訓は私達には戦争は必要のないことを証明しています。未来において私達はお互いに全面的な協力関係を発展させることが不可欠となっています。隣人同志はより身近にお互いを知ることが大切だと思いますし、研究者達は私達の協力関係に影響を与えることができるでしょう。
私はセンターですでに数ヶ月間仕事をしていますが、“隣人”という概念についてしばしば考えることがあります。多分私はこの概念についてより理解を深めたのではないかと感じています。
 隣人とは一体何でしょうか?
 隣人とはまず第一に、傍らに住む人のことです。隣人を選択するということはまずできません。それは全くの偶然の運命ですが、隣人は遠くに住む身内よりもより重要であることがしばしばおこりうるものだと敢えて私は言いたいのです。このことは、国家に対しても適応できます。国家間レベルにおいての友好的な関係は政治的、経済的、文化的な関係も含んでいます。“隣人”という概念は“友情”という概念と緊密に結びついています。そして、このファクターは二者の間、或いはより国家間の隣人としての間柄において関係性の発展を活性化させるものだといえるでしょう。隣人という感覚はそれ自体肯定的なものであり、もしすべての国家がまさにこのような感情に基づいて国家の相互関係を築き始めるならば人類は一つの大きな家族となるでしょう。
 センターに赴任するまで、私は日本をよく知っていると自負していました。中国では日本に関する情報が溢れています。私は大学の歴史学部を修了したので、日本の歴史や中国と日本の深い伝統的文化的な結びつきをよく知っています。しかし、来日後、日本に関する知識に対する確信が揺らぎました。私の中で、日本−それは海に似て、私はその表面をただ見ていたにすぎなかったのではないか、という気持ちがわき上がりました。或る観点から見ると日本は世界的な共同体への統合のプロセスをよりはやく、より上手くなし遂げた国ですが、また別の観点から

夫人とともに宗谷岬にて

見ると国民的な文化や伝統の独自性を維持しているという点において私は驚きを隠せません。私は日本で、中国では残念ながら失われてしまった東方的伝統の多くを見出しました。日本はなんという謎に満ちたユニークな国なのでしょうか!
 1993年の春、私はヴラジオストークの海辺に立ち、長い間、彼方へと目を凝らしていたことがあります。その時、私は多分日本を見ていました。そして私は自らにこう尋ねたものです。「いつ、私はこの奇跡の国を訪れることが出来るのだろうか?」と。そして今、私はその地にいるのです。9月9日、日曜日に私は妻と共に日本最北端の地、宗谷岬を訪れました。中国人の友人達が私達を車で案内してくれたのです。友人達はまさにこの岬の向こうには、ロシアの島があるはずだと教えてくれました。私は再び海辺に立ち遠くに目を凝らしました。この時、私はぼんやりとしたロシアの領土の輪郭を見たように感じました。それから日本最北端の街である稚内を見学しました。ここで私はロシア語で書かれたたくさんの看板、通りではロシア人の観光客達に遭遇しました。
 かつて私は数回日本を訪れたことがあります。1994年の秋、私は東京で日本平和研究所が主催した国際会議に参加する機会に初めて恵まれました。この会議で、センターの村上隆先生にお目にかかることができました。そして1998、99年と二回、私は東京で国際会議に参加しました。日本、ロシア、中央アジア、中国、アメリカから研究者達が集い東アジアと中央アジアの関係について討論を重ねました。これら国際会議はいずれも外務省の外郭団体である日本国際問題研究所によって主催されたものです。ここで、私はロシアと中央アジアの諸問題に日本の研究者達が何よりも関心を持っているのだという結論に達しました。とりわけ日本の研究者達は、中央アジア地域が国際舞台においてどのような役割をはたしているのか、中央アジア地域が東アジアにどのような影響を与えているのかということにたいへん関心を抱いていました。
 センターは日本でスラブ学諸問題に取り組んでいる唯一の専門的な学術研究機関であり、中国でも有名です。私達の研究所(中国社会科学院東欧中亜研究所)はセンターと学術交流協定を結んでおり、私達の研究所から数人の研究者達がセンターで研究活動をするためにすでに訪れています。例えば、Lu Nanquan教授、Xing Shugang教授、Li Jingjie教授らです。彼らはセンターに関する多くの新しい情報を私にもたらしてくれました。また、センターからも数人の研究者が私達の研究所を訪れています。今年の春、私は宇山智彦先生とアルマトゥイにおいて開催された国際会議に出席した際に面識を得ました。氏の学術報告は私に深い印象を与えるものでした。スラブ研究センターはロシア、東欧、中央アジア学の実際的な中心であり、様々な国々から多数の著名なスラブ研究におけるスペシャリスト達が学術報告をしに訪れています。また、センターには同様に、精力的にセンターでの研究に参加するためにランクの高い日本のスペシャリスト達も集うのです。そのような一例が最近センターに赴任したばかりの岩下明裕先生です。彼について私はよく知っています。彼は長い間中露関係の問題について研究し、このテーマで多くの学術著作物を出版されています。
 10ヵ月間センターで仕事ができる私は何と運が良いのでしょう。この経験は私にとって大変有益なものです。センターで私は中央アジア地域における中露関係をテーマに研究をしています。中国とロシア−それは隣り合う強国、戦略的なパートナーであり国連メンバーです。中国とロシアの現在の関係は良い方向に発展しており、この関係の発展は世界の安定と安全保障を促すものです。もちろん中国とロシアの関係が重大なテーマであることは言うまでもありません。センターに滞在している間、私は中央アジアにおける中国とロシアの利益、意義や影響について、中央アジア諸国と中国の関係について研究するつもりです。
 私は北海道で、札幌で、北大で、そしてもちろんセンターで出会った多くのものが好きです。北大のたたずまいは実に美しいと思います。センターを通じて私は日本をより深く沢山知り、日本の脈動を感じることができました。何よりも日本の同僚達の援助に感謝しており、私は心から彼らを尊敬し、愛しています。またセンターの外国人研究員の皆さんにも同様に心から感謝の意を表したく思います。北大図書館にも大変お世話になっています。毎日私はセンターで研究に励むかたわら、図書館で心地よい多くの時を過ごしています。札幌で研究活動に務める間、私が実り豊かな学術的成果をおさめられるだろうことは疑う余地もありません。
 隣人に関する心温まる感情は、永遠に私の胸に生き続けるでしょう!

(ロシア語より二瓶久美訳)


スラブ研究センターニュース No87 目次