2009年度冬季国際シンポジウム
「ユーラシア地域大国の政治比較」開催される

唐 亮


 12月12日(土)、13日(日)に新学術領域研究「ユーラシア地域大国の比較研究」 の第2回国際シンポジウムが、法政大学市ヶ谷キャンパス外濠校舎にて開催された。本シンポジウムは、政治班(第2班)を中心に組織されたものである。全体 のテーマは「ユーラシア地域大国の政治比較:中国、ロシア、インド、トルコ」と題し、グローバル化、自由化、情報化などを背景として、地域大国における政 治変化のダイナミズム、体制移行の実態、地方のガバナンスを明らかにし、同時に地域大国の政治比較の方法論を模索するものであった。基調講演とラウンド テーブルからなるパネル・ディスカッションと三つのセッションが用意された。

 基調講演では3人の講演者が、ソ連およびロシア、中国、インドの経験を中心として各地域大国の比較の視点を軸に、政治および経済の両面から体制変容がど のように行われたか、インド経済の著しい発展が開発経済学にいかなるインパクトを与えようとしているかを分析した。これを受けたラウンドテーブルでは、地 域大国の比較研究は何を目指すか、いかなる手法で比較研究を行うか、それぞれのフィールド、ディシプリンをもつ地域研究者が共同作業に当たっていかに連携 を行うかといった方法論的・実践的問題について議論がなされた。その結果、地域研究者は各国研究に閉じこもるのではなく、徹底的な比較検討による知的作業 を行う事が必要で、この比較によって問題を抽象化して捉える事が可能となり、さらには各国固有の特徴が導き出される事が確認されたように思う。

 第1セッション「近代化と民主主義のためのサブナショナルな単位:ロシア、中国、インドの村社会とNGO」では、地域の民主主義とキリスト教の影響との 関係に関する印露の比較分析、村のガバナンス、自治と公共財に関する中露比較研究、土地収用問題を例に社会紛争の解決方法に関する中印の比較分析が行われ た。豊富な統計データ、現地調査、事例研究に基づく成果の発表が注目された。

 宗教ほど政治的なものはない。中国の新疆問題、ロシアのチェチェン問題、インドにおけるヒンズー教とその他の宗教の闘争、そしてトルコにおけるイスラー ム主義の高揚など、地域大国の今後を占う上で宗教政治は重要な試金石となっている。第2セッション「偉大さへの鍵:地域大国の宗教政治」では、宗教・文化 の違い、特にキリスト教とアジア的価値は人権の捉え方にいかなる影響を与えているか、トルコ、ロシア、中国はイスラーム寺院およびイスラーム組織をどのよ うに管理しているか、そして南アジア地域における民族・宗教紛争と外交政策を中心とする比較分析が行われた。

 地域大国は経済開発を進め、国民の生活は底上げの形で改善されつつあるが、開発の成果は必ずしも平等に配分されていない。第3セッション「社会階層の再 編と社会的亀裂」では、ヴァムシ報告は豊富な統計データをもとに経済格差に関する中印の共通点と相違点を明らかにした。林報告は、ロシア中間層の構成と価 値観の多様性を中心に分析しながら、中国の中間層との比較を試みた。園田報告はアジアバロメータ等の調査データを中心に、中国、インド、ロシアの人々が格 差などをどのように認識しているか、どこがどう違うかの比較分析を行った。

 本シンポジウムは終始「比較」の視点に貫かれた大胆かつ意欲的な試みであった。その結果、各地域大国の個別性が浮き彫りにされると同時に、これらに共通 する普遍的特性の抽出に向けて一歩迫る事が出来たように思える。加えて二日間で国内外を問わず約150名の参加者が集まり、登壇者との間で活発な議論が交 わされ、盛況のうちに閉会の運びとなった。日本経済新聞、北海道新聞は13日に初日の講演、取材をベースにして報道記事を掲載した。中国の有力なニュース サイトも中国の新華社の配信記事を掲載した。諸報告および議論の内容は新学術領域のディスカッション・ペーパー『比較地域大国論集』などの形での出版を予 定しているが、ここで得られた貴重な知見は今後本プロジェクトを進める上で大きな財産となると確信している。


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