T.概要

T−1.はじめに

 「ソ連経済統計データベース(Soviet Economic Statistical Series; 略称SESS)」は、主として、ソ連・ロシア経済の基本資料であるソ連・ロシアの公式統計を収録したデータベースである。
 ソ連・ロシア経済の実証分析を行う場合、まず初めにデータを収集・整理しなければならない。ソ連の経済統計には、@ソ連政府の統計数字の発表が不十分であるため、利用しうる統計データ量が絶対的に不足している、A統計方法の変化や政策の変化などを反映して、一つの項目について長期間継続的にデータが公表されるとは限らない、B社会主義国特有の統計方法が取られていて、西側諸国の統計と比較できない、など様々な問題があり、実証・計量分析に入る前のデータ整理の段階で多大の労力が必要とされてきた。一方、従来日本では、ソ連経済の公式統計を体系的に整理する作業が行われておらず、個々の研究者が個別的にデータの収集・整理を行ってきた。このため、こうした作業が並行的に重複して行われるだけで、データに関する検討が次第に深められることもなかった。SESSはこのような状況を打破することを目的に、全国の研究者への公開を原則に、作成されたのである。
 近年は、さらに、ソ連の解体、ロシアの市場経済化の動きのなかで、@ソ連からロシアへと統計単位が変化した、Aデータ公開が進展し、情報量の量的・質的拡大、情報源の多元化が顕著となった、B統計方法の国際化がはかられている、などの変化が生じている。現在、SESSはこのような状況変化への対応を求められている。

 SESS作成作業は、1986〜1987年度科学研究費補助金一般研究(B)「ソ連経済のマクロ政策モデルの作製とその応用研究」(代表者 望月喜市) により始められた。その後、北大スラブ研究センターSESS作成委員会が設けられ、1988年度および1990〜1995年度科学研究費補助金「研究成果公開促進費(データベース)」によって大幅にデータが拡充されている。この委員会を構成する現在の委員は、田畑伸一郎(委員長)、村上隆、山村理人(以上、北大スラブ研究センター) 、荒又重雄、嶺野幸子(以上、北大経済学部) 、久保庭真彰(一橋大経済研究所) である(1993年度まで北大スラブ研究センターの望月喜市が委員長を務め、1991年度まで北大経済学部の是永純弘が委員を務めた)。また、北大大型計算機センターからデータベース開発(維持)に対する助成金を1986年度以降毎年度受けている。


T−2.データの特徴

(1)出所
 収録した出所は、主として、ソ連・ロシア公式統計、とくに『ソ連国民経済統計年鑑』、『ロシア国民経済統計年鑑』、『ソ連貿易統計年鑑』である。これらのソ連・ロシア公式統計のデータを原則として何ら加工することなく収録した。日ソ貿易に関しては、ロシア東欧貿易会の資料が利用されている。詳しくは、
本マニュアルU−1参照。
 参照する統計集の間で数値に食い違いがある場合は、より新しい統計集を優先するという原則が取られている。この原則が破られている例外的なケースや、重要な食い違いがみられるケースについては、本マニュアルU−3の注釈に記している。

(2)内容および構成
 ソ連・ロシア経済の重要な側面がほぼ網羅されるようにデータを収録している。データは次の7つのSectionに大きく分けられる。現在、ソ連のSection 7の貿易の項目数が著しく多くなっている。さらに詳しい構成は本マニュアルU参照。

[ソ連]
Section 1. Gross Social Product & National Income
Section 2. Statistics by Branch
 Section 3. Capital Formation, Investment & Construction
Section 4. Population, Labor & Wages
Section 5. Material Welfare
Section 6. Money & Finance
Section 7. Foreign Trade

(3)期間
 データはすべて年次データであり、期間は1940年以降現在までである。
 ストック統計は原則として年末の値である。ただし、人口統計は年初の値である。詳しくは本マニュアルU−3参照。

(4)コード番号
 各項目にはコード番号が付けられている。コード番号は13桁からなり、先頭の記号はSがソ連のデータ、Rがロシアのデータであることを示す。以下の12桁の数字は、基本分類を示すCODE1(3桁)、属性(名目、実質、指数など)を示すCODE2(1桁)、部門分類を示すCODE3(6桁)、商品分類を示すCODE4(2桁)の4つに分かれている。貿易の商品別データに関しては、貿易の商品分類番号が利用されている。詳しくは本マニュアルU−2参照。

(5)項目名・単位・出所の記述
 各項目は項目名・単位・出所とともに収録されている。項目名・単位・出所は英語あるいはカタカナで記されている。なお、字数の制限により、項目名にはかなり省略したところがある。項目名・出所で用いられている略語については本マニュアルU−5参照。とくに、実質、名目、指数の区別は、項目名の最後に付したR、N、Sで示されている。


T−3.データベースの公開方法

 SESSは、当初は、大型計算機センターを利用して作成された。しかし、@SESSを利用して、パソコンで表を作成するケースが多い、Aパソコンの性能向上により、従来大型計算機を利用しなければ行うことができなかったような計算もパソコンで可能になった、B同じくパソコンの性能向上により、パソコンでもかなり大量のデータを管理できるようになった、などを考慮すると、データベース自体をパソコンで作成する方が効率的であるという結論に達した。そこで、1995年度からは基本的にパソコンベースでデータベースを作成することとなった。
 また、1995年度にはスラブ研究センター内にパソコンLANが構築され、SESSはこのネットワーク上に載せられた。したがって、このネットワークの利用者は、直接、検索などを行うことができる。
さらに、1996年度より、スラブ研究センター内に独自のインターネットWWWサーバーが設けられ、センターのホームページが開設されたのに伴い、インターネット上でSESSが公開されることが決められた。


T−4.データベースの形式

 SESSのデータは、1つのファイルに収められているのではなく、関連するデータごとに異なるファイルに収められている。たとえば、コードの上4桁がS111のデータは、S111.CSVというファイルに収められている。データとファイルの対応は、本マニュアルUに示されている。
これらのファイルはすべて、CSV形式のもので、エクセルやロータス123等の市販のアプリケーションで容易に読み込むことができる。
 各項目のデータは、コード、項目名、単位、出所、数値データ(1940年から現在まで)の順に収められている。


T−5.データの引用・利用についての注意

 SESSを利用した研究を公表する場合は、その旨を記して、抜刷を1部スラブ研究センターSESS作成委員会宛に送っていただきたい。また、データの点検には万全を期しているが、なお残されている誤りや
データの注釈(本マニュアルU−3)についての問題点など、気付いた点は連絡願いたい。このほか、SESSに関する意見、要望、提案、アドバイスなどをお寄せいただきたい。
 SESSについて紹介している論文としては、田畑伸一郎・嶺野幸子「ソ連経済統計データベース(SESS)とその利用法」『北海道大学大型計算機センター・ニュース』Vol.19, No.2(1987年5月), pp.30-50がある。ただし、これは大型計算機センターを利用してSESSを作成していた時期のものである。