学界短信

◆ 北海道中央アジア研究会の発足 ◆

札幌はスラブ研究のメッカであると同時に、中央アジア研究の小メッカにもなりつつある。それは、北大文学部東洋史がこれまで何人もの中央アジア史研究者を 輩出し、現在もこの分野の学生を育てていることと、スラブ研究センターが近年中央アジア研究に力を入れていることによる。
このような流れを受けて今年4月、有志5人により「北海道中央アジア研究会」が、センターを拠点として発足した。第1回の例会は5月27日に開かれ、長峯 博之氏(北大文学研究科博士課程)の報告「カザクの王統について:「カザク・ハン国」という概念の再考」を聞いたあと、活発な討論がおこなわれた。
次回の例会は、7月22日(土)午後1時から、センター427号室にて、地田徹朗氏(東大総合文化研究科修士課程)の報告「アルマアタ事件再考:事件の性 質と民族間関係への影響」(仮題)と、野田仁氏(東大人文社会系研究科修士課程)の報告(タイトル未定)を予定している。このように、遠方の方が札幌に来 られる際に参加していただくことも歓迎している。
これまでのところ偶然、カザフスタン関係の報告が並ぶ形になっているが、対象国や分野は限定せず、また歴史と現在の両方を見据えながら、学際的な活動を展 開していきたいと思っている。
さらに、このほど当研究会のホームページ(http://src-h.slav.hokudai.ac.jp/casia/index.html) を開設した。まだ情報の乏しいページだが、こちらも充実させていきたいと考えている。
入会希望やお問い合わせは、連絡係の坂井弘紀(sakai@slav.hokudai.ac.jp) か、運営責任者の宇山智彦(uyama@slav.hokudai.ac.jp) まで。[宇山]

◆ 日本国際政治学会 ◆

日本国際政治学会の2000年度大会が名古屋国際会議場において5月19〜21日に開催された。スラブ研究に関連する報告としては、「西アジア地域の国際 政治:地域間交錯」という部会で、清水学氏(宇都宮大)が「カスピ海のエネルギー資源をめぐる地政戦略:米・ロシアの角逐とイスラームのシンボル連鎖」、 宇山智彦氏(センター)が「中央アジアの地域構造の変動とイスラーム・ファクター:『新中東』説の破綻と新たなアプローチの探求」、宮田律氏(静岡県立 大)が「カスピ海・中東地域の戦略ゲーム」というタイトルの報告をおこない、また「NATOの東方拡大とヨーロッパの変動」と題する部会では、羽場久シ尾子(法政大)が「NATOの東方拡大と中欧」、小澤治子氏(新潟国際 情報大)が「NATOの東方拡大とロシア:ロシアにおける国家安全保障観との関連で」、田中俊郎氏(慶應大)が「NATOの東方拡大とEU」というタイト ルで報告をおこなった。
それ以外の部会報告としては、定形衛氏(名古屋大)の「ユーゴ紛争とNATOの介入:1999年コソヴォ危機を中心に」、高橋和氏(山形大)の「東欧から 見たEUの地域主義:中・東欧の視点から」、分科会報告としては安井裕司氏(エジンバラ大院)の「ルーマニア・ファシズム運動の成立に見る『中心・周辺』 構造:『中心・周辺』の二重性の中のナショナリズム」、宮川真一氏(創価大院)の「現代ロシアにおける極右現象:意識・社会次元を中心に」、大塚昌克氏 (早大院)の「ポスト共産主義の東欧における憲法制定:合理的選択モデルにもとづく一考察」、橋本信子氏(同志社大院)の「チェコスロヴァキアの民主化と 公職適否審査法(ルストラツェ法)」、松川克彦氏の「東西対立とポーランドの位置」、稲葉千晴氏(名城大)の「北極星作戦と日本:第二次大戦中の北欧にお ける対ソ活動史料のゆくえ」など、いつになく多彩な報告がおこなわれた。いくつかの関連する報告が同時間帯に発表されたためこれらの報告のすべてを聞いて まわることはできなかった。学会の大規模化にともなう、避けがたい現象ではあるが、その点は残念だった。[林]

◆ 比較経済体制学会第40回全国大会 ◆

今年度の大会が6月1〜3日に名古屋学院大学(名古屋市内の栄サテライト)で予定通り開催された。共通論題は通常は1つであるが、今年度は「市場移行経済 と外資導入」と「市場移行経済とセーフティ・ネット」の2つが選ばれた。前者の共通論題に関しては、ハンガリー在住の盛田常夫会員の基調報告に続いて、会 員外の3氏による報告がなされた。後者の共通論題に関しては、ゲストの西村周三氏(京大)による内容豊富な基調報告の後に、7名の会員によって報告・パネ ルディスカッションがなされた。いずれの共通論題も大変重要で、時宜を得たテーマなので、得るところが多かったように思われた。自由論題報告は、今年は計 6つの報告が3つの分科会に分かれておこなわれ、数量経済研究会でも大学院生2名の意欲的な報告を含む3つの報告がなされ、今年の大会はなかなかの盛況で あったように感じられた。
今年は16名もの新入会員があり、近年では例がないほどの会員の入れ替わりが見られた。また、会員総会では、来年度から、学会会報をレフェリー制の学会誌 に模様替えするという基本方針が承認された。当面は、学会会員による投稿しか認められないが、投稿規定などの詳細は、今年末までには学会のホームページ(http://src-h.slav.hokudai.ac.jp/comparative/index.html) に発表される予定である。
来年度の開催校については、今年10月までに決定・発表される予定である。[田畑]

◆ 日本比較政治学会 ◆

日本比較政治学会2000年度研究大会が6月24、25日に京都大学文学部を会場に開催された。スラブ研究に関連する報告としては、仙石学氏(西南学院 大)が「『東欧』『小国』研究と比較政治」という題で、また月村太郎氏(神戸大)が「ボスニアの内戦前と内戦後」という題で報告をおこなった。[林]

◆ 学会カレンダー ◆

7月22日 北海道中央アジア研究会第2回例会(記事参照)
7月29日〜8月3日 ICCEES(中・東欧研究世界学会)第6回大会 於タンペレ(フィンランド)
10月28日〜29日 ロシア史研究会大会 於法政大学
11月9〜12日 AAASS(米国スラブ研究促進学会)第32回全国大会 於コロラド州デンバー市アダムズ・マーク・ホテル

センターのホームページ(裏表紙参照)の学会カレンダーにはこの他にも多くの海外情報が掲載されています。[大須賀]

図書室だより

◆ 新規受入資料の紹介 ◆

センター図書室は、前号でお知らせしたキエフ神学大学紀要に続き、カザン神学大学の紀要であった『正教の対話者 Православный собесщдник』 1855-1917. のマイクロフィッシュ版を購入することとなった。さきごろ現品が到着し、現在受入手続き中なので、近日中に利用いただけるようになるであろう。
カザン神学大学の創立は1842年とされる。他の3つの神学大学に比べて遅れた出発であるが、その前身である主教区初等学校Архиерейская элементальная школаが設立されたのは1723年にさかのぼる。こ の学校はキエフ神学校を範として1732年に神学校に改組され、1797年にはペテルブルク神学校とともに神学大学に改組されたのだが、資金難などから 1818年に閉鎖され、この年にようやく再興されたのだった。
カザン神学大学は、研究レベルの高さと、イスラム教徒その他の異教徒への布教活動への関与によって特徴づけられる。その雑誌は、主にボルガ流域やシベリア での正教会と異教徒との関係、異民族や分離派のあり方を知るための手がかりとして、活用が期待されよう。
なお、今回のセットには、付録として刊行された『異民族評論『Инородческое обозренике』.т 1-2 (1912-1917)があわせて収録されている。
また、この資料は一橋大学附属図書館にも収蔵されており、センターはおそらく国内2番目の所蔵館である。[兎内]

編集室だより

◆ スラヴ研究 ◆

和文レフェリーズジャーナル『スラヴ研究』第48号(2001年3月発行予定)の投稿申し込みおよび原稿を受け付け中です。申し込みフォームは、セン ター・インターネット・サイトから入手するか、センター大須賀みか宛ご請求ください。投稿規定・執筆要領・引用注の様式も同様の方法で入手してください。 原稿締め切りは2000年8月末で、レフェリー審査によって採否が決められます。多数の投稿をお待ちしています。[宇山]

◆ ACTA SLAVICA IAPONICA ◆

今秋発行予定の第18号は、ただいまレフェリー審査をおこなっているところです。
引き続き2001年秋発行予定の第19号への投稿も受け付けています。執筆申し込み提出期限は2001年1月末日、原稿提出期限は3月末日です。執筆要 領、投稿規定等はホームページでご覧になれますが、編集部までご一報下さればコピーをお送りします。[大須賀]

◆ スラブ・東欧研究者名簿第6版 ◆

まもなく関係の方にはアンケートの返信はがきをお送りしますので、ご協力よろしくお願い申し上げます。発行は今年度内のなるべく早い時期をめざしておりま す。名簿に掲載されたかたには一冊贈呈します。[大須賀]

みせらねあ

木 戸 蓊 氏 逝 去

1992年度センター冬期研究報告会に報告者として参加する木戸氏

日本におけるユーゴスラヴィア現代史、バルカン国際関係研究のパイオニアであった木戸蓊先生(神戸学院大学教授・神戸大学名誉教授)が2000年6月10 日に逝去されました。享年は68歳でした。
木戸先生は京都大学法学部を1955に卒業された後、名古屋大学大学院で国際政治史を学ばれ、同大学法学部助手、日本国際問題研究所研究員、ユーゴスラ ヴィア国際政治経済研究所客員研究員を経て、1968年に神戸大学法学部助教授、1970年に同教授になられました。その間に1988-90年に神戸大学 法学部長、1992-94年には国際政治学会理事長を務められ、1996年に神戸大学を定年退官された後は、神戸学院大学法学部教授として教育研究を継続 されていました。
先生は日頃からスラブ研究者の人材発掘と後継者養成には強い関心をもたれ、同僚の皆川先生は、1980年の西ドイツでのソ連東欧国際学会で先生が日本の若 い研究者達に激励のポストカードを書かれていたお姿に強い感銘を受けたことを私に聞かせてくれました。
スラブ研究センターでの先生の足跡は、記録として残されているものによれば、1971年4月に江口朴郎先生の後任として当時のスラブ研究施設の学外兼任研 究員に就任されたのが最初で、同年11月のスラブ研究施設研究報告会では、「東欧諸国視察旅行報告」という題で報告をされています。この時期にスラブ研究 施設は文部省特定研究に参加しましたが、木戸先生はそこでも中心メンバーとして活躍されました。その後、スラブ研究施設は1978年に学内共同利用教育研 究施設となり、あわせてスラブ研究センターと改称され、1990年には全国共同利用施設として改組されました。その間、木戸先生は学外兼任研究員や客員教 授という立場から、一連の改組を支援してくださいました。とくに、先生の京都大学法学部時代からの広い人脈はセンターの発展に欠かせないものでした(詳し くは外川継男「スラ研の思い出(第6回)」『スラブ研究センターニュース』No.80, 2000年1月)。
全国共同利用施設への改組以後、1997年3月までの期間、木戸先生には運営委員としてセンターの運営に参加していただきました。また1995-98年度 に実施された科学研究費重点領域研究「スラブ・ユーラシアの変動−自存と共存の条件」(皆川修吾代表)では総括班のメンバーとして研究の進行を支えていた だきました。
この時期に、阪神・淡路大震災で被災され、また重いご病気で入院されるということもありましたが、ご健康を快復された後には、またセンターの強力な応援団 として、センター発展のためにご尽力いただけるものと期待しておりましたので、先生のご逝去はセンターにとっても大変残念な出来事でした。
これまでの先生の多大なご貢献に感謝申し上げるとともに、心よりご冥福をお祈り申し上げます。[センター長]

◆ サープリン在札幌ロシア総領事の特別講演会を開催 ◆

特別講演会のもよう

2000年5月31日(水)、当センターは在札幌ロシア連邦総領事のV.I.サープリン氏を招いて「プーチン新大統領下のロシアと日露関係」と題する特別 講演会を北大内の学術交流会館で開催いたしました。2000年という年は日露関係にとって極めて重要な年であります。ご承知のように、1997年のクラス ノヤルスクにおける橋本首相とエリツィン大統領との首脳会談で「東京宣言に基づき、2000年までに平和条約を締結するよう全力を尽くす」ことで合意して いるからです。加えて、プーチン新大統領の対日政策も全く不透明でもあります。
サープリン総領事はモスクワ大学を卒業後、在日ソ連邦大使館や大阪総領事館に勤務され、1970年代半ばから一貫して外交官として日本を担当してきまし た。知日家としても良く知られています。講演会には市民を含めて約70名が参加しました。ロシアの外交官としての公式見解に終始しましたが、とくに日本側 の主張する4島一括返還という従来の方針では解決が難しく、新たな発想が必要なことや沖縄返還でも日米関係が敵対関係から同盟関係になって25年経って実 現したという話しがありました。[村上]

◆ 人物往来 ◆

ニュース81号以降のセンター訪問者(道内を除く)は以下の通りです(敬称略)。[村上/大須賀]

4月 6日

佐藤英夫(国連大学学長上級顧問)

4月 14日

バーチェフ(H.Bacev)(ブルガリア科学アカデミー経済研)

5月 15日

ハザーノフ(Anatoly M.Khazanov)(ウィスコンシン-マディソン大/米国)

5月 16日

フリス(Andrzej Flis)(ヤゲロ大/ポーランド)

6月 5日

クライシィッヒ(Volkmar Kreissig)(経済・社会研究研/ドイツ)

6月 16日

カウコ・ライティネン(在日フィンランド大使館報道参事官)、内海拓人(在札幌フィンランド共和国名誉領事館事務局長)、縄野祐子 (同、書記)

◆ 研究員消息 ◆

松里公孝研究員は2000年6月6日〜7月7日の間「『脱共産主義諸国におけるリージョン・サブリージョン政治』に関する現地調査及びロシア科学アカデ ミーウラル支部でのセミナー講演」のためロシア他に出張。

6月9日、公開講座打ち上げパーティーは雨天のため残念ながら高齢のバーぺキューはできず、室内で行われました。でも事務室のOさん他手作りのおで んがほんのり香り、ミジメな雰囲気はありませんでしたよ。

なにはさておき腹ごしらえから

ウリヤノフスク特産のコニャック、まずは提供者からどうぞ

センター長に”前”がつくと、こんなに晴れやかな笑顔に