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 大学院ニュース     2024年3月12日

 日本ロシア文学会若手企画賞受賞ワークショップ
「〈暴力〉から問う──19-20世紀ロシア文化における暴力表象の横断的検討」
開催報告

上村正之    

2024年1月27日(土)、ワークショップ「〈暴力〉から問う──19-20世紀ロシア文化における暴力表象の横断的検討」(於スラブ・ユーラシア研究センター大会議室)が開催されました。本ワークショップは、日本ロシア文学会による公募型の若手会員支援プログラム「日本ロシア文学会若手ワークショップ企画賞」(2023年度)の受賞・助成を受けたものです。本センターの大学院からは上村、松元が報告を行いました。会場では10数名、オンラインで40名前後の方にご参加いただきました(登壇者・コメンテーターを除く)。
ワークショップの内容は以下の通りです。

T.「ロシア帝国と暴力なるもの」
上村正之(北海道大学大学院・博士後期課程)
「叙事詩的であること、暴力的であること──ゴーゴリ『タラス・ブーリバ』の受容史をめぐって」
深瀧雄太(京都大学大学院・博士後期課程)
「レスコフにおける暴力の諸相」
大崎果歩(東京大学大学院・博士後期課程)
「レフ・トルストイにおける暴力とキリスト教」

U.「戦争と革命の世紀」再考
田村太(京都大学大学院・博士後期課程)
「世紀転換期の「暴力論」とサヴィンコフ/ロープシン」
松元晶(北海道大学大学院・博士後期課程)
「戦う「周縁」──中央アジア映画に見る戦いの表象」
大月功雄(立命館大学大学院・博士後期課程)
「ロシア映画理論と戦争映画──今村太平の記録主義リアリズムをめぐって」

コメント
越野剛(慶応義塾大学・准教授)
平松潤奈(東京大学・准教授)

 ロシアの社会革命党(エスエル)の指導者・作家であるロープシン(本名ボリス・サヴィンコフ)をご専門としている田村太さん(京都大学大学院)と、ワークショップの企画を構想したのは2021年頃でした。文学上のコサック表象を研究している上村(北海道大学大学院)と共通のテーマを話し合った際、暴力というテーマが頭に浮かびました。それから2022年2月24日にロシアのウクライナ侵攻が起き、ロシア文化と暴力という問題は極めてアクチュアリティを帯びることになりました。
 2022年3月に申請書を提出した際、進行中の暴力と本ワークショップをどのように結びつけるべきかについて頭を悩ませました。しかし同時に、そもそも暴力の定義とは何か、どのような区分が可能で、どのような機能を有しているか、また表象された暴力は何を目的としているのか等、前提としてより本質的な問いが重要であるように感じられました。そして、ロシアを単に暴力的とみなすような皮相な議論を避けつつも――例えば20世紀全体が「戦争と暴力の世紀」と呼ばれました――、同時にロシア・ソ連文化に特徴的な暴力の扱いを考察する必要性も、企画段階で浮上しました。
各報告は、そうした問題意識に応じたものになったと思います。
 第一部「ロシア帝国と暴力なるもの」にて、上村報告はニコライ・ゴーゴリの文学作品を参照し、暴力表象が叙事詩というジャンルの要素を纏い、美学化される様相を論じました。深瀧報告では、ニコライ・レスコフの文学テクストにおける暴力の諸相を、暴力論の古典であるヴァルター・ベンヤミンの『暴力批判論』(1921)に関連づけて論じました。大崎報告では、非暴力の思想家であるレフ・トルストイから見た、ロシア帝国における国家的暴力の問題を取り上げました。
 第二部「戦争と革命の世紀」再考では、革命家、中央アジア、そして日本という視点から暴力について検討しました。田村報告は社会革命党の指導者ボリス・サヴィンコフによる、今日的意味とは異なる「テロリズム」の概念を論じました。松元報告では、ソ連映画における中央アジア人の表象を、とりわけ独ソ戦を題材にした作品から取り上げ、カザフ人、クルグズ(キルギス)人が表象の客体から主体にならんとする過程を追いました。大月報告では映画批評家・今村太平(1911-1986)の戦争映画批評を取り上げ、スペクタクル性を追求する日中戦争・太平洋戦争時のプロパガンダ映画を批判し、作られた暴力表象を「異化」しうる記録映画について論じる今村の批評に、日本のファシズム的状況に介入する姿勢を見いだしました。
 第一部については越野剛先生(慶応義塾大学)から、第二部については平松潤奈先生(東京大学)から、それぞれコメントと質問が発せられました。その後、会場・オンラインから質問を募り、充実したディスカッションになりました。
 今回のワークショップについて、何らかの形で報告論集を出せればと考えております。

 ワークショップ後の集合写真
ワークショップ後の集合写真



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