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ワシントンDC出張報告

安 達祐子 (上智大学)

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 2011年11月17日から22日まで、新学術領域研究「ユーラシア地域大国の比較研 究」の一環として、ワシントンDCに滞在した。目的はASEEES(Association for Slavic, East European, and Eurasian Studiesスラブ東欧ユーラシア学会、AAASSから改称)の年次大会でのパネル報告、およびジョージワシントン大学(GWU)で開催されたセミナー での報告であった。

 ASEEESへの参加は今回が初めてだった。かねてから11月になると、AAASSの プログラムを眺めながら渡米したいという思いを募らせていたのだが、今年は幸いにもこの時期の出張が可能となった。17日から21日までの大会で、興味深 いパネル(セッション)がぎっしり詰まっていた。初参加ということもあってか、論文は読んでいるがこれまでその姿を目にしたことがない研究者の話を生で聞 けるという楽しみもあり、プログラムを手にしながらどのパネルに行こうかワクワクと迷いっぱなしだった。(行きたいパネルが決まったにもかかわらず、開催 会場のつくりが複雑で、目的地にたどり着くのにも迷ってしまったが…。)特に楽しみにしていたパネルは朝一のものが多かったが、8時開始にもかかわらず、 どれも盛況だった。

 さて、自身のパネル報告について。これには心配事項が2つほどあった。一つ目はプログ ラムに急きょ変更が生じたこと。パネル(“Politics in Regional Powers: Russia, China and India”)は3つの報告によって構成され、もともと私は「ユーラシア地域大国の比較研究」の成果として大阪経済法科大学の大串敦さんとの共著ペーパー の共同報告を予定していた。だが、直前になり同じパネルで報告を予定していた研究者の方が諸般の事情により参加が難しくなったため、代わりに私が一つ独立 した報告をすることになってしまった。突然の展開にうろたえながら、なんとか持ちネタ(最近やっと出版できた単著)をベースにしたもので対応することがで きた。2つ目の心配事はパネルの日時だった。幸か不幸か最終日の最終時間帯に割り当てられたのだ。最終日が日曜日だったので、多くの参加者は報告や討論な どそれぞれの出番を終え、帰路に向かう人々が多かった。しかも裏番組で相当面白そうなパネルが同時並行であり、最終日まで残った聴衆がそちらのほうに流れ ることが想像できた。ただ、実際にふたを開けてみると…。大入り満員というわけではなかったがオーディエンスの皆さんの反応がとてもアクティブで、パネル を組織してくださったスラブ研究センターの松里公孝先生のディスカッションとGWUのHenry Hale氏のチェアのもと、質疑応答も大いに盛り上がった。

 というわけで、心配事もパネルが終わってしまえば良い思い出となり、今回の ASEEES参加は実り多きものとなった。巡った数々のパネルは全般的に質の高いものが多く、大変勉強になった。また、いろいろな出会いがあった。これま で名前だけは知っていた研究者たちとの出会いをはじめ、大学院時代にお世話になった人々との懐かしい再会、また私のことを論文などを通じて知っていると 言ってくれた人々と出会えたのは嬉しい驚きだった。なんだか今回すっかり刺激を受けてしまった私は、来年はできれば今回知り合った研究者とパネルを一緒に やろうとこっそり心に決めたのでした。

 ASEEESでの報告の翌日、新学術領域研究「ユーラシア地域大国の比較研究」と GWUのエリオットスクールとのジョイント企画としてセミナーが開催された。題して“China, Russia, and the Existing World Order: Seeking to overthrow the status quo or merely pursuing advantage within it?”。報告については、「ユーラシア地域大国の比較研究」第2班より松里先生、大串さん・安達報告、第3班より田畑伸一郎先生、金野雄五さん報告とい う4本立てで、これにコメンテータとしてエリオットスクールのIERES(欧州ロシアユーラシア研究所)より Marlene Laruelle氏、アジア研究所であるSigur CenterよりDeepa Ollapally氏、そしてGWビジネススクールよりJiawen Yang氏が参加した。プログラム詳細についてはGWUが立派なフライアーを作成しているのでそちらをご参照いただきたい:(http: //www.gwu.edu/~ieresgwu/assets/docs/11.21.11_Panel.pdf)。GWUでもロシア・中国・インドを 含む大国比較プロジェクトを行っていることを今回初めて知ったのだが、ユーラシア地域大国を対象とした比較研究への関心が高いことがセミナーに出席してく ださった聴衆のリアクションからもうかがうことができた。学生や研究者をはじめ、ジャーナリストやシンクタンク、NGO関係者が出席し、セミナー直後に軽 くレセプションがあり、意見交換の時間が設けられた。

 このたびの「ユーラシア地域大国の比較研究」とGWUとのジョイントセミナーは、スラ 研の松里先生や田畑先生のご尽力のもと実現したのであるが、その実現プロセスを一部なりとも垣間見ながら強く再認識したことがある。こうした企画の実現に は、研究能力はもとより、グローバルな発信力・交流力・コーディネーション力を備え付けることがホントに重要だな…と。つまり、今回のようなコラボ企画を 成功させるためには、相手とのコンスタントな交流が必要だし、ネットワークをつくるためには自分の研究を常に発信していないと相手に認知されない。企画を 実現するためにはコーディネーション力がないとだめ。また、そういった企画によって研究の発信の機会を設けることができ、そういう研究会を通して新しい交 流も生まれるが、築いたネットワークはメンテナンスしないといけない。こうして書くと、当たり前のように聞こえるかもしれないが、言うは易く行うは難し で、自らの至らなさを反省しつつ、帰国の途に就いた。

 以上のように、久しぶりに訪れたワシントンでの滞在はなにかと有意義なものとなった。 おまけ的にではあるが、GWUセミナー参加の数時間前に、カーネギー財団でロシアに関するセミナーが催されたので立ち寄ってきた。シンクタンクや国務省ス タッフからの実務的な質問が目立ち、ワシントンDCならではの雰囲気に触れることができた。さらに個人的には、2年間ほどDCで過ごした修士課程時代のこ とを思い出しながら、初心に帰ることもできた気がする。



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