スラブ研究センターニュース 季刊 2007 年冬号No.108

学界短信


中東欧研究国際学会(ICCEES)第8回世界大会 (2010 年、ストックホルム)への参加の訴え

松里公孝( 日本ロシア・東欧研究連絡協議会(JCREES)日本代表)

2005 年7月25-30 日にベルリンで開催された国際中欧・東欧学会の第7回世界大会は、盛 況のうちに終わりました。2010 年の第8回世界大会は、7月26-31 日にストックホルムで開 催されることがすでに決定されており、北欧の同僚を中心に準備が進められています
http://www.iccees2010.se)。 この大会において、日本の研究者がおこなう報告、および日本の研究者が組 織するパネルの数が増えるよう呼びかけます。

日本のスラブ・ユーラシア学界は、アメリカ合衆国に次ぐ世界第2の規模を誇り、それに 見合った分担金をICCEES に納めていますが、国際的な研究発表という点では微々たる貢献 しかしていません。私が正確に数えたわけではありませんが、約400 あったベルリン大会の パネルのうち、日本人が組織したパネルは数個にすぎず、約1200 本のペーパーのうち、日本 人によって発表されたのは10 本程度でしょう。これでは、日本におけるスラブ・ユーラシア 研究の水準が疑われても致し方ありません。

良し悪しは別として、ICCEES の大会においては、パネルの登録に際しての内容審査は事 実上おこなわれていません(つまり、希望さえすればパネルを組織することができるのです)。 また、多数の非英語国民の参加を前提としているので、報告に当たってAAASS の大会のよ うにある程度高い水準の英会話能力が求められるわけでもありません。ICCEES の世界大会 は、いわば、気軽に業績の国際化ができる場なのです。

現在、スラブ研究センターは、ストックホルム大会において少なくとも9つのパネルを組 織すべく研究を進めています。この輪を広げ、日本人全体で少なくとも2~ 30 のパネルを組 織し、50 本程度のペーパーを発表すれば、手始めとしては何とか日本人の面目が立つと思い ます。おかしな心理的な障壁のために、日本のスラブ・ユーラシア研究が実力にふさわしい 評価を受けないというような事態が続いてはなりません。日本の研究者が、自分の内外の協 力関係を生かしながら、2010 年に向けて備えるよう訴えるものです。


ウッドロウ・ウィルソン・センター/ケナン研究所およびハー ヴァー ド 大学デイヴィス・センターとのジョイント・セミナー

21 世紀COE プログラム 「スラブ・ユーラシア学の構 築」が始まって以降、スラブ 研究センターは、毎年、3か ら5のパネルを米国スラブ研 究促進学会(AAASS) の年次 大会で組織しています。今年 はそれに加え、大会がワシン トンDC で開かれるという地 の利を利用して、上記の二つ の研究所がセミナーを組織し て、スラブ研究センター代表 団に報告の機会を与えてくれ ました。ワシントン(11 月15 日)では、家田、田畑、ウル フ、前田、そして松里が、ハー ヴァード(11 月20 日)では、上記のうちAAASS の直後ロシアに移動した前田を除く4名が、 主に、21 世紀COE の成果を集約するような形で報告をおこないました。

kennan
デイヴィス・センターでのセミナーのようす

ケナン研究所、デイヴィス・センターとスラブ研究センターとは、姉妹研究所のような関 係にありますが、ここ数年間、共同プロジェクトをおこなってきませんでした。今回の訪問 中に、ケナン研究所とはロシアの諸宗教に関する共同研究を、デイヴィス・センターとは、 ①アジアにおけるロシアの役割、ロシアのアジア部における移民、環境問題に関する米ロ日 中4国共同研究、②ソ連の民族信教関係に関する旧ソ連アーカイヴ史料の共同出版に関する プロジェクトを発足させることで大方の合意が形成されました。

[松里]

学会カレンダー

2007年

2月22−23日
国際 ワークショップ「地域大国ロシア: その国際的地位と2007-08 年選挙サイクル」 於スラブ研究センター(記事参照)
6月2−3日
比較経 済体制学会第47 回全国大会 於富山大学 
詳しい情報はhttp://wwwsoc.nii.ac.jp/jaces/index.html
7月4−6日
スラブ 研究センター夏期国際シンポジウム
2010年

7月26−31日
ICCEES (国際中東欧研究協議会)第8回世界会議 於ストックホルム(記事参照)

センターのホームページ(裏表紙参照)にはこの他にも多くの海外情報が掲載されています。

[大須賀]

図書室だより

参考図書の遡及入力

ニュース106 号(2006.7) で、シェベロフ・コレクションの目録作成の進捗についてお知ら せしました。これは、国立情報学研究所が募集した遡及入力支援事業の一環として、目下進 行中ですが、オンライン目録未入力分が多いセンター参考図書室所在資料の遡及入力を、今 回の事業の一部として抱き合わせで進めていただくことができましたので、報告します。

これによって、図書室の収集資料のうち、図書については、過去の分も含め、ほぼ全部が オンライン目録で検索できるようになりました。これで、われわれの抱える次なる目録上の 宿題の相手は、一部の逐次刊行物類およびマイクロ資料ということになると考えます。

[兎内]


ウェブサイト情報

 2006年10月から2006年12月までの3ヵ月間における、センターのホームページへのアクセス数(但し、gif・jpg等の画像形式ファイ ル を除く)を統計しました。

[山下]


全アクセス数
(1日平均)
うち、
邦語表紙
アクセス数
(1日平均)
うち、
英語表紙
アクセス数
(1日平均)
国内からの
アクセス数
(%)
国外からの
アクセス数
(%)
不明
(%)
10月 304,427(9,820) 15,276(493) 2,988(96) 91,473(30%) 170,591(56%) 42,363(14%)
11月 318,176(10,606) 15,352(512) 2,877(96) 80,842(25.4%) 185,846(58.4%) 51,488(16.2%)
12月 365,239(11,782) 14,195(458) 3,068(99) 84,608(23%)
237,304(65%) 43,327(12%)



編集室だより


スラヴ研究

『スラヴ研究』第54 号は、審査の結果、以下の原稿を掲載することになりました。2007 年春の刊行予定で作業を進めています(掲載順は未 定)。

<論文>

久野康彦
 実証主義の彼岸:И.С. ツルゲーネフの中編『クララ・ミリッチ(死後)』における写真のテーマ
佐藤圭史
 ソ連邦末期における民族問題のマトリョーシュカ構造分析: リトアニア・ポーランド人問題のケーススタディ
鶴見太郎
 ロシア帝国とシオニズム :「参入のための退出」、その社会学的考察
鳥山祐介
 エカテリーナ二世の「壮麗なる騎馬競技」とペトロフの頌 詩:近代ロシア国家像の視覚化に向けた1766 年の二つの試み
前田しほ
 「女性のエクリチュール」としてのВ. ナールビコワのテクスト:境界撹乱の戦略について
<研究ノート>

大野成樹
 ロシアにおける石油・ガス企業と銀行
シュラトフ・ヤロスラブ
 朝鮮問題をめぐる日露関係(1905-1907)
原田義也
 レーシャ・ウクラインカ再読:ウクライナ文学におけるナ ショナル・アイデンティティ
森田敦子
プーシキン『スペードの女王』の比較文学的考察:スタンダール『赤と 黒』・バルザック『あら皮』『赤い宿屋』との対比

今回も最終的には力作揃いとなりましたが、22 本の投稿のうち9本の掲載で、本誌が本格 的なレフェリー制に移行して以来最低の採択率となってしまいました(審査の過程で執筆者 が投稿を撤回したケースもあります)。全く問題外の投稿が多かったというわけでは決してな いのですが、何とか書き直しを条件に採択できないかと関係者で頭をひねりながらも、短期 間での修正を求めるのはやや無理があると判断せざるを得ないケースが続出しました。本誌 は、機械的に採否を決めて掲載するよりも、査読者や編集委員のアドヴァイスによって原稿 を磨き上げる方針であるだけに、残念な結果でした。

今後投稿される方のために、近年の複数の投稿に共通して見られた問題の例を挙げておきます。

全体的に、論文執筆のためにおこなっている作業の量は一昔前よりも恐らく増えているの ですが、外国語テクストの正確な読解力、論理的な構成能力、文章力といった基礎の部分で 問題のあるケースが見られます。大学院生・若手研究者の競争が激しくなる中で、短期間に 業績をあげることが求められているという事情は分かりますが(それは私たちが大学院教育 で直面している問題でもあります)、そのような状況だからこそ、しっかりした基礎の上に立っ た豊かな構想力によって論文を書くことが必要だと言えるでしょう。

今後も引き続き、力作の投稿をお待ちしています。ベテラン・中堅の研究者も積極的にご 投稿ください。次の第55 号の原稿締め切りは、2007 年8月末の予定です。センターのウェブ サイトで投稿規程・執筆要領(改定を予定しています)をよく読んで投稿してください。

[宇山]

会 議(2006年10月−2007年1月)

センター運営委員会

2006年度 第2回 12月15日
議  題 1.ス ラブ研究センターの研究活動及び運営について

2. 2007 ~ 08 年度共同研究員の委嘱について

3. その他
  報告事項
1.特 別教育研究経費の申請について

2. COEの今年度の活動実績と来年度の予定について

3. 2007年度科学研究費補助金の申請状況について

4. その他

みせらねあ

岩下明裕氏が第6回大佛次郎論壇賞受賞

北方領土問題

第6回大佛次郎論壇賞(朝日新聞社主催)が岩下明裕著『北方領 土問題:4でも0でも、2でもなく』(中公新書、 2005 年)に贈られ ることが12 月13 日の『朝日新聞』で発表されました。 同賞は、「日本の論壇の活性化に寄与し、また、21 世紀の針路を指 し示す一助になることを目指し」、2001 年1 月に設けられたものです
 (http://www.asahi.com/shimbun/award/osaragi/)。

贈呈式は2007 年1月29 日午後4時半、東京・帝国ホテルでおこ なわれます。


[編集部]

人物往来

 ニュース107号以降のセンター訪問者(道内を除く)は以下の通りです(敬称略)。

[松里/大須賀]
10月20日
ガディ (Clifford Gaddy)(ブルッキングス研究所、米国)
10月30日
木村護 郎クリストフ(上智大)
10月31日
レヴェ ンティス(Yiorghohs Leventis)(在スコピエ ニューヨーク大、マケドニア)
11月8日
リーク (Kadri Liik)(国際防衛研究所、エストニア)
12月2-3日
安達祐 子(上智大)、上垣彰(西南学院大)、上野俊彦(上智大)、佐藤圭史(九州大・院)、
杉浦史和(一橋大)、津田憂子(早稲田大・院)、長谷直哉(慶応大・院)、溝口修平(東京大・院)
12月6日
新納宏 (国際協力機構)
12月11日
マイ テーニ(Majtenyi Balazs)(ハンガリー科学アカデミー法学研究所)、シュヨク(Sulyok Gabor)(同)
12月13-16日
アク サートヴァ(Sada Aksartova)(学振特別研究員[ 東大])、趙宏偉(Chou Koui)(法政大)、 マゴメドヴァ(Dina Magomedova)(ロシア人文大)、バイビコフ(Elena Baibikov)(京都大・ 院)、バッシン(Mark Bassin)(バーミンガム大、英国)、ダリエヴァ(Tsypylma Darieva)(フ ンボルト大、ドイツ)、ドブレンコ(Evgeny Dobrenko)(ノッティンガム大、英国)、イーリー (Christopher Ely)(アトランティク大、米国)、ガスパーロフ(Boris Gasparov)(コロンビ ア大、米国)、グレチコ(Valerij Grechko)(東京大)、ホカンソン(Katya Hokanson)(オ レゴン大、米国)、賈慶国(Jia Qingguo)(北京大、中国)、ラーニン(Boris Lanin)(ロシ ア教育アカデミー)、ラザリ(Andrzej Lazari)(ウッチ大、ポーランド)、メーリニコヴァ(Irina Melnikova)(同志社大)、ミラー(James Millar)(ジョージ・ワシントン大、米国)、ノヴィ コヴァ(Irina Novikova)(ラトヴィア大)、ザミャーチン(Dmitry Zamyatin)(ロシア人文 大)、池本修一(日本大)、諫早勇一(同志社大)、石井明(東京大)、石田信一(跡見学園女 子大)、岩田賢司(広島大)、上垣彰(西南学院大)、宇多文雄(上智大)、梅津紀雄(東京国 際大)、大石和欣(放送大)、貝澤哉(早稲田大)、川村明海(龍谷大・院)、木寺律子(大阪 外国語大・院)、木村崇(京都大)、黒岩幸子(岩手県立大)、鴻野わか菜(千葉大)、郡伸哉 (中京大)、小森宏美(京都大)、斉藤久美子(和歌山大)、篠田優(北星学園大)、鈴木博信(桃 山学院大)、仙石学(西南学院大)、武田昭文(富山大)、楯岡求美(神戸大)、田村慶子(北 九州市立大)、鳥山祐介(学振特別研究員[ 早稲田大])、中居良文(学習院大)、中澤敦夫(富 山大)、中島祟文(学習院女子大)、中野潤三(鈴鹿国際大)、中村唯史(山形大)、中山大将(京 都大・院)、西村可明(一橋大)、沼野充義(東京大)、野中進(埼玉大)、乗松亨平(学振特 別研究員[ 東大])、袴田茂樹(青山学院大)、浜由樹子(津田塾大)、福間佳容(大阪外大)、 三船恵美(駒沢大)、六鹿茂夫(静岡県立大)、湯浅剛(防衛研究所)、吉田修(広島大)、渡 邊昭子(大阪教育大)



研究員消息



スラブ研究センター ニュース No.108 index