スラブ研究センターニュース 季刊 2009 年春号 No.117 index

研究の最前線


2008年度冬期国際シンポジウム 「南オセチア紛争と環黒海地域の跨境政治」開催される

3月5-6日、創成科学共同研究機構総合研究棟において国際シンポジウム「南オセチア紛争と環黒海地域の跨境政治」が開催されました。これは、スラブ研究 センターが、北海道大学総長室重点配分経費を受けて半年間にわたって準備してきたものです。企画の途上、一方では南オセチア戦争が起こり、問題のアクチュ アリティが一層高まったこと、他方では新学術領域研究「比較地域大国論」の給付を受けたため財政基盤が強まったことから、当初構想したものよりも大規模な 催しとなり、7ヵ国から19人の報告者が招聘されました。その内訳は、日本とトルコが5名ずつ、ロシアから3名、イギリスとウクライナから2名ずつ、グル ジアとアメリカから1名ずつです。この人数からも察せられる通り、この国際シンポは、スラブ研究者とト ルコ研究者の共同企画であり、従来の地域研究の分業体制を壊して環黒海研究という新しい研究コミュニティを作るという趣旨にかなったものとなりました。

ランチョンのようす
ランチョンのようす

狭義の研究者以外に、1990年代から2000年代にかけてOSCEのモルドヴァ・ミッション長だったウィリアム・ヒル氏を講師として2日目にランチョン をおこない、また同氏には討論者としても活躍していただきました。

今回の国際シンポジウムは、北海道大学のトレードマークのひとつである創成科学共同研究機構活性化の一環としてなされたものでもありました。建物が文系諸 学部から離れたところにあるため、それだけ聴衆の数は減りましたが、その反面、ワークショップに近いような雰囲気となり、インテンシヴな議論が可能になり ました。

6つのパネルは、それぞれ「環黒海広域史研究の伝統から学ぶ」、「EU拡大と環黒海」、「広域宗教過程」、「トルコ・ファクター」、「解凍された紛争」、 「南オセチア戦争」に焦点を当てたものでした。特筆すべきは、オセチアとグルジアとロシアという戦争当事者を代表する(ただし代弁ではない)研究者が参加 し、学問上の偏向を避けるだけではなく、平和構築という点でも有益な催しとなったことです。

私事になりますが、私が参加した同種の学会の中では、たとえば昨年11月にテヘランで開催されたコンフェレンスにはオセチアやアブハジアの研究者は招かれ さえもせず、この4月6日に私がワシントンDCで参加したヘルドレフ出版社主催の研究会では、「あなた(松里)以外は誰もオセチアについて語りませんでし たね」と聴衆から言われました。「分け隔てなく当事者に語ってもらう」というスラブ研では当たり前のことが、世界的には例外であるような状況なのです。

ペーパーをできるだけ多く欧米査読誌で掲載してもらうため、ワシントンDCの『デモクラチザーツィヤ』誌のお目付け役として、ヘンリー・ヘイル・ジョー ジ・ワシントン大学教授をシンポジウムに招きました(ついでに報告もしてもらいましたが)。その後、出版元のヘルドレフ出版社ともワシントンで話したので すが、オセチア紛争と非承認国家関連の論文は、査読さえ通れば特集号としてまとめて出してもらえそうです。こうした試みは、せっかくの素晴らしいペーパー を、より読まれる形、よりプレステージの高い形で公刊するためになされるものです。なお、ジョージ・ワシントン大学は、スラブ研が推進するITPの提携校 でもあり、デイヴィス・センターやオックスフォードのアントニー校に匹敵するパートナーになりつつあります。

シンポジウムの終了後、オセチア・非承認国家関連の研究者は大阪大学へ、トルコからの研究者は一橋大学へ、ウクライナからの研究者は早稲田大学に行き、付 属セミナーで報告しました。資金援助してくれた北海道大学、素晴らしい会場を提供してくれた創成科学共同研究機構に感謝いたします。

[松里]

→続きを読む
スラブ研究センターニュース No.117 index