スラブ研究センターニュース 季刊 2008 年冬号 No.112 index
21 世紀COE プログラム「スラブ・ユーラシア学の構築」の研究成果はこれまでのセンター ニュースでもしばしば取り上げられましたが、英語とロシア語が中心でした。しかし日本語 で『講座』ものとして取りまとめることも、プログラム開始当初から目標として掲げられて いました。それを体現したのが『講座スラブ・ユーラシア学』( 全三巻) の刊行で、スラブ・ユー ラシア研究の方法論を切り開くことを狙いとしています。すなわち、第一巻では地域主体形 成と地域形成を取り巻く地球化の問題、第二巻では地域認識をめぐる諸問題、そして第三巻 では地域を広域で統合する帝国論や地域を跨ぐ跨境論が取り上げられています。各巻の目次 は後出の通りです。
第一巻は1月24 ~ 26 日の東京における総括シンポジウムに合わせて発刊され、第二巻及 び第三巻も引きつづき2月末、3月末に刊行されます。総括シンポジウムから新年度に向け た時期に刊行できるよう、編集日程に合わせて校正を迅速に終えて下さった執筆者の方々に この場を借りて、お礼を申し上げます。
『講座スラブ・ユーラシア学』は専門書として研究の最先端の内容を盛り込んでいますが、 これから地域研究を目指そうとする大学生や大学院生の入門書として、さらには市民の手引 書ないし啓蒙書としても広く活用していただけるよう工夫されています。スラブ・ユーラシ アを考える新しい切り口として、あるいはこの地域の理解を一歩深める解説書として、様々 な読者の方々にお読みいただけるものと思います。
また幅広い読者の方々に購入していただくため、価格設定も2,000 円前後としています。第 一巻を手にしたあるジャーナリストが、その値段を見て驚嘆していましたが、これは国立大 学が法人化されたことを活用した結果です。つまり大学が出版社と共同出版することが可能 となったのです。通常の出版助成が結果として書籍価格を引き上げてしまい、事実上、研究 者や学生が学術書を購入できなくなっている現実を改善する新機軸となるのではと考えてい ます。北大出版から発行している『スラブ・ユーラシア叢書』も同じ方式で刊行しています。
ちなみに、表紙に使われている写真はいずれも「腕に覚えのある」センターのスタッフが 自ら撮影したもの、あるいは収集したものをもとにしています。ともあれ、皆様から忌憚の ないご批評、ご批判をいただければ幸いです。
第一巻「開かれた地域研究へ:中域圏と地球化」(編集担当:家田修) | |||
序章 |
スラブ・ユーラシア学とは何か |
(家田修) |
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第一部 中域圏とは何か |
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第1章 |
中域圏:地球化時代の新しい地域研究 |
(家田修) |
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第2章 |
空間の科学:政治研究のツールとしての中域
圏概念 |
(松里公孝) |
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第二部 地域はどう自らを構築するか |
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第3章 |
戦略としての地域:世界戦争と東欧認識をめ
ぐって |
(林忠行) |
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第4章 |
地域概念の構築性:中央ヨーロッパ論の構造 |
(篠原琢) |
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第5章 |
地域研究と言語学:Balkanの用法から
バルカンを探る |
(三谷惠子) |
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第6章 |
歴史の中のコーカサス「中域圏」:革新され
る自己意識と閉ざされる自己意識 |
(前田弘毅) |
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第三部 地球化とどう向き合うか |
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第7章 |
ユーラシアとアジアの様々な三角形:国境政
治学試論 |
(岩下明裕) |
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第8章 |
地球化と地域経済統合:CIS
を中心として |
(田畑伸一郎) |
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第9章 |
スラブ・ユーラシアにおける農業問題と地球化
:旧ソ連諸国のWTO加盟問題をめぐって |
(山村理人) |
第二巻 「地域認識論:多民族空間の構造と表象」(編集担当:宇山智彦) | |||
序章 |
地域認識の方法:オリエンタリズム論を超えて |
(宇山智彦) |
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第一部 史料・芸術から見る地域 |
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第1章 |
中央アジアとイラン:史料に見る地域認識 |
(木村暁) |
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第2章 |
ロシア的風景の発見: 風景画のトポス |
(福間加容) |
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第3章 |
現代中欧文学と地域アイデンティティ:<中
(東)欧意識>の再検討の試み |
(沼野充義) |
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第二部 民族/民俗文化と地域 |
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第4章 |
北ロシアのフォークロア:シュクリンの異称か
ら見る多民族文化の接触 |
(塚崎今日子) |
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第5章 |
生業文化類型と地域表象:シベリア地域研究に
おける人類学の方法と視座 |
(高倉浩樹) |
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第6章 |
カルムイク人とブリヤート人の民族意識:「モ
ンゴル」認識と「独自の道」 |
(荒井幸康・井上岳彦) |
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第三部 国家と地域の相互作用 |
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第7章 |
露清関係とカザフ草原:帝国支配と外交の中の
地域認識 |
(野田仁) |
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第8章 |
ロシア帝国のムスリムにとっての制度・地域・
越境:タタール人の場合 |
(長縄宣博) |
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第9章 |
ヨーロッパ人になろう!:「祖国」としてのエ
ストニアと地域認識 |
(小森宏美) |
第三巻「ユーラシア―帝国の大陸」(編集担当:松里公孝) | |||
序章 |
帝国と心象地理、そして跨境史 |
(松里公孝) |
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第一部 帝国論 |
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第1章 |
境界地域から世界帝国へ:ブリテン、ロシア、
清 |
(松里公孝) |
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第2章 |
ベッサラビアからみるロシア帝国研究と跨境論 |
(志田恭子) |
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第3章 |
帝国と詩人:「ソ連多民族文化」とダゲスタン
のアヴァル語作家ラスル・ガムザトフ |
(中村唯史) |
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第二部 空間表象(心象地理) |
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第4章 |
ロシアの空間イメージによせて |
(望月哲男) |
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第5章 |
現代ロシアの歴史改変小説における帝国イメー
ジについて |
(越野剛) |
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第6章 |
内なる境界:ロシアユダヤ人の地理空間 |
(高尾千津子) |
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第三部 跨境史 |
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第7章 |
ベラルーシ国民史におけるユニエイト教会の逆
説 |
(服部倫卓) |
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第8章 |
ハルビンのロシア人社会 |
(中嶋毅) |
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第9章 |
華商紀鳳台:ロシア帝国における「跨境者」の
一例 |
(麻田雅文) |